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三章
3-9
しおりを挟む「おまたせ」
1時間ほど待たせてしまったが、マルトはそこに居た。子供だから勝手にどこかに行ってしまわないかとも思っていたが、彼女のしっかりした性格を信じることにしたのだ。
マルトは家の前に植えられた花の近くで、棒で穴を掘って遊んでいた。あられもないガニ股で身をひくくし、穴に肩スレスレまで突っ込んで中の土を掻き出している。穴深すぎだろ。
私は自分の身体と引き換えに手に入れたナイフを持った手を上げて、彼女に見せた。男性が作ったナイフの鞘と、それを持ち歩くためのベルトも貰えた。
「本当にそれでいいのか?なんなら、しばらく待って貰えたらもっと完璧なものを........」
「いいえ、これがいいです」
私の後から玄関から出てきた男性の申し出を、冷たい口調を心掛けて断った。彼の目には先程のような頑ななものは無く、明らかに「俺のそばにいてくれ」と言わんばかりの、優しい目付きになっていた。
「どうもありがとうございました」
「あ........ああ」
事務的に告げた。彼は少し傷付いたような顔をしていた。これでいいのだ、変に期待させてはいけない。どうせ二度と会うことはないのだし、この人が求めているのは私ではなく死んだ妻だ。
初めて目が合った瞬間に察していた。嬉しさと、驚きと、愛情と、悲しみ........色んなものが綯い交ぜになったあの一瞬の表情。あれを見て私に懐かしい人の面影を見たのだと、それが解らないわけがない。
私はそれを理解した上で、自分のために彼の気持ちを利用した。
私はこれでいいのだ。最低で汚い女でいい。しかし、
「完璧じゃなくても、これはとても美しくて素晴らしい作品ですよ。宝物にしますね」
「........あぁ。ありがとう」
こうして彼に笑いかけてしまうあたり、私はまだ弱いのだろう。
「それでは、さようなら。本当にありがとうございました」
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