わたしの愛した世界

伏織

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二章

2-16

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「この三つ編みもお母さんがしてくれたの!可愛い?」

「すごく可愛い。お姫様みたい」


私が言うと、マルトは頬を緩ませた。そして


「お姉ちゃんも、すごくすごく美人だよ!
お兄ちゃんもかっこいい........、いや、可愛いよ!」

「ど、どうも........」











階段を上って入った先には、目当てとしていた町が広がっていた。崖下とは違い地面には植物が植えられ、町の向こうには森が見えた。建っている建物は、レンガ造りが多い。広さはそこまで大きくはないようだが、程よくさかえているのか人気ひとけは多い。

町の中心には円形の広場があり、そこで小さな子供達が追いかけっこをして遊んでいた。「あそこだよ!」広場に面した建物の中の一つを指さして、マルトが言った。赤い屋根、白い外壁の建物で、おそらく三階建てだろう。


宿屋に近づいていくと、甘い香りが漂ってきた。花や香水のそれではなく、お菓子を焼いているような、美味しそうな香りだ。思うところがあってクロスの方を見てみると、案の定嬉しそうな顔をしていた。疲れていても食欲はあるのか。


「何かわからないけど、........あの、アレを使うと甘い物がほしくなるんだ」

「ああ、アレね」





忘れていたが、この国は魔法使いを嫌っているのだった。アレ、とは魔法のことだろう。


「いらっしゃい」


マルトに続いて宿屋に入ると、彼女と同じ赤毛の男性が我々を出迎えた。カウンターに座り、何やら分厚い本を読んでいた様子だ。「お客さんつれてきたよ!」マルトは男性に走り寄り、勢いよく抱きついた。

立ち上がった男性が愛想のいい笑顔を浮かべ、こちらに歩いてきた。私の顔を見て一瞬、何かに気付いたように表情が固まったのが少々引っかかるが、悪意は無さそうなのでスルーしておこう。


「どうも、この宿の主人です。
うちの娘がなにか、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」

「とんでもない。むしろ私の連れの方が彼女に迷惑を掛けました」


そう言う私の横で、クロスが小さな声で「悪かったな........」と唸るように呟いた。


「部屋いてますか?一部屋で結構です」

「はいはい、実は現在ちょうど一部屋しか空いてないんです。ベッドも一つですが、それでもよろしいですか?」

「構いません。お願いします」


ベッドが一つ、と聞いてクロスが私を見るのが分かったが、無視して了承した。彼には悪いが、知らない世界の知らない町で、あまり一人になりたくない。


「安心しろよ童貞。襲ったりしないよ」

「いや、別にそこは考えてなかったけど........。どうせ僕が床に寝るんだろうなぁって」


その通りである。彼は頭がいいな。




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