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序章
しおりを挟む「ねえねえ、聞いた?」
夏休みが終わって一週間、クラスの中でも取り分け情報通(悪く言えばゴシップ好きで口が軽そう)な生徒が、両目をキラキラさせながら、面白そうにこう言った。
「中村が、夏休みに万引きで捕まったんだって!」
発信源の生徒を囲んでいた人の輪から、「えーっ!?」だとか「まじで!」だとか、何にしろ、同様に面白そうな歓声が上がった。
皆、声を潜めているつもりだが、自分の席で次の授業の教科書を机から出していた私にも、それが聞こえた。
「本当だって! 私のお兄ちゃんの友達が働いてる店でさ、化粧品盗んだって。
しかも量が多くて、全部で二万したってさ」
「化粧品て……」
「ブスには似合わないのにね!」
と、生徒の一人がわざと声のボリュームを上げて言う。 必然的に、そこに集まっていた生徒達の視線が、話題の当事者へと向かう。
教室中央の列の、私の席から二つ前の席に座る、黒髪のポニーテール。
高校一年生にしては小柄で、およそ140前半あたりの身長だ。
小さな肩が、僅かに震えているように見えた。
教室のあちこちで、思い思いの休み時間を過ごしていた生徒らも、その姿を見る。 私も見た。
この空気の殺傷力の凄いこと。
教室のほぼ真ん中に座る彼女は、如何せんクラスメイト達の視線を集めるのが容易い位置に居るわけで。 教室中の人間が彼女を見詰め、彼女はそれに怯えた。
そんな静寂の中、人の輪から一人の少女が進み出た。
少女は金髪で、しかも染めたりブリーチで色を抜いたものではない、天然物の金髪だった。 その髪と、その美貌が日本人離れした異国の雰囲気を醸していた。
「万引きしたって本当?」
気の強そうな、しっかりした声で小柄な生徒に問う。
その声に、小柄な生徒は体を緊張させて肩を縮こませた。
「化粧品って、何を盗んだの?」
「…………」
「あんたが化粧しても意味無いんだよ、中村」
小柄な生徒――――中村彩香は、近付いてくる金髪少女の存在に怯え、反射的に上半身を仰け反らした。
「なにビビってんだよブス。
お前ごときがさぁ、顔に化粧してもさぁ、他人からしたらすっげぇ迷惑なの。 わかる?」
「顔隠せよ、ブス!」
囃し立てるように、情報通の隣に居た生徒が言う。
「ブース! ブース!」
それは自然に起こった。 手を叩き、中村に向かって皆が叫ぶ。 中村の席の前に仁王立ちをする金髪少女は、誰よりも大きな声で叫んでいた。
「…………っ」
ふと、その少女の大きな双眸が、中村の二つ後ろの席に座る私を捉えた。 私は息が詰まった。
そして、促すようなその目付きに負け、手を叩いて皆と同じように、中村に向かって「ブース! ブース!」と叫んだ。
あとは、坂道を石が転がっていくように、簡単な展開だった。
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