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伏織綾美

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終章

終章1

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終章






学校が終わり、飛鳥と一緒に下校した。とし子が今日は用事で帰宅が遅くなるため、俺が飛鳥の家で料理を作らされ…………作らせていただくことになった。


ここんとこしょっちゅう二人でつるんでるからか、学校では俺達が付き合っていることになっている。なんかめんどくさいが、嫌じゃない。

付き合ってないです。もう少し彼女の胸が成長したら、多分付き合いたくなります。こんなこと考えてるってバレたら殺されるから、飛鳥には秘密だよ。


まあ噂というのは厄介だが、だからこそ楽なこともある。二人でどこかに(大抵は屋上)消えても、周りに理由を告げる必要もないし、聞かれない。
二人でスーパーで買い物してるのを学校の奴らが見ても、「付き合ってるから当然だよね」ということで、からかわれることも減る。


なので、面倒になった俺達は「あ、はい、付き合ってますー」と、適当に宣言しました。




え?俺が何か期待してるって?

まさか、んなわけないっすよぉ。

付き合ってるのを疑われて、証明するために人前でキスする妄想とか、
最初はその気はなかったのに、付き合ってるって周りに偽装するようになって、なんだか、だんだんコージローのこと……………みたいな妄想なんて、してないっすよぉ。

いやいやいやいや、ほんとほんと。

だって飛鳥おっぱい無いんだもん。


「ぎゃあ!」

「なんか、今、失礼なこと考えたろ」


スーパーで買い物をして、飛鳥の家に向かう道すがら、拳で容赦なく側頭を殴る飛鳥に殴られる俺。


「いや、別におっぱいのことなんか考えてないから」

「頭の横側の骨って、厚さ二ミリから三ミリ程度らしいよ。
うっかり私の厚さ約十五ミリの前頭骨が当たって砕けたりしないといいね」

「お前こそ背骨にうっかり俺の膝がぶつかって折れたりしないといいな」

「死ね」

「いいのか?手を繋ぐぞ?これ見よがしに、周りに見せびらかすように手を繋ぐぞ?
だって俺達“カップル”だからな?」


俺がそう言うと、飛鳥は悔しそうに顔を背けた。今度から、黙らせときにはこの手でいこうかな。


飛鳥の隣に居る西王母と、俺のカバンから覗いてる二匹の子猫が、なんとも形容しがたい、生暖かな目で見ている。やめろ、恥ずかしい。




『お二人がもし結婚しなすったら、どんなお子が生まれることやら』


シロ、お前は気が早すぎる。



「なあ」

「なんだ」

「結婚で思い出したんだが、颯斗さん達は本当に結婚したんだろうか」


あれから一週間経った。あろうことか飛鳥は、花子さんと颯斗さんを放置して、俺を無理矢理引っ張って退散した。警察に通報すると言ってたのに、どうしてか不思議に思った。

しかも、そのまま真っ直ぐに俺を自宅に返し、それから飛鳥とは三日会わなかった。学校も休んでた。


やっと登校してきたかと思えば、俺への態度は全く変わらない。だが一週間前のことについては話さない。俺が何か質問しても、適当にはぐらかされた。


飛鳥は俺を横目で見た。また、はぐらかすつもりだろうか。


「結婚したらしいぞ」

「おお」

「あとな、厳密には花子さんは誰も殺してなかった。颯斗さんに毒を盛ったのと、お前を殴っておもらしさせたぐらいしか、犯罪ととれるもんはなかった」

「おもらしとか言うな」

「颯斗さんの父親を殺したのは花子さんや晴俊さんの母親だった。ヅラのメイドも彼女を手伝ったわけだが、それは脅されてたわけだから、ヅラに免じて許されたそうだ」


半分以上ハゲだったってよ………。精一杯、メイドに同情しているように見せる努力をしているらしく、しかつめらしい暗い顔だが、口の端がピクピクしているので、多分笑いを堪えてる。不謹慎な。


「警察は?」

「一応知り合いに連絡はしたが、詳細を知ってから及び腰になったらしい。まあ、殺人未遂だから立派な犯罪なんだが、相手が街の有力者ってのもあるな」

「金で黙らされたってこと?」

「メイドには大金積んで解雇したそうだ」


警察の知り合いとやらは、金こそ受け取らなかったが、かなり情に熱い人らしく、花子さんの話を聞いて号泣したそうだ。そして彼女の精神的なものを治療するための、最高に待遇のいい心療内科を紹介した。
それだけらしい。

それだけかよ!
僕を失禁させたっていうのに!


「なに?怒りのあまり漏らしそうなの?オムツいるか?」

「うるせぇ!」


まあでも、これでいいか、とも思った。颯斗さんは死ななかったし、結婚したし。羨ましくて妬ましくて、臍で茶が沸かせそうだ。


「花子さんはその心療内科に、二日前入院した。少なくとも一年以上はそこに居ることになるだろうな。
おもらしさせられたお前には気に入らない結果だろうが、私はこれでいいと思ったよ。

 親の意志を無理矢理継がされて、本意じゃない行為をさせられてきた彼女も、ようやく好きに生きられる」




。 
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