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伍
5‐4
しおりを挟む病室に戻る。颯斗さんは不思議そうにしていた。無理もなかろう。俺も一体何だったのか理解してないもの。
大きく見開いた目で俺を見る颯斗さん。なんだその子供みたいな表情は。やめてくれ、なんか知らないがドキドキするだろうが!
「…………くぅっ!」
「痛っ」
「あ、スンマセン」
変な焦燥感にあてられ、思わずシロを投げつけてしまった。顔に。
物凄く失礼なことをしたというのに、颯斗さんはニコニコと笑顔で「大丈夫です」と。優しいな。
「なんですか?これ」
彼は膝に落ちたシロの身体に手を伸ばすと、首の後ろを掴んで持ち上げた。
『きひゃえいっ』
一体どこから出してるのか、全く解らない声を上げるは白兎。それを聞いて当然、颯斗さんは驚いた。
「喋った………?」
「そうなんです!こいつ、喋るんです!」
上手く誤魔化せばいいものを、馬鹿正直にそう言ってしまった。
焦りに焦った。しかし言葉が見つからない。なんて情けない、と呆れられそうだが、俺はその場で棒立ちのまま、アホ面ぶら下げて颯斗さんを見た。
「喋る?…………そういう人形なのかな?」
「え……………えーっと」
「でもこれ、本物っぽい」
「……………」
「あ……………」
これ、どこかで見たことある。
その呟きに、俺が更に焦ったのは言うまでもない。
よく思い出してみれば解る。シロが何処にしまわれていたのかを。何処から連れ出したのかを。
「あのミイラ、本物だったんですね」明るく言ってくる颯斗さん。あまりにも自然な様子に「…………はい」とアッサリ白状してしまう。
にしても、この人もよく気付いたもんだ。
「あ、やっぱりそうだったんだ」
「!!??」
誘導尋問かよぉぉ。
『シロでありんす!よろしくお願い致しんす!』
「よろしくお願いします。孝次郎くん、大丈夫ですよ。
別に怒ってませんから」
窃盗で訴えられる覚悟をしていたのだが、颯斗さんは別に気にしている様子はない。むしろ嬉しそうだ。
「妖怪とか、見たことなかったんです。
ずっと、見てみたいなって思ってました」
夢が叶いましたよ、と無邪気に笑う颯斗さんに、感じていた罪悪感がふと軽くなる。
って、まあ軽くなっちゃいけねぇんだけどさ。
シロが颯斗さんを守る旨を説明して、晴俊さんに見つからないようにとシロにはきつく言い付けた。
「色々と、気を使ってくれて有難いけど、僕は大丈夫ですよ。何かあっても、ここは病院だし」
洒落にならねぇよ。
「一応です。話し相手にもなりますし」
「ええ………。ところで、飛鳥さんは?」
「おっと、忘れてた」
あいつ今、野放しだった。
今頃、もしかしたら腹を空かせて、道端の草でも食べてるかもしれない。
「すいません、もう帰ります」
「はい、さようなら。飛鳥さんによろしく」
「………。わかりました」
颯斗さん、まさかとは思うが、飛鳥が好きなのか?飛鳥の名前を出す度に、少し嬉しそうな気がするぞ。
「…………」
なんか、ちょっと腹立つ。ちょっとだけ。ちょっとだよ、ちょぉぉぉぉぉっとだけね。
不思議そうに首をかしげる颯斗さんに会釈をし、病室を後にした。
。
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