examination

伏織

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病室に戻る。颯斗さんは不思議そうにしていた。無理もなかろう。俺も一体何だったのか理解してないもの。


大きく見開いた目で俺を見る颯斗さん。なんだその子供みたいな表情は。やめてくれ、なんか知らないがドキドキするだろうが!


「…………くぅっ!」

「痛っ」

「あ、スンマセン」


変な焦燥感にあてられ、思わずシロを投げつけてしまった。顔に。

物凄く失礼なことをしたというのに、颯斗さんはニコニコと笑顔で「大丈夫です」と。優しいな。


「なんですか?これ」


彼は膝に落ちたシロの身体に手を伸ばすと、首の後ろを掴んで持ち上げた。


『きひゃえいっ』


一体どこから出してるのか、全く解らない声を上げるは白兎。それを聞いて当然、颯斗さんは驚いた。


「喋った………?」

「そうなんです!こいつ、喋るんです!」


上手く誤魔化せばいいものを、馬鹿正直にそう言ってしまった。

焦りに焦った。しかし言葉が見つからない。なんて情けない、と呆れられそうだが、俺はその場で棒立ちのまま、アホ面ぶら下げて颯斗さんを見た。


「喋る?…………そういう人形なのかな?」

「え……………えーっと」

「でもこれ、本物っぽい」

「……………」

「あ……………」


これ、どこかで見たことある。
その呟きに、俺が更に焦ったのは言うまでもない。

よく思い出してみれば解る。シロが何処にしまわれていたのかを。何処から連れ出したのかを。


「あのミイラ、本物だったんですね」明るく言ってくる颯斗さん。あまりにも自然な様子に「…………はい」とアッサリ白状してしまう。

にしても、この人もよく気付いたもんだ。


「あ、やっぱりそうだったんだ」

「!!??」


誘導尋問かよぉぉ。


『シロでありんす!よろしくお願い致しんす!』

「よろしくお願いします。孝次郎くん、大丈夫ですよ。
 別に怒ってませんから」


窃盗で訴えられる覚悟をしていたのだが、颯斗さんは別に気にしている様子はない。むしろ嬉しそうだ。


「妖怪とか、見たことなかったんです。
 ずっと、見てみたいなって思ってました」


夢が叶いましたよ、と無邪気に笑う颯斗さんに、感じていた罪悪感がふと軽くなる。





って、まあ軽くなっちゃいけねぇんだけどさ。

シロが颯斗さんを守る旨を説明して、晴俊さんに見つからないようにとシロにはきつく言い付けた。


「色々と、気を使ってくれて有難いけど、僕は大丈夫ですよ。何かあっても、ここは病院だし」


洒落にならねぇよ。


「一応です。話し相手にもなりますし」

「ええ………。ところで、飛鳥さんは?」

「おっと、忘れてた」


あいつ今、野放しだった。
今頃、もしかしたら腹を空かせて、道端の草でも食べてるかもしれない。


「すいません、もう帰ります」

「はい、さようなら。飛鳥さんによろしく」

「………。わかりました」


颯斗さん、まさかとは思うが、飛鳥が好きなのか?飛鳥の名前を出す度に、少し嬉しそうな気がするぞ。


「…………」


なんか、ちょっと腹立つ。ちょっとだけ。ちょっとだよ、ちょぉぉぉぉぉっとだけね。

不思議そうに首をかしげる颯斗さんに会釈をし、病室を後にした。







。 
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