examination

伏織綾美

文字の大きさ
上 下
41 / 77

4-3

しおりを挟む


「おい棒立ち侍。何やってんだよ貴様」


偉そうにふんぞりかえって、侍に再び呼び掛ける飛鳥だが、無視される。


「この私を無視するなんて、いい度胸してやがるぜ」

『処す?処す?』

「なんだそれは」

『ジャンプで読んだの』

「お前やたらコンビニでジャンプ欲しがると思ったら、変なこと覚えやがって」


西王母さんビールしか飲まない上に(飲む必要あるのかよとも思うが)ジャンプ読むの?大人なのか子供なのかはっきりしてよ。


ミキちゃんのおじいさんの名字は「早川」で、侍の居ない方の墓には「早川家之墓」と書いてある。ちなみに母方の名字なので、ミキちゃんとは名字が違う。


問題はこの侍だ。
昼間、学校からの帰りにミキちゃんが来た時にも居るそうだが、その時もこうなのか?ここに来てからずっと動かないので、もしかしたらちょっとオシャレな飾りにも思えてきたぞ。


『主さん…』


何かに気付いたシロが、前足で恐る恐る侍を差す。『目が……』と。成る程これは恐ろしい。いつの間にやら視線がこちらに向いている。目だけが俺達を捉えているのだ。

飛鳥にこれ以上刺激的なことを言われる前にと、俺は勇気を出して話しかけてみた。


「あ、あの~、……こんばんは」


無視。


「あのですね、この墓に何度か小学生の女の子が来てたと思うんですが、」


無視。


「その子のこと、追いかけてびびらせたりしませんでした?」


無視。

横目で睨み付けるだけで、彼は俺の呼び掛けを完全に無視だ。無視も立派ないじめですよ。

飛鳥は面白そうに俺の様子を見ている。早川家之墓の墓石の外側にある枠に座ってる。お前も結構な罰当たりじゃ。



その後10分くらい、侍に向かってあのー、とかすいません、とか言っても、当然無視された。
沈黙というプレッシャーに追い詰められ、何故か「今宵も月が綺麗ですね」なんて言葉も口走ってしまったが、スルーされた。飛鳥には大笑いされたが。


全く相手にされず、俺は途方に暮れた。やがてどうすべきか解らずに、侍の横顔を見詰めることしか出来なくなった。


見れば見るほど、綺麗な顔をしている。夜の闇のせいで、白い肌が蝋人形のように不気味な雰囲気を醸している。細く整った眉、口角が少し上がった唇、艶やかな黒髪は後ろで束ねて一つに結んでいる。

女性かと見紛う(みまがう)ような………。

あれ?
誰かに似てないか?




「飛鳥、この人」

「ああ。颯斗さんにそっくりだ」


現代の森家当主、病弱な美少年の颯斗さんに、とてもよく似ているのだ。


「えっと…………、どういうことっすかね」


戸惑う俺。


「他人の空似にしては気色悪いくらい似すぎだろ。ご先祖様じゃね?」


どうでもよさそうだが、何となく的を射た感じのことを言う飛鳥。

どうしたものか。この「エクストリーム墓登り」を満喫中の侍が、果たして颯斗さんとどういう関係があるのか、とても気になる。

だが、今はミキちゃんのおじいさんの件でここに来ている。森家の「呪い」とやらとも関わりは無さそうだ。

颯斗さんの話はまた次の機会に、ゆっくり調べれば良いのでは。
そんなことを考えてのんびり構えて居る俺に、飛鳥が命令を下す。


「ちょっとお前、あの墓がどこの家のか見てこいよ」


こちらがわに背を向けているため、墓石の名前が解らない。それを俺に確認しろとおっしゃる。

ただの墓なら別にいい。だが今まで記さなかった事実、侍の居る墓が、なんかでかい。
言ってしまえばここら辺の墓は、なんかでかい。

ミキちゃんのおじいさんの墓も、俺んちのご先祖様の墓と比べると、マグマとオゾン層レベルだ。なんかでかい。

あのー、墓ですよ?家じゃないんですよ?こんなに豪華にする必要あるんですか?―――と、問いただしたいくらいだ。飛鳥曰く、「ここは住宅街ならば、一等地だからな」。ミキちゃんの家が金持ちなのは解った。


「ほら、墓の周りにある枠を登って乗り越えて、前に回って確認してこい」

「罰当たりじゃないすか」

「将門公の首塚じゃねぇんだし、祟られたとしても、大事なものがもげるぐらいだろ。行けよ」


いや、もげたら大変なんですけどね。


しかし祟られるか飛鳥に危害を与えられるか、どちらがマシかと考えて、結果飛鳥に殴られるほうが嫌だった。

侍は相変わらず微動だにしないが、俺を注視している。そんな中で他人の墓に侵入するなんて鳥肌ものだが、俺は勇気を振り絞ることにした。


一度、大きな通路に戻ってから、隣の列に移動する手もあるが、時間がかかるし、その暇に飛鳥に殺される。


石で出来た枠に足を掛け、尻を乗せる。侍はピクリと眉を動かしたが、刀を抜くことは無かったので有難い。
墓の敷地内の砂利を踏み、中に侵入した。



。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イルカと一緒に異世界で無双する ~空を飛ぶイルカは移動も戦闘も万能だって? スローライフには過剰じゃないか?~

八神 凪
ファンタジー
水族館の飼育員である『斑鳩 蓮』、彼はイルカをメインに飼育をしていた。 しかしある日、水族館が台風に見舞われた。 亮はいけすに居たイルカを解放しようと外に出た際、強風により海に投げ出されてしまう。 イルカは海原へ出ることができたが、漣はそのまま海の藻屑となってしまうのだった。 だが、死んだと思われたその時―― 『オレはイルカの神だ。仲間を助けてくれたことに敬意を表し、別世界で生きれるように手配してやる』 ――妙に渋い声をした王冠とマントを羽織ったイルカにそんなことを言われた。 胡散臭い。 そう思ったが、次に目が覚めた時には地球とは違う場所で生まれ変わっていた。 『よう、レン。俺がお供についてやるぜ』 そして生前、自分が飼育していたイルカの『フリンク』が転生特典とやらでついてきた。 やはり、渋い声で喋りながら。 かくして、異世界で過ごすことになったレンは青年となり村で静かに暮らすことになる。 喋るイルカとの生活はどうなってしまうのか? ◆ ◇ ◆ 第四回ファンタジーカップ大賞に参加してます! BETやいいね、お気に入りなどよろしくお願いします!

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

【THE TRANSCEND-MEN】 ー超越せし者達ー

タツマゲドン
SF
約138億年前、宇宙が生まれた。 約38億年前、地球で「生物」が誕生し長い年月を掛けて「進化」し始めた。 約600万年前、「知識」と「感情」を持つ「人類」が誕生した。 人類は更にそれらを磨いた。 だが人類には別の「変化」が起こっていた。 新素粒子「エネリオン」「インフォーミオン」 新物質「ユニバーシウム」 新兵器「トランセンド・マン」 21世紀、これらの発見は人類史に革命を起こし、科学技術を大いに発展させた。 「それ」は「見え」ない、「聞こえ」ない、「嗅げ」ない、「味わえ」ない、「触れ」られない。 しかし確実に「そこ」にあり「感じる」事が出来る。 時は「地球暦」0017年、前世紀の「第三次世界大戦」により人類の総人口は10億人にまで激減し、「地球管理組織」なる組織が荒廃した世界の実権を握っていた。 だがそれに反抗する者達も現れた。 「管理」か「自由」か、2つに分かれた人類はまたしても戦いを繰り広げていた。 戦争の最中、1人の少年が居た。 彼には一切の記憶が無かった。 彼には人類を超える「力」があった。 彼には人類にある筈の「感情」が無かった。 「地球管理組織」も、反抗する者達も、彼を巡って動き出す。 しかし誰も知らない。 正体を、目的を、世界を変える力がある事も。 「超越」せよ。 その先に「真実」がある。

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?! 「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」 お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。 婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。  転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!  ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/11/19……完結 2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位 2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位 2024/08/12……連載開始

処理中です...