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肆
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しおりを挟む「おい棒立ち侍。何やってんだよ貴様」
偉そうにふんぞりかえって、侍に再び呼び掛ける飛鳥だが、無視される。
「この私を無視するなんて、いい度胸してやがるぜ」
『処す?処す?』
「なんだそれは」
『ジャンプで読んだの』
「お前やたらコンビニでジャンプ欲しがると思ったら、変なこと覚えやがって」
西王母さんビールしか飲まない上に(飲む必要あるのかよとも思うが)ジャンプ読むの?大人なのか子供なのかはっきりしてよ。
ミキちゃんのおじいさんの名字は「早川」で、侍の居ない方の墓には「早川家之墓」と書いてある。ちなみに母方の名字なので、ミキちゃんとは名字が違う。
問題はこの侍だ。
昼間、学校からの帰りにミキちゃんが来た時にも居るそうだが、その時もこうなのか?ここに来てからずっと動かないので、もしかしたらちょっとオシャレな飾りにも思えてきたぞ。
『主さん…』
何かに気付いたシロが、前足で恐る恐る侍を差す。『目が……』と。成る程これは恐ろしい。いつの間にやら視線がこちらに向いている。目だけが俺達を捉えているのだ。
飛鳥にこれ以上刺激的なことを言われる前にと、俺は勇気を出して話しかけてみた。
「あ、あの~、……こんばんは」
無視。
「あのですね、この墓に何度か小学生の女の子が来てたと思うんですが、」
無視。
「その子のこと、追いかけてびびらせたりしませんでした?」
無視。
横目で睨み付けるだけで、彼は俺の呼び掛けを完全に無視だ。無視も立派ないじめですよ。
飛鳥は面白そうに俺の様子を見ている。早川家之墓の墓石の外側にある枠に座ってる。お前も結構な罰当たりじゃ。
その後10分くらい、侍に向かってあのー、とかすいません、とか言っても、当然無視された。
沈黙というプレッシャーに追い詰められ、何故か「今宵も月が綺麗ですね」なんて言葉も口走ってしまったが、スルーされた。飛鳥には大笑いされたが。
全く相手にされず、俺は途方に暮れた。やがてどうすべきか解らずに、侍の横顔を見詰めることしか出来なくなった。
見れば見るほど、綺麗な顔をしている。夜の闇のせいで、白い肌が蝋人形のように不気味な雰囲気を醸している。細く整った眉、口角が少し上がった唇、艶やかな黒髪は後ろで束ねて一つに結んでいる。
女性かと見紛う(みまがう)ような………。
あれ?
誰かに似てないか?
「飛鳥、この人」
「ああ。颯斗さんにそっくりだ」
現代の森家当主、病弱な美少年の颯斗さんに、とてもよく似ているのだ。
「えっと…………、どういうことっすかね」
戸惑う俺。
「他人の空似にしては気色悪いくらい似すぎだろ。ご先祖様じゃね?」
どうでもよさそうだが、何となく的を射た感じのことを言う飛鳥。
どうしたものか。この「エクストリーム墓登り」を満喫中の侍が、果たして颯斗さんとどういう関係があるのか、とても気になる。
だが、今はミキちゃんのおじいさんの件でここに来ている。森家の「呪い」とやらとも関わりは無さそうだ。
颯斗さんの話はまた次の機会に、ゆっくり調べれば良いのでは。
そんなことを考えてのんびり構えて居る俺に、飛鳥が命令を下す。
「ちょっとお前、あの墓がどこの家のか見てこいよ」
こちらがわに背を向けているため、墓石の名前が解らない。それを俺に確認しろとおっしゃる。
ただの墓なら別にいい。だが今まで記さなかった事実、侍の居る墓が、なんかでかい。
言ってしまえばここら辺の墓は、なんかでかい。
ミキちゃんのおじいさんの墓も、俺んちのご先祖様の墓と比べると、マグマとオゾン層レベルだ。なんかでかい。
あのー、墓ですよ?家じゃないんですよ?こんなに豪華にする必要あるんですか?―――と、問いただしたいくらいだ。飛鳥曰く、「ここは住宅街ならば、一等地だからな」。ミキちゃんの家が金持ちなのは解った。
「ほら、墓の周りにある枠を登って乗り越えて、前に回って確認してこい」
「罰当たりじゃないすか」
「将門公の首塚じゃねぇんだし、祟られたとしても、大事なものがもげるぐらいだろ。行けよ」
いや、もげたら大変なんですけどね。
しかし祟られるか飛鳥に危害を与えられるか、どちらがマシかと考えて、結果飛鳥に殴られるほうが嫌だった。
侍は相変わらず微動だにしないが、俺を注視している。そんな中で他人の墓に侵入するなんて鳥肌ものだが、俺は勇気を振り絞ることにした。
一度、大きな通路に戻ってから、隣の列に移動する手もあるが、時間がかかるし、その暇に飛鳥に殺される。
石で出来た枠に足を掛け、尻を乗せる。侍はピクリと眉を動かしたが、刀を抜くことは無かったので有難い。
墓の敷地内の砂利を踏み、中に侵入した。
。
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