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伏織

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なにそのすっげぇ痛そうな喩え。 少なくともミキちゃんはブスではないが、その癒しのオーラ的なものと純粋な祖父への愛情が、飛鳥の弱点のど真ん中なのである。
 
 
「くっそぉ~、ムカつくぅ~、――――くぅぅ~」
 
 
無表情に戻っても尚、語尾が上がった奇妙な口調で淡々と悪態を吐く飛鳥の口に大福を押し付け(叩かれた)、
 
 
「ミキちゃん、とりあえず話は解った。明日俺達でその幽霊見てくるから、今日はもう遅いし、帰ろう?送るよ」
 
『コージローはロリコンだから気を付けないとねえ』
 
 
西王母がなんか言ってるが、祖父からの半端な霊力しかないミキちゃんには、女神とも呼ばれる大物のあやかしである西王母の姿も声も感知できないのだ。
 
 
「コージローはロリコンだから気を付けろよ」
 
 
なのに飛鳥が余計な代弁をするわけですよ。 お前らマジで俺に泣いて欲しいのかよ。 泣くぞ。 死に物狂いで泣くぞ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
翌日。
あれからミキちゃんを自宅まで送り、俺もそのまま帰宅した。 何故か飛鳥からの着信が携帯に殺到していたが、マナーモードにしていたので気付かなかった。
 
朝起きてやっと気づいたが、まあ後の祭りってやつだ。 元々携帯なんてそんなに触らないし、いつもこんな感じで誰かの着信やメールに長い間気付かなかったりする。
 
 
制服を着て、母親の見た目はダークマターなのに味は物凄く美味い料理を食って、なんやかんや準備してから、7時30分に家を出る。 いつも通りだ。 ね、意外と真面目に学生やってんだよ。 こう見えて実は成績もめちゃくちゃ良いんだよ参ったか。
 
 
「うおっ!?」
 
 
玄関のドアを開けた。 びっくりした。
 
門の所で仁王立ちをしてこちらを睨むセーラー服の少女が居る。 何故か怒っていらっしゃるようで、無表情なんだが目付きだけキツい。 獣だ。 獲物を狩る獲物の目代。
 
 
「なんだよ……」
 
「ぶちころす」
 
「いや、だから、なんだよ」
 
「ぶちころす」
 
 
あ、会話できねーわ。
飛鳥さん会話できねーくらいキレてますわ。
 
 
『コジロー!今日はオレら、お母ちゃんと遊ぶ約束があるから!』
 
 
飛鳥を見て状況をいち早く理解した子猫二匹は、さっさとカバンから抜け出して家の中に避難、シロはビビりながらも俺を守るかのように、前に出た。 『ひえぇ』だが気迫負けして尻餅ついた。
 
 
『コージロー、昨日大変だったのよ?飛鳥ったら珍しく料理なんかやりだして』
 
「女子力無いのに?」
 
『それで、家の中ぐしゃぐしゃ。 私が止めなかったら台所が爆発して吹き飛んでたでしょうね』
 
 
 
 
 
 
すげぇ………そこまで出来る飛鳥がすげぇ。
つーか何作ろうとしたの? そしてなんでそれが破壊に繋がったの? 知りたいような知りたくないような。
 
 
『まあ、そんなことで、まだ家の中はグチャミソだから』
 
「ほう」
 
『飛鳥にやらせたらまた何かありそうだし、コージローお願いね』
 
「いや、片付けくらい飛鳥にも……」
 
『お願いね』
 
 
ごり押しする様に言葉を繰り返す西王母。 一瞬言い返しそうになるが、彼女の笑顔に妙な威圧感を感じて止めた。
 
 
「ワタシ、学校、行く。帰り、墓、寄る。お前、ついてくる」
 
「なんで片言なんだよ。今日はダメだよ。誰かさんが散らかした台所を片付けなきゃ」
 
「いいよ、どうせもうあそこで料理は作れないもん。明日あたり何処かに改装頼むわ」
 
「台所で手榴弾か何かでも使ったのかよ」
 
 
これには西王母も俺も呆れ顔。 『た、確かにね。わたしはちょっと片付ければ大丈夫かな?って思ったけど、確かにね………。床が抜けそうだったし』おいおい、穏やかじゃねぇな。
 
 
玄関の門から出て、学校に向けて俺が歩き出すと、飛鳥もついてきた。
 
 
「なんで台所破壊したの」
 
「ん」
 
 
俺の質問に、飛鳥はしかめっ面で己の両手を見せた。 絆創膏だらけだ。
 
 
「指切った」
 
「指は切断されなかったのに台所は大破したのか?」
 
「痛くて暴れた」
 
「包丁持ってか?――――それとも斬馬刀か?」
 
「素手」
 
「この破壊神め」
 
 
いつもの無表情に戻った飛鳥だが、時々なんとなく悲しそうな目で傷だらけの手を見遣る。 上手く料理できなかったからって、そんなに悔しかったのか。
 
 
「で、明日改装頼んでからいつ台所は完成すんの」
 
「翌日」
 
「はえーよ」
 
「まあ普通の業者じゃないからな」
 
 
と、ニヤリ。 普通の業者じゃないとはまた、彼女らしいっちゃらしい。
 
 
「じゃあ今日は台所使えないのか」
 
「いつも使ってないけどな」
 
「いつも何食ってんの」
 
「霞じゃよ」
 
「お前って仙人だったのな」
 
 
真顔で言われたので思わず信じそうになったが、西王母が『毎日コンビニ弁当よ』と言った。
 
俺はそんな飛鳥が少し可哀想になり、こんな馬鹿なことを口走ってしまった。
 
 
「じゃあ、俺の家で飯食えよ」
 
 
 
 
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