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伏織綾美

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晴敏さんは飛鳥に負けず劣らずの真顔で、はっきりと言う。 そんなことを言われても、見えるもんは見えるのだから、仕方ない。
 
 
「君たちはいつもそうなのか? そうやって嘘を吐いて、周りを恐がらせるのか?」
 
「不快な思いをさせたならば謝罪します。 二度と貴方の目の前でこの様な発言はしないよう、私からもこやつにきつく注意しておくので」
 
 
あれ? なんか俺のせいにされてない?
 
 
「じつは、メイドさんの話も、こやつが私に耳打ちしてきたのです。 予想が当たったのは偶然ですよ」
 
「いい加減にしたまえ、君」
 
「大国くんです」
 
「大国くん、その歳でこういうイタズラはよくないよ」
 
 
あ、俺のせいにしてる。 間違いなく罪を擦り付けられてる。 飛鳥、お前後で覚えてろ。
 
テーブルの下で密かに飛鳥の足を踏みながら(やり返されたけど)、俺はとりあえず申し訳ないと謝った。 呆れたように見てくる晴敏さんに真実を伝えたいが、どうやらかなり幻想的なものを信じてないらしいので、恐らく何を言っても意味がない。
 
 
「ところで、今回の依頼について話を」
 
「ああ、あれか。 “呪い”とかいうやつ」
 
 
ほら、凄く馬鹿にした口調。 自分の考えしか信じない人の口調。 聞いててムカムカするだろうが、時々出てくるその口調を我慢すれば、イイ人なのだろう。 颯斗さんのことも、さっきからずっと体調を気遣っているみたいだ。 颯斗さんが椅子に座る時も、歩き出す時も、倒れそうになったら支えてやろうと、後ろで待機していた。
 
 
「颯斗はそうじゃないかと思ってるみたいだが、私は違うと思う。 呪いや幽霊なんて、人間が作り出した虚構だよ」
 
「ああ、私もそう思う時があります。 自分の罪を幽霊のせいにしたりする子供とか、どつきたくなります」
 
 
そこはどついちゃ駄目だから。 子供なんだから許してあげてよ。
 
飛鳥の仄かに危険なセリフは流して、「でも、颯斗さんの体調が悪化しているのは事実ですよね」俺は努めて控えめな口調を心掛けて言った。
 
先程の幽霊なんて居ません発言の余韻からか、晴敏さんは俺を胡散臭そうに睨んでくる。 だから俺のせいじゃないってば。
 
 
「まあ、体調悪化の原因が只の持病だと解れば、安心しますでしょ? それに、もしも何者かが画策し、彼に一服盛ってたりしているならば、その時は警察に通報。
 私達は、それを調べに来たのです。 何も本気で呪いを信じてはいません」
 
 
そこを飛鳥がフォロー。
っていうか、お前のおかげでこうなったんだがな。
 
 
「確かに……。 しかしまあ、こんな子供に何が出来るんだ」
 
 
晴敏さんは腕を組むと、椅子の背もたれに寄り掛かった。 俺にはそれが“部外者はすっこんでろや!”と言いたそうな態度に見えた。
 
 
「颯斗がどうしてもと言うから家に上げたが、私は君たちを信用してないぞ。 もしも騒ぎを起こしたりすれば、すぐに追い出すからな」
 
「大国くんは放り出して頂いて結構です。 私はご容赦頂きたい。 女の子なので、せめて丁重に追い出して下さい」
 
 
どちらにせよ追い出されるんじゃねーか。
 
  
 
 
………
………………
………………………
 
 
 
森家は30年程前から“森林出版社”を経営しており、現在の社長は晴敏だ。颯斗は作家として活動しており、ほとんどの作品は自社から出版している。
 
花子は颯斗と同い年で、彼の食事や身の回りの世話を行っている。 何故使用人に全てを任せないのかというと、晴敏が彼らを信用しない。 ついでに花子は引っ込み思案な性格のせいで中々仕事が出来ないので、颯斗の世話で暇をしないようにさせている。 晴敏は二人が恋仲になってくれたらと気を揉んでいるが、残念ながらまだそうはならないようだ。
 
 
「本当、お金持ちですよね」
 
 
初めて森家の敷居を跨いだ翌日、飛鳥は前日と同様に食堂に居た。 同じ紅茶に、今日は余計に多く砂糖とミルクを入れ、ティースプーンで丁寧に混ぜる。
 
 
「大したものではありません」
 
 
隣の親愛の位置で紅茶をすする颯斗は、謙遜してそう言う。 食堂の窓辺に飾ってある、硝子製の天使像を眺めている。
 
 
「少なくとも、普通じゃないですよ」
 
 
捉え方によっては侮辱であるが、残念ながら飛鳥にはそれを判断出来る程の社交性が無い。 学校ですら誰ともまともに話をしたことがなかった――――孝次郎と連むようになるまでは。 元々横柄なのではなく、単純に人付き合いを知らないのだ。
 
どうやら颯斗の方でもそれを敏感に感じ取っているらしく、飛鳥に普通じゃないと言われても気にせずニコニコしている。
 
 
「普通って、何なんでしょうかね」
 
 
そんな、飛鳥にも解るはずのない事も言ったりする。
 
 
「知りません。 大国くんに訊いて下さい」
 
「そうですねぇ、社会常識は大国くん、あやかし関係は飛鳥さんですよね」
 
「その通り」
 
 
と、そこで二人とも黙り、紅茶を啜る。 颯斗はわざとワンテンポ遅らせて飛鳥と同じ行動をしているのだが、飛鳥はただ「真似しやがってクソが」などと考えている。 ミラーリングという心理的な一種の“ワザ”で、相手の真似をすることで親近感を得るためのものだと知っていたからだ。 小賢しいと思ってるようだ。
 
 
「花子さん、お綺麗ですね。 でも暗い」
 
「昔からあんな感じでしたよ」
 
「生来あんな人間だなんて………。 学生時代にはぶられたろうに」
 
 
飛鳥も、人のことは言えないが。
 
 
「小中学校は僕と同じ所で、確かに一人で居るのをよく見掛けて話し掛けに行ってました」
 
「からかわれた?」
 
「ああ、はい。 付き合ってんだろー、とか言われました」
 
 
頬をほんのり染めて苦笑した颯斗を見て、飛鳥は何を思ったか「ふむ」と腕を組んだ。 「高校は違ったので?」
 
 
「僕は家庭学習で高卒の資格をとりましたが、花子は学校行ってましたね。
 たしか、飛鳥さんたちと同じ高校だったと思います」
 
 
 
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