24 / 77
貮
2-3
しおりを挟む晴敏さんは飛鳥に負けず劣らずの真顔で、はっきりと言う。 そんなことを言われても、見えるもんは見えるのだから、仕方ない。
「君たちはいつもそうなのか? そうやって嘘を吐いて、周りを恐がらせるのか?」
「不快な思いをさせたならば謝罪します。 二度と貴方の目の前でこの様な発言はしないよう、私からもこやつにきつく注意しておくので」
あれ? なんか俺のせいにされてない?
「じつは、メイドさんの話も、こやつが私に耳打ちしてきたのです。 予想が当たったのは偶然ですよ」
「いい加減にしたまえ、君」
「大国くんです」
「大国くん、その歳でこういうイタズラはよくないよ」
あ、俺のせいにしてる。 間違いなく罪を擦り付けられてる。 飛鳥、お前後で覚えてろ。
テーブルの下で密かに飛鳥の足を踏みながら(やり返されたけど)、俺はとりあえず申し訳ないと謝った。 呆れたように見てくる晴敏さんに真実を伝えたいが、どうやらかなり幻想的なものを信じてないらしいので、恐らく何を言っても意味がない。
「ところで、今回の依頼について話を」
「ああ、あれか。 “呪い”とかいうやつ」
ほら、凄く馬鹿にした口調。 自分の考えしか信じない人の口調。 聞いててムカムカするだろうが、時々出てくるその口調を我慢すれば、イイ人なのだろう。 颯斗さんのことも、さっきからずっと体調を気遣っているみたいだ。 颯斗さんが椅子に座る時も、歩き出す時も、倒れそうになったら支えてやろうと、後ろで待機していた。
「颯斗はそうじゃないかと思ってるみたいだが、私は違うと思う。 呪いや幽霊なんて、人間が作り出した虚構だよ」
「ああ、私もそう思う時があります。 自分の罪を幽霊のせいにしたりする子供とか、どつきたくなります」
そこはどついちゃ駄目だから。 子供なんだから許してあげてよ。
飛鳥の仄かに危険なセリフは流して、「でも、颯斗さんの体調が悪化しているのは事実ですよね」俺は努めて控えめな口調を心掛けて言った。
先程の幽霊なんて居ません発言の余韻からか、晴敏さんは俺を胡散臭そうに睨んでくる。 だから俺のせいじゃないってば。
「まあ、体調悪化の原因が只の持病だと解れば、安心しますでしょ? それに、もしも何者かが画策し、彼に一服盛ってたりしているならば、その時は警察に通報。
私達は、それを調べに来たのです。 何も本気で呪いを信じてはいません」
そこを飛鳥がフォロー。
っていうか、お前のおかげでこうなったんだがな。
「確かに……。 しかしまあ、こんな子供に何が出来るんだ」
晴敏さんは腕を組むと、椅子の背もたれに寄り掛かった。 俺にはそれが“部外者はすっこんでろや!”と言いたそうな態度に見えた。
「颯斗がどうしてもと言うから家に上げたが、私は君たちを信用してないぞ。 もしも騒ぎを起こしたりすれば、すぐに追い出すからな」
「大国くんは放り出して頂いて結構です。 私はご容赦頂きたい。 女の子なので、せめて丁重に追い出して下さい」
どちらにせよ追い出されるんじゃねーか。
………
………………
………………………
森家は30年程前から“森林出版社”を経営しており、現在の社長は晴敏だ。颯斗は作家として活動しており、ほとんどの作品は自社から出版している。
花子は颯斗と同い年で、彼の食事や身の回りの世話を行っている。 何故使用人に全てを任せないのかというと、晴敏が彼らを信用しない。 ついでに花子は引っ込み思案な性格のせいで中々仕事が出来ないので、颯斗の世話で暇をしないようにさせている。 晴敏は二人が恋仲になってくれたらと気を揉んでいるが、残念ながらまだそうはならないようだ。
「本当、お金持ちですよね」
初めて森家の敷居を跨いだ翌日、飛鳥は前日と同様に食堂に居た。 同じ紅茶に、今日は余計に多く砂糖とミルクを入れ、ティースプーンで丁寧に混ぜる。
「大したものではありません」
隣の親愛の位置で紅茶をすする颯斗は、謙遜してそう言う。 食堂の窓辺に飾ってある、硝子製の天使像を眺めている。
「少なくとも、普通じゃないですよ」
捉え方によっては侮辱であるが、残念ながら飛鳥にはそれを判断出来る程の社交性が無い。 学校ですら誰ともまともに話をしたことがなかった――――孝次郎と連むようになるまでは。 元々横柄なのではなく、単純に人付き合いを知らないのだ。
どうやら颯斗の方でもそれを敏感に感じ取っているらしく、飛鳥に普通じゃないと言われても気にせずニコニコしている。
「普通って、何なんでしょうかね」
そんな、飛鳥にも解るはずのない事も言ったりする。
「知りません。 大国くんに訊いて下さい」
「そうですねぇ、社会常識は大国くん、あやかし関係は飛鳥さんですよね」
「その通り」
と、そこで二人とも黙り、紅茶を啜る。 颯斗はわざとワンテンポ遅らせて飛鳥と同じ行動をしているのだが、飛鳥はただ「真似しやがってクソが」などと考えている。 ミラーリングという心理的な一種の“ワザ”で、相手の真似をすることで親近感を得るためのものだと知っていたからだ。 小賢しいと思ってるようだ。
「花子さん、お綺麗ですね。 でも暗い」
「昔からあんな感じでしたよ」
「生来あんな人間だなんて………。 学生時代にはぶられたろうに」
飛鳥も、人のことは言えないが。
「小中学校は僕と同じ所で、確かに一人で居るのをよく見掛けて話し掛けに行ってました」
「からかわれた?」
「ああ、はい。 付き合ってんだろー、とか言われました」
頬をほんのり染めて苦笑した颯斗を見て、飛鳥は何を思ったか「ふむ」と腕を組んだ。 「高校は違ったので?」
「僕は家庭学習で高卒の資格をとりましたが、花子は学校行ってましたね。
たしか、飛鳥さんたちと同じ高校だったと思います」
。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ジャージ女子高生による異世界無双
れぷ
ファンタジー
異世界ワーランド、そこへ神からのお願いを叶えるために降り立った少女がいた。彼女の名前は山吹コトナ、コトナは貰ったチートスキル【魔改造】と【盗む】を使い神様のお願いをこなしつつ、ほぼ小豆色のジャージ上下でテンプレをこなしたり、悪党を改心させたり、女神になったりするお話です。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜
井藤 美樹
恋愛
もし過去に戻れるのなら、昔の私を殴り飛ばしたいわ。まぁその時は、あの人を心から愛してたし真剣だった。それしか、自分たちの愛を貫けられないと思ったわ。
だから……
「生まれ変わったら幸せになろう」
そう互いに約束してこの世を去ったの。
うん。願いは叶えられたよ。叶えられたけどさ……
生まれ変わって一回目は、束縛が酷くて逃げようとしたら、荷馬車に轢かれてジ・エンド。
二回目は、即監禁。
彼に横恋慕した女の手に掛かり、腹を刺されてジ・エンド。
三回目は……出会って一週間で、彼に殺されたわ。
四回目も五回目もあるけど、もう語るのもしんどくなってきたわ。
これって、もう一種の【呪い】だよね。
もう、監禁されるのも死ぬのも勘弁したい。だったら、もう逃げるしかないよね。
今度こそ逃げ切ってやる!!
でもその前に、お母様を死に追いやった屑(実父)と糞女(義母)、そして義妹を地獄に叩き落としてからね。
じわりじわりと真綿に首を締めるように苦しめてあげるわ。
短編から長編に変更しました。
夏、辛辣准教授と京都二人旅 ~妖怪とか歴史とか~
如月あこ
キャラ文芸
あらすじ
麻野は、民俗学専攻の大学生。
今日も、妖怪についての話を教授に聞いて貰うため、様々な雑用をこなす日々。
ある日、理工学部にいる親友に会いに行く途中、理工学部准教授、新居崎と出会う。
不慮の事故で壊してしまった時計を弁償するために、新居崎の雑用も引き受けることになったのだが──。
「先生、妖怪と友達に──」
「興味がない。そもそも、そんなもの存在しない」
真っ直ぐで他者を優先する女子大生麻野と、自分本位な准教授新居崎の。
たどたどしくも、ある意味直球な、恋愛物語。
【完結】あなたの思い違いではありませんの?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
複数の物語の登場人物が、一つの世界に混在しているなんて?!
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
お決まりの婚約破棄を叫ぶ王太子ローランドは、その晩、ただの王子に降格された。聖女ビオラの腰を抱き寄せるが、彼女は隙を見て逃げ出す。
婚約者ではないカレンデュラに一刀両断され、ローランド王子はうろたえた。近くにいたご令嬢に「お前か」と叫ぶも人違い、目立つ赤いドレスのご令嬢に絡むも、またもや否定される。呆れ返る周囲の貴族の冷たい視線の中で、当事者四人はお互いを認識した。
転生組と転移組、四人はそれぞれに前世の知識を持っている。全員が違う物語の世界だと思い込んだリクニス国の命運はいかに?!
ハッピーエンド確定、すれ違いと勘違い、複数の物語が交錯する。
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/19……完結
2024/08/13……エブリスタ ファンタジー 1位
2024/08/13……アルファポリス 女性向けHOT 36位
2024/08/12……連載開始
転生したら死にそうな孤児だった
佐々木鴻
ファンタジー
過去に四度生まれ変わり、そして五度目の人生に目覚めた少女はある日、生まれたばかりで捨てられたの赤子と出会う。
保護しますか? の選択肢に【はい】と【YES】しかない少女はその子を引き取り妹として育て始める。
やがて美しく育ったその子は、少女と強い因縁があった。
悲劇はありません。難しい人間関係や柵はめんどく(ゲフンゲフン)ありません。
世界は、意外と優しいのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる