10 / 77
壱
1-4
しおりを挟む俺らの下らないやりとりを、羽生さんが右手を挙げて制した。 「話はまだある黙って聞け」
そしてフリルの付いたシャツの左袖を捲った。 黒い胡桃大の鈴が一つ、紐で結びつけられている。
彼女はそれを軽く振って見せたが、カラカラと響きの籠もった気持ちの悪い音がする。 普通の鈴のようなリンリンという音がしない。
「これも、草薙の剣と似たようなもので、八又迩吟鈴(やさかにのぎんれい)という。
しかし剣とは違ってあやかしを消し去りはしない。 どこか遠くへ吹き飛ばす。
本当にそうする必要のある時にしか、この鈴は真の響きを聞かせないのさ」
「はあ…………」
そりゃまた、大層な代物だわ。 さっきから羽生さんの発言、いちいちすげー厨二設定だな。
「君を助けた時、これを使っても良かったが、どういう訳かその時はたまたま手首から外していたんだ。
多分、体育で水泳だったからかな、付け忘れ?」
『意外とドジよね』
「うるさいよ、“にゃんにゃん”
――――別に鞄から出して使っても良かったが、その間に君はかじられて身長が半分に減少していただろうから、草薙を使った」
「あまり、ああいう事はしたくないんだがね」物憂げに呟き、羽生さんは目を伏せた。 悪戯にあやかしの存在を消したくない、という意味だと感じたが、彼女が何故それを避けたいのか、あまりピンと来なかった。
「…………」
なんで?と質問したい俺の気持ちを察したのか、羽生さんの伏せた目がパチクリとこちらを見た。
「先方も生きてるからに決まってるだろ。 相手が何であれ、生きてるものを殺すのは気分良くはなれない」
「はあ…………」
あまり共感は出来なかった。
そもそもあやかしを生きてる物として考えた事が無い。 死んだ人の霊魂だったとしても、既に死んでる物をどうやって殺すのか、甚だ疑問である。
「形あるものにとらわれてたら、痛い目をみることになるぞ」
カンフーか何かの師匠のような台詞を言いながら、羽生さんは卓袱台の上でじゃれていた子猫らの片割れに手を伸ばした。
細い指で頭を撫でると、片割れは気持ちよさそうに「ふにゃーん」と言った。 クソ、やっぱ猫って可愛いな。 俺も撫でたいな。
「お前は保食(うけもち)」
「“受け持ち”?」
普通の脳内変換をした俺に、羽生さんは面倒くさそうな一瞥をよこした。 で、無視した。
「お兄ちゃんの方は月読(つくよみ)」
『わー!! それって名前? ボクらの名前?』
『かっこいい! ありがとうコジロー!!』
俺何にもしてねーし。 何故羽生さんじゃなく俺に礼を言う。
それにコジローじゃなくてコージローだって、…………何回言えば解るんだ!
。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる