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3章
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十分ほど待っていた。彼女は唐突に、勢いよく本を閉じた。本が閉じるパンと言う音が、すでに無人になっていた教室内に響く。フーっと大きくいきを吐いたのがわかった。
「あのー」
あまりの迫力に、ユリがおずおずと声をかけた。
「あ、あれ?」
無反応である。ユリの声はそんなには小さくなかったはずだが、彼女は全く反応を示さない。
「あなた、ハニュウさんだよね?ちょっとようがあるんだけど」
よく通る声で再びユリが声をかける。それを無視して、ゆっくりと鞄を取り出して本をしまう様子を、思わず無言で見守った。よくよく思えば、彼女はどことなく普通ではないというか、人間離れしているような感じがした。もしかして、彼女も本当は人ではなく、さなえ先生と同じ幽霊なのだろうか。いや、ならばユリにも見えているのはおかしいな。それに私だって、さなえ先生の幽霊を見ているとは限らないし。あれは幻覚の可能性がある。
「聞こえてるー?」
「…………」
勢いよく席から立ち上がると、彼女はこちらを振り向いた。
「あっ」見覚えのある顔だった。日本人とは思えない程に大きく、澄んだ瞳をたたえた目。長いまつ毛がここからでも一本一本見えそうなくらいだ。少々薄いけど、ふっくらとして形の整った唇に、スッと通った鼻筋。
見覚えも何も、彼女には昨日、図書室で会っている。図書室が閉まるギリギリまで読書をしていた、あの子だ。相変わらず、動いているのが不思議になるほどに、生気を感じない。人形だ。
彼女の瞳が、私達を真っ直ぐに捉えたその瞬間、
「チッ!」
その瞬間、彼女―――ハニュウさんというらしい―――が、鋭い舌打ちをした。みるみる表情は曇っていき、まるで般若のような険しい顔になった。
「え、何……怖いんだけど」
ユリの通り、怖い。理由はわからないが、彼女は私を恐ろしい顔で睨みつけているのだ。彼女の周りの空気がどす黒く淀んで、教室中を大きく渦巻いている。
「なんで睨むの?あなたに用があるってだけなんだけど」
私は、勇気を出してハニュウさんの目を見つめ返し、そう言った。睨まれていてもなお、神秘的できれいな目をしているなと思った。
しかしハニュウさんは反応せず、フイとそっぽを向いて早足で教室前方のドアから出ていった。
「何あれ。感じ悪い」
・
「あのー」
あまりの迫力に、ユリがおずおずと声をかけた。
「あ、あれ?」
無反応である。ユリの声はそんなには小さくなかったはずだが、彼女は全く反応を示さない。
「あなた、ハニュウさんだよね?ちょっとようがあるんだけど」
よく通る声で再びユリが声をかける。それを無視して、ゆっくりと鞄を取り出して本をしまう様子を、思わず無言で見守った。よくよく思えば、彼女はどことなく普通ではないというか、人間離れしているような感じがした。もしかして、彼女も本当は人ではなく、さなえ先生と同じ幽霊なのだろうか。いや、ならばユリにも見えているのはおかしいな。それに私だって、さなえ先生の幽霊を見ているとは限らないし。あれは幻覚の可能性がある。
「聞こえてるー?」
「…………」
勢いよく席から立ち上がると、彼女はこちらを振り向いた。
「あっ」見覚えのある顔だった。日本人とは思えない程に大きく、澄んだ瞳をたたえた目。長いまつ毛がここからでも一本一本見えそうなくらいだ。少々薄いけど、ふっくらとして形の整った唇に、スッと通った鼻筋。
見覚えも何も、彼女には昨日、図書室で会っている。図書室が閉まるギリギリまで読書をしていた、あの子だ。相変わらず、動いているのが不思議になるほどに、生気を感じない。人形だ。
彼女の瞳が、私達を真っ直ぐに捉えたその瞬間、
「チッ!」
その瞬間、彼女―――ハニュウさんというらしい―――が、鋭い舌打ちをした。みるみる表情は曇っていき、まるで般若のような険しい顔になった。
「え、何……怖いんだけど」
ユリの通り、怖い。理由はわからないが、彼女は私を恐ろしい顔で睨みつけているのだ。彼女の周りの空気がどす黒く淀んで、教室中を大きく渦巻いている。
「なんで睨むの?あなたに用があるってだけなんだけど」
私は、勇気を出してハニュウさんの目を見つめ返し、そう言った。睨まれていてもなお、神秘的できれいな目をしているなと思った。
しかしハニュウさんは反応せず、フイとそっぽを向いて早足で教室前方のドアから出ていった。
「何あれ。感じ悪い」
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