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花が咲く
しおりを挟むあなたと最初に出会ったのは、文明もまだない時代。
私は祈りの巫女、あなたは司祭の息子だった。あなたと過ごす時間だけが、鬱屈とした生活の中で唯一の癒しだった。当然私は恋におちた。あなたを支えに、辛い祈り巫女という役職もこなしていた。
愛していると、返してくれた。何よりも大切だと囁いてくれた。愛されていると思っていた。
けれど、あなたは私の侍女と想い合っていた。私が儀式の贄となったときあなたは侍女と寄り添っていた。
次に出会ったのは、人々が大理石で神殿や城を建てた頃。
いわゆる貴族と呼ばれる階級で、私たちは婚約者だった。
私は美しいあなたに一目惚れだったけれど、あなたは私を世話する奴隷に目を奪われていた。奴隷なんて、人としても扱われないのに。他家の者たちが、あなたが奴隷に本気だと気がついたらなんと噂することか。両家の名誉のためにも、周囲はあなたと奴隷が接触するのを禁じた。でもあなたは奴隷と交わり、子を成した。奴隷は出産するときに亡くなったが、赤ん坊はあなたの願いによって、引き取られ、跡取りとなった。周囲もあなたを止められなかった。あなたは生涯私を抱かなかった。
三度目は、大衆文化が栄える頃。
私は貿易商の娘だった。父に連れられ、旅した異国の地であなたに出会った。様々な地を旅した、あなたの話を聞くのは本当に面白かった。あなたから婚約を申し込んでくれたときは、天にも昇る心地だった。
だけど、あなたはまた。あなたは街で出会った少女に恋をした。少女は孤児で教会に住んでいた。小さい子をお世話する、心根の綺麗な少女に惚れてしまったと、あなたは私との婚約を破棄した。
四度目は、発明がなされ、生活が大きく変わっていた頃。
私は、裕福な資産家の娘だった。あなたは、若くして才能で成り上がった人だった。
あなたは父のつながりが欲しかった。父はあなたの才能を手に入れたがった。そうして、婚約が結ばれた。あなたは、故郷に恋人を置いてきていた。父のコネクションを手に入れた後は、恋人を別邸に住まわせ、こちらには帰ってこなかった。私は、風邪をこじらせ、1人で死んだ。
暗い場所。何もない。けれど、意識ははっきりしている。私は『今まで』のことを思い出した。
あなたはいつも、「彼女」を選ぶ。何があろうとも、私を選ぶことはない。いつも私を選ぶ振りだけして、彼女の元へ行ってしまう。どれだけ容姿や性格が違っても必ず、私は「あなた」に惚れて、あなたは「彼女」にほれる。
私は、あなたが彼女のところに行くのを、見ているだけで。何も言えなくて。苦しくて。いつも行かないでと泣いて縋りつきたかった。けれど、あなたに嫌われるのが怖くて。
もしも次があるのならば、私は『今まで』の記憶を持って生きたい。
そして、あなたとは別の人と恋におちて幸せに生きたい。
想って、想い返されるような。私のもとにいてくれるような。
嫉妬して、自分を醜く思うのではなくて、愛され、花のように美しく咲く、咲くそんな恋がしたい。
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