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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
3-7.ダイヤモンドと天井裏の痴女
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「……というわけなんですよ。酷いと思いません? 我那覇さん」
千秋が愚痴半分に先日の空港診療所での会話を伝えると、先を歩いていた男性が振り返った。
身長は百八十センチぐらいだろうか。冷泉も高いが横に並んでも違和感がない。
けれど見た目から受ける印象は真逆に近かった。
健康的に焼けたキャラメル色の肌と、横を刈り上げて上を手癖でざっと整えたツーブロックの黒髪。
細めた目の色は髪と同じ焦げ茶で、太陽を浴びすぎているのか少しパサついているのがどこか少年っぽい。
なんの含みもない素直な笑みを浮かべる口元からは、真っ白な歯が覗いている。
体型だって、グランドサービスのカーゴ――貨物担当ということだけあって、肩幅が広く腕もしっかりと筋肉が付いている。
なにかスポーツをやっていたのかと聞けば、特に部活はしていないが、子どもの頃から泳ぐのが好きで実家が猟師なこともあり、遊びといえば海だったとか。
頭の上から足下まで、どこをどうとっても好青年な我那覇は、先日、千秋が熱中症で倒れた時に待ち合わせしていた相手でもあり、診療所までおぶっていってくれた人でもあった。
「診療所のセンセなら言いそうだ」
あはは、と笑いながらのんびりした口調で言われると、それだけで気が和む。
東京ではめったになかったことだなと思いつつ、千秋は我那覇につられ笑顔になってしまう。
南国気質というのか島という環境ゆえか、我那覇に限らず、沖縄を地元とする人は陽気で親切でのんびりしている人が多い。
仕事でも同じで、時にはのんびりすぎて気を揉むこともあるが、あまりあくせくしない人々のやりかたが、千秋はうらやましいし、いいなあとも思う。
とくに我那覇は千秋より二つも年下だから、お互いに尊敬語はやめましょう。と最初からフレンドリーで、まるで同じ職場の同期か友人のように接している。
これで下心があればまわりから誤解されてしまうが、我那覇は誰に対してもほぼ同じ対応で、新人の客室乗務員だろうと、売店のおばちゃんだろうと、いつもニコニコして話を聞いてくれる。
だからか、カーゴの末っ子とか皆の弟なんて言われているが、本人はそれがうれしいらしい。
「あのセンセ、口が悪いので有名っさー。……まあ、腕はすごくいいって聞いているけど、僕はまだお世話になったことがないなー」
我那覇は、右肩にかけていた脚立をよいしょ、と抱え直してまた歩きだす。
雑多な仕事に足を掬われ、おまけに冷泉から不具合のレポートやら改修案やらを山ほど渡され、熱中症になった日から十日ほど過ぎた。
その間中、千秋は外に出る間もないほど事務処理漬けであり、今日、ようやく当初の目的であるハブ探しの時間を取れた。
とはいえ、前回のように屋外ではない。
沖縄や空港の環境について調べず熱中症になったことを踏まえ、日中は屋内を、日が暮れてから屋外を調べることにしている。
「……で、守屋さんはウエストポーチをずっと付けてることにしたんだ」
「そうなんです! 家の近くにディスカウントショップがあったのが幸いしました」
前回の反省を踏まえ、千秋は水で濡らして首を冷やすタオルや塩レモン飴、小さなスポーツドリンクと思いつく限り買いあさり、男性がつけるような大きなウエストポーチいっぱいにぎゅうぎゅう詰めて持ち歩いているのだ。
これだけすれば、熱中症になって冷泉や安里にからかわれることはないだろう。
意気込んで鼻息を荒くして胸を張ると、聞いていた我那覇がやっぱり呑気に言う。
「サングラスは買いました? ランプ――駐機場とかに降りるなら、これからの季節は照り返しで目にきついから」
「……え」
やばかった。あやうく、目が! 目が! なんて、どこぞの悪役みたいな状態で診療所に駆け込むところだった。
真面目な顔でやや大げさな妄想をし、我那覇に感謝を述べると、彼はどういたしましてといいつつ、突き当たりにある扉の前で立ち止まる。
「この部屋の天井裏に、ネットワークやシステム関係の機械があるんさ」
少しだけ方言を交えて、にこやかな顔で我那覇が扉を指し示す。
同じにこやかさで営業スマイルを浮かべつつ、ありがとうございますと口にした千秋は、その扉に貼り付けられているプレートを見て表情を硬直させた。
どこにでもある扉の上にある、ごく普通の白いプラスチックのプレートには、黒々とした文字で〝男子更衣室〟と書かれていたのだった――。
千秋が愚痴半分に先日の空港診療所での会話を伝えると、先を歩いていた男性が振り返った。
身長は百八十センチぐらいだろうか。冷泉も高いが横に並んでも違和感がない。
けれど見た目から受ける印象は真逆に近かった。
健康的に焼けたキャラメル色の肌と、横を刈り上げて上を手癖でざっと整えたツーブロックの黒髪。
細めた目の色は髪と同じ焦げ茶で、太陽を浴びすぎているのか少しパサついているのがどこか少年っぽい。
なんの含みもない素直な笑みを浮かべる口元からは、真っ白な歯が覗いている。
体型だって、グランドサービスのカーゴ――貨物担当ということだけあって、肩幅が広く腕もしっかりと筋肉が付いている。
なにかスポーツをやっていたのかと聞けば、特に部活はしていないが、子どもの頃から泳ぐのが好きで実家が猟師なこともあり、遊びといえば海だったとか。
頭の上から足下まで、どこをどうとっても好青年な我那覇は、先日、千秋が熱中症で倒れた時に待ち合わせしていた相手でもあり、診療所までおぶっていってくれた人でもあった。
「診療所のセンセなら言いそうだ」
あはは、と笑いながらのんびりした口調で言われると、それだけで気が和む。
東京ではめったになかったことだなと思いつつ、千秋は我那覇につられ笑顔になってしまう。
南国気質というのか島という環境ゆえか、我那覇に限らず、沖縄を地元とする人は陽気で親切でのんびりしている人が多い。
仕事でも同じで、時にはのんびりすぎて気を揉むこともあるが、あまりあくせくしない人々のやりかたが、千秋はうらやましいし、いいなあとも思う。
とくに我那覇は千秋より二つも年下だから、お互いに尊敬語はやめましょう。と最初からフレンドリーで、まるで同じ職場の同期か友人のように接している。
これで下心があればまわりから誤解されてしまうが、我那覇は誰に対してもほぼ同じ対応で、新人の客室乗務員だろうと、売店のおばちゃんだろうと、いつもニコニコして話を聞いてくれる。
だからか、カーゴの末っ子とか皆の弟なんて言われているが、本人はそれがうれしいらしい。
「あのセンセ、口が悪いので有名っさー。……まあ、腕はすごくいいって聞いているけど、僕はまだお世話になったことがないなー」
我那覇は、右肩にかけていた脚立をよいしょ、と抱え直してまた歩きだす。
雑多な仕事に足を掬われ、おまけに冷泉から不具合のレポートやら改修案やらを山ほど渡され、熱中症になった日から十日ほど過ぎた。
その間中、千秋は外に出る間もないほど事務処理漬けであり、今日、ようやく当初の目的であるハブ探しの時間を取れた。
とはいえ、前回のように屋外ではない。
沖縄や空港の環境について調べず熱中症になったことを踏まえ、日中は屋内を、日が暮れてから屋外を調べることにしている。
「……で、守屋さんはウエストポーチをずっと付けてることにしたんだ」
「そうなんです! 家の近くにディスカウントショップがあったのが幸いしました」
前回の反省を踏まえ、千秋は水で濡らして首を冷やすタオルや塩レモン飴、小さなスポーツドリンクと思いつく限り買いあさり、男性がつけるような大きなウエストポーチいっぱいにぎゅうぎゅう詰めて持ち歩いているのだ。
これだけすれば、熱中症になって冷泉や安里にからかわれることはないだろう。
意気込んで鼻息を荒くして胸を張ると、聞いていた我那覇がやっぱり呑気に言う。
「サングラスは買いました? ランプ――駐機場とかに降りるなら、これからの季節は照り返しで目にきついから」
「……え」
やばかった。あやうく、目が! 目が! なんて、どこぞの悪役みたいな状態で診療所に駆け込むところだった。
真面目な顔でやや大げさな妄想をし、我那覇に感謝を述べると、彼はどういたしましてといいつつ、突き当たりにある扉の前で立ち止まる。
「この部屋の天井裏に、ネットワークやシステム関係の機械があるんさ」
少しだけ方言を交えて、にこやかな顔で我那覇が扉を指し示す。
同じにこやかさで営業スマイルを浮かべつつ、ありがとうございますと口にした千秋は、その扉に貼り付けられているプレートを見て表情を硬直させた。
どこにでもある扉の上にある、ごく普通の白いプラスチックのプレートには、黒々とした文字で〝男子更衣室〟と書かれていたのだった――。
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