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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==

3-5.ダイヤモンドと天井裏の痴女

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(なにせ、他人に触られたくないほど大事なら、取って金庫にでもしまっておけばいいじゃないですか。だもんな)
 飛行機での千秋の発言を思い出し、つい口端を緩める。
 あんな発言をすることにも驚いたが、それを口にしてしまうあっけらかんとした態度にも驚いた。
 恋愛的に無知であるか、無知であることを装って異性から対象とされることを無意識に避けているのか。どちらにしても今までにみたことがないタイプ。
 興味深い奴だと思いつつ、サーバから煮詰まったコーヒーをカップに移していると、疑わしげに目を細めた安里があやしいなあ、と突っかかる。
「ちょっとしたトラブルって、なんだったんですかぁ?」
 聞かれ、冷泉は思わず目を天井へ向ける。
(アレをどう説明しろっていうんだよ……)
 適当にごまかそうかとも思うが、冷泉の周囲の女性関係に関して安里がしつこいのはピラニア並みだ。冷泉が答えなければ千秋に行くのはわかりきっている。
 だからこそ、再会した時も、本人が嫌がるとわかっていながら、〝痴女〟呼ばわりを続けていたわけだが。
「……気になるのか。というか、お前、まだ俺の嫁になることを諦めてなかったのか」
 話の方向性を変えようと試みるが、安里は余計に目線を冷たくして、はーん? と嫌な声を出した。
「当たり前ですよ。私の野望ですから」
 揺るぎない調子であっさり肯定されたが、冷泉は特に驚かない。ただ、千秋にしろ安里にしろ、変な女ばかりと縁があるなとしみじみ思っただけだ。
 安里華蓮は看護師であるが、同時に十人兄弟の次女である。
 とはいえ長女は結婚し家を出ており末っ子がまだ手がかかる三歳児であるため、事実上の長女――母親替わりとして他の兄弟の育児家事勉強まで見ている上に、バンバン夜勤に入ることで有名だった。
 一睡もしないのを当たり前に、なにかから逃れるように仕事を詰め込む姿は冷泉同様で、だからこそ、オーバーワークを心配した救急部長が、昼は比較的ゆるいことで有名な空港診療所に仕事中毒な二人をまとめて放り込んだ。
 当然、最初はまったく上手くいかなかった。
 女をまったく信頼せず何一つ教えず任せようとしない冷泉と、そっちがそうなら、こっちはこうだと勝ち気でばんばんと片付けていくオカン体質な安里は、ことあるごとに反発しあっていたが、お互いに恋愛対象外であることと、この島を――沖縄を出たがっていることがわかってからは、医療という戦場を共にする戦友関係に落ち着いた。
 とはいえ、島から出るのは簡単ではない。とくに安里は注文が多い。
 幼い弟妹に心配させず、親と家を継ぐ予定の兄に疑われない程度の金持ちで、東京に行くまでは夫婦として偽装結婚して、なおかつ東京に移動して生活の目処がたち次第離婚。ただし、セックス、ハグ、キスは一切なし。家計についても別でお願いします! という。
 どうやったら、その条件を満たす男を見つけられるんだと首をひねれば、真っ直ぐに冷泉を指さしてきたのを覚えている。
「私から言えばですねえ、センセはやっぱいいとこのお坊ちゃまで甘ちゃんですよ。性根が。……その気になればいつでも東京に帰れるし、実家の病院に戻れば仕事だってそれなりにあるのに、ただでさえ暑いこの島でうだうだ悩んで納得できない。自分を許せないって思索に浸ってられるんですから」
 他の奴が言えば、うるさいと切って捨てる現実を述べられ、冷泉はははっと乾いた笑いを漏らす。
「俺には、家族に心配させずに縁を切るほうがハードルが高い夢物語に見えるが」
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