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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
3-2.ダイヤモンドと天井裏の痴女
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前任者が溜めに溜め込んだ書類の山をかかえ、採用試験を受ける学生じみた丁寧なお辞儀をし、しずしずと診療所のドアをくぐってきっちり三秒後。
守屋千秋が、先日同様に勇ましい足音で立ち去っていくのが、診療所待合室の壁越しに聞こえる。
予想通りの態度にくつくつと喉を震わせていると、お礼に持ってこられたカヌレを突きながら、看護師の安里が疑わしげな半眼で冷泉を見ていた。
「どうした?」
「いやあ……。マジに冷泉センセって、守屋さんにだけは態度が違いますよねぇ……。本当のところ、二人ってどんな関係なんですかぁ」
甘えた舌足らずな口調だが、声と目線が見事にかわいさを裏切っている。
女を武器にしてすり寄る態度をことのほか毛嫌いする冷泉でも、安里がする分はなにも感じない。
恐らく、最初から安里にその気がなく、通用しないのをわかっていてわざと演技していると両者で暗黙の了解があるからだ。
――女は、嫌いだ。とくに恋愛を駆け引きにして利を得ようとするやつは。
外見、医師という高収入な職、家柄、あるいは――過去の思い出。
そんなものを武器にして、冷泉の心を手玉として操ろうとする女は後を絶たない。
学生時代や世間を大してしらない研修医の頃は、そんな中にもきっと自分を見て、まっとうに恋できる女性はいるはずだと希望を抱いていたが、今となっては微塵も期待していない。
(そもそも、この沖縄に来ることになったきっかけがアレだからな)
ふと過去の影が頭をよぎり、冷泉は見ている者の背筋が冷たくなるような笑みを唇に刷く。
「どんなもこんなも。飛行機で席が隣り合っただけだ。……まあ、ちょっとしたトラブルはあったが」
夕暮れ時に沖縄に着陸するいつもの便。
プレミアムシートにしたのもいつものことで、冷泉にとっては贅沢でもなければ浪費でもなかった。
できる限り人を寄せ付けない静かな場所で、空を見たい。ただそれだけで。
とはいえ、隣の人物までは選べない。
そして取った席の隣に、妙齢というには幼い――まるで学生のような顔立ちをした女が座っているのを見た時、面倒だなと思った。
これまでの経験からして、隣に若い女が座るとろくなことにならない。
冷泉の無関心にもかまわず一方的に話しかけ、指や耳を飾るブランドのアクセサリをちらつかせ気を惹こうとやたらと髪を触っては目配せし、落としたふりをして名刺や携帯電話番号をかいたメモをスーツのポケットや荷物に潜ませるのはまだいいほう。
行動的なタイプになるとわざとシャンパンをスーツにこぼし、すみませんと殊勝に謝りつつ、汎化し越しに太股を撫で、胸の谷間を見せつけてくる。
変わり種になると、娘のお見合い相手に――などと言い出し、つながりを持とうとするマダムもおり、正直うんざりさせられてばかりいた。
だから守屋千秋についても最初は顔すら見ておらず、〝女〟という記号でしか判別していなかった。
だが、飛行機のアナウンスが終わりタイヤが滑走路が離れても、ドリンクサービスが始まっても、千秋は冷泉に無関心。
どころか、サービスのスパークリングワインを、ビールか缶カクテルみたいにカパカパ煽るのだから、冷泉が心配になるのも医師として当然ではあった。
あと二杯きたら、その辺にしておいたほうがと告げるか、いや、これも気を惹く作戦なのか? と悩みつつ、ちらりと横目で盗み見し、冷泉は思わず息を止めた。
――飛行機の窓越しに映る千秋の瞳が、切ないほど虚無で無欲で諦めに満ちていることに。
あれは、自分だ。
医師で居るべき命の現場で――もっとも危うい高度救命救急医療センターの最中で血迷い、医師として恥ずべき罪を犯し、有望な若手としての将来も、尊敬する上司の信頼もすべて裏切り、断罪された。
そう。――あの夜の自分と同じ目を、守屋千秋もしていたのだ。
====
※冷泉視点、二話ぐらい続きます
※事件が起こるまであと少し🌟
守屋千秋が、先日同様に勇ましい足音で立ち去っていくのが、診療所待合室の壁越しに聞こえる。
予想通りの態度にくつくつと喉を震わせていると、お礼に持ってこられたカヌレを突きながら、看護師の安里が疑わしげな半眼で冷泉を見ていた。
「どうした?」
「いやあ……。マジに冷泉センセって、守屋さんにだけは態度が違いますよねぇ……。本当のところ、二人ってどんな関係なんですかぁ」
甘えた舌足らずな口調だが、声と目線が見事にかわいさを裏切っている。
女を武器にしてすり寄る態度をことのほか毛嫌いする冷泉でも、安里がする分はなにも感じない。
恐らく、最初から安里にその気がなく、通用しないのをわかっていてわざと演技していると両者で暗黙の了解があるからだ。
――女は、嫌いだ。とくに恋愛を駆け引きにして利を得ようとするやつは。
外見、医師という高収入な職、家柄、あるいは――過去の思い出。
そんなものを武器にして、冷泉の心を手玉として操ろうとする女は後を絶たない。
学生時代や世間を大してしらない研修医の頃は、そんな中にもきっと自分を見て、まっとうに恋できる女性はいるはずだと希望を抱いていたが、今となっては微塵も期待していない。
(そもそも、この沖縄に来ることになったきっかけがアレだからな)
ふと過去の影が頭をよぎり、冷泉は見ている者の背筋が冷たくなるような笑みを唇に刷く。
「どんなもこんなも。飛行機で席が隣り合っただけだ。……まあ、ちょっとしたトラブルはあったが」
夕暮れ時に沖縄に着陸するいつもの便。
プレミアムシートにしたのもいつものことで、冷泉にとっては贅沢でもなければ浪費でもなかった。
できる限り人を寄せ付けない静かな場所で、空を見たい。ただそれだけで。
とはいえ、隣の人物までは選べない。
そして取った席の隣に、妙齢というには幼い――まるで学生のような顔立ちをした女が座っているのを見た時、面倒だなと思った。
これまでの経験からして、隣に若い女が座るとろくなことにならない。
冷泉の無関心にもかまわず一方的に話しかけ、指や耳を飾るブランドのアクセサリをちらつかせ気を惹こうとやたらと髪を触っては目配せし、落としたふりをして名刺や携帯電話番号をかいたメモをスーツのポケットや荷物に潜ませるのはまだいいほう。
行動的なタイプになるとわざとシャンパンをスーツにこぼし、すみませんと殊勝に謝りつつ、汎化し越しに太股を撫で、胸の谷間を見せつけてくる。
変わり種になると、娘のお見合い相手に――などと言い出し、つながりを持とうとするマダムもおり、正直うんざりさせられてばかりいた。
だから守屋千秋についても最初は顔すら見ておらず、〝女〟という記号でしか判別していなかった。
だが、飛行機のアナウンスが終わりタイヤが滑走路が離れても、ドリンクサービスが始まっても、千秋は冷泉に無関心。
どころか、サービスのスパークリングワインを、ビールか缶カクテルみたいにカパカパ煽るのだから、冷泉が心配になるのも医師として当然ではあった。
あと二杯きたら、その辺にしておいたほうがと告げるか、いや、これも気を惹く作戦なのか? と悩みつつ、ちらりと横目で盗み見し、冷泉は思わず息を止めた。
――飛行機の窓越しに映る千秋の瞳が、切ないほど虚無で無欲で諦めに満ちていることに。
あれは、自分だ。
医師で居るべき命の現場で――もっとも危うい高度救命救急医療センターの最中で血迷い、医師として恥ずべき罪を犯し、有望な若手としての将来も、尊敬する上司の信頼もすべて裏切り、断罪された。
そう。――あの夜の自分と同じ目を、守屋千秋もしていたのだ。
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※冷泉視点、二話ぐらい続きます
※事件が起こるまであと少し🌟
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