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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
3-1.ダイヤモンドと天井裏の痴女
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しかし南国の神は、無情にも千秋の願いを却下した。
診療所から返されたその日のうちに熱中症対策グッズとウエストポーチを購入し、タイトスカートの上からしっかり巻き付けて、今日こそはと意気込んだ千秋の鼻先で空港ビルに張り巡らされている内線電話が鳴り響いた。
これはまたトラブルかと緊張しつつ受話器を取れば、空港診療所の看護師兼医療事務担当の安里華蓮からの通話だった。
彼女は面倒臭さどころか眠気混じりのあくびを隠しもせず、ビジネス対応する千秋に言い放った。
『あのぉ、保険証を持ってきていただかないとぉ。請求が困るんですけどぉ』――と。
そうでしたねと答えると同時にはたと気付く。
――あれ? 私、治療費払った記憶がない。
いぶかしみつつ治療費について安里に尋ねれば、なぜか語尾を嫌味ったらしく釣り上げつつ、『冷泉先生が払いましたけどぉ?』と言われた。
これはいかん。
口は悪いが、治療してもらったのは確かだし、帰り際には熱中症回復グッズまで貰ったのだ。
これはきちんとお礼しなければ、不義理だの礼儀知らずだのと言われかねない。
千秋は痴女と呼ばれることが許せないが、無礼と卑怯のそしりを受けることはもっと許せない、よく言えば正義感が強い、悪く言えば単純頑固なタチだった。
次から次に降りかかるシステム改修希望や、使用法の問い合わせ、はてには終期中途採用組のシステム研修についてまで、五月雨どころか台風のように着信するメールを奇跡的なタイプスピードですべて打ち返し空港診療所へと向かう。
そしてお礼とおやつになればと、わざわざ売店エリアまで出て、黒糖カヌレ十個入り袋を下げ改まった仕草で診療所の扉をノックした。
が、返事はない。
恐る恐る扉を開けば、中はまるで休診中かと疑いたくなるほど静かで待合室には患者がいない。
いる者といえば、電話をかけてきた安里ぐらいだが、その彼女も、ご丁寧にノイズキャンセル機能付イヤホンを装着しメイク動画を見ていたりした。
棒立ちになって五分。
ようやく千秋に気付いた安里が眉を寄せて、『なにしに来たんですかぁ』とやる気ゼロで尋ねてきたが、千秋が雑誌にも取り上げられ、客室乗務員一押しの空港スイーツである沖縄黒糖カヌレを持っていることに気付くが早いか180度態度を変えて、幼稚園からの親友みたいな笑顔で説明してくれた。
曰く、空港診療所という名前ではあるが保安検査場の先という場所柄、一般客の利用はほとんどなく、主な業務は、空港を利用する航空会社の社員や空港の保安担当、果てには売店のおばちゃん、おねーちゃんの健康診断とインフルエンザなどの予防接種がほとんど。
つまり、その予定がない日はほぼほぼ閑古鳥が啼いているらしい。
しかも診療所の主である冷泉はといえば、千秋が先日寝ていたベッドでお昼寝中。
よくそれで開業し続けられるなと呆れたのが顔にでたのか、安里はめぼしいカヌレを自分の皿に抜き取りつつ、〝航空会社と契約しているし、パイロットや客室乗務員はほぼ毎月健康診断があるから、収入には困りませんよ〟と締めくくる。
呆気にとられつつ聞いていると、話し声で起きたのか少し髪を乱れさせた冷泉が、子どもみたいにスクラブの襟元を引っ張りパタパタさせつつ、ベッドから起きてきた。
そうして、先日は色々お世話になりましたと頭をさげかけた千秋の前に手を出して、八千円とのたまった。
おもわず、「は?」と間の抜けた声を上げれば、曰く、千秋の代わりに診療料を支払ったが取り立てないとは言っていないとのこと。
保険証を持ってこいと言った安里は払ってくれて、診療報酬システムの日締めができればよかったらしく、千秋が必死にメール打っている間、冷泉から受け取った金を十割請求で計上したと。
電話したのだから待ってくれればいいのにと肩を落とせば、「自分で市役所に行って払い戻し手続きしてくださいねー」とケラケラ笑って終わらせられた。
暴利だと抵抗すれば、高学歴職らしい見事な暗記力で、初診料288点、静脈血液採取料37点、生化学検査料――と完膚なきまでに千秋の負けん気をくじいてくれた。
その上、あの涼やかな顔でさらりと〝端数はまけてやる〟と言われれば、歯ぎしりしつつ薄い財布から払うしかない。
結果、週末の千秋の食卓ではもやしと卵が仲良くフルコースすることが決定。
――なんちゅう医者と看護師だ。なんちゅう診療所だ。
関西人ではないけれど、おもわず浪速の語りになってしまう。
決めた。健康でいよう。金輪際こことは関わらないと心に決めた時、冷泉があくびを添えて爆弾を落とした。
「お前、上之酉システムエンジニアリングの社員だろ。うちの診療所と病院も担当だからよろしく」
診療所から返されたその日のうちに熱中症対策グッズとウエストポーチを購入し、タイトスカートの上からしっかり巻き付けて、今日こそはと意気込んだ千秋の鼻先で空港ビルに張り巡らされている内線電話が鳴り響いた。
これはまたトラブルかと緊張しつつ受話器を取れば、空港診療所の看護師兼医療事務担当の安里華蓮からの通話だった。
彼女は面倒臭さどころか眠気混じりのあくびを隠しもせず、ビジネス対応する千秋に言い放った。
『あのぉ、保険証を持ってきていただかないとぉ。請求が困るんですけどぉ』――と。
そうでしたねと答えると同時にはたと気付く。
――あれ? 私、治療費払った記憶がない。
いぶかしみつつ治療費について安里に尋ねれば、なぜか語尾を嫌味ったらしく釣り上げつつ、『冷泉先生が払いましたけどぉ?』と言われた。
これはいかん。
口は悪いが、治療してもらったのは確かだし、帰り際には熱中症回復グッズまで貰ったのだ。
これはきちんとお礼しなければ、不義理だの礼儀知らずだのと言われかねない。
千秋は痴女と呼ばれることが許せないが、無礼と卑怯のそしりを受けることはもっと許せない、よく言えば正義感が強い、悪く言えば単純頑固なタチだった。
次から次に降りかかるシステム改修希望や、使用法の問い合わせ、はてには終期中途採用組のシステム研修についてまで、五月雨どころか台風のように着信するメールを奇跡的なタイプスピードですべて打ち返し空港診療所へと向かう。
そしてお礼とおやつになればと、わざわざ売店エリアまで出て、黒糖カヌレ十個入り袋を下げ改まった仕草で診療所の扉をノックした。
が、返事はない。
恐る恐る扉を開けば、中はまるで休診中かと疑いたくなるほど静かで待合室には患者がいない。
いる者といえば、電話をかけてきた安里ぐらいだが、その彼女も、ご丁寧にノイズキャンセル機能付イヤホンを装着しメイク動画を見ていたりした。
棒立ちになって五分。
ようやく千秋に気付いた安里が眉を寄せて、『なにしに来たんですかぁ』とやる気ゼロで尋ねてきたが、千秋が雑誌にも取り上げられ、客室乗務員一押しの空港スイーツである沖縄黒糖カヌレを持っていることに気付くが早いか180度態度を変えて、幼稚園からの親友みたいな笑顔で説明してくれた。
曰く、空港診療所という名前ではあるが保安検査場の先という場所柄、一般客の利用はほとんどなく、主な業務は、空港を利用する航空会社の社員や空港の保安担当、果てには売店のおばちゃん、おねーちゃんの健康診断とインフルエンザなどの予防接種がほとんど。
つまり、その予定がない日はほぼほぼ閑古鳥が啼いているらしい。
しかも診療所の主である冷泉はといえば、千秋が先日寝ていたベッドでお昼寝中。
よくそれで開業し続けられるなと呆れたのが顔にでたのか、安里はめぼしいカヌレを自分の皿に抜き取りつつ、〝航空会社と契約しているし、パイロットや客室乗務員はほぼ毎月健康診断があるから、収入には困りませんよ〟と締めくくる。
呆気にとられつつ聞いていると、話し声で起きたのか少し髪を乱れさせた冷泉が、子どもみたいにスクラブの襟元を引っ張りパタパタさせつつ、ベッドから起きてきた。
そうして、先日は色々お世話になりましたと頭をさげかけた千秋の前に手を出して、八千円とのたまった。
おもわず、「は?」と間の抜けた声を上げれば、曰く、千秋の代わりに診療料を支払ったが取り立てないとは言っていないとのこと。
保険証を持ってこいと言った安里は払ってくれて、診療報酬システムの日締めができればよかったらしく、千秋が必死にメール打っている間、冷泉から受け取った金を十割請求で計上したと。
電話したのだから待ってくれればいいのにと肩を落とせば、「自分で市役所に行って払い戻し手続きしてくださいねー」とケラケラ笑って終わらせられた。
暴利だと抵抗すれば、高学歴職らしい見事な暗記力で、初診料288点、静脈血液採取料37点、生化学検査料――と完膚なきまでに千秋の負けん気をくじいてくれた。
その上、あの涼やかな顔でさらりと〝端数はまけてやる〟と言われれば、歯ぎしりしつつ薄い財布から払うしかない。
結果、週末の千秋の食卓ではもやしと卵が仲良くフルコースすることが決定。
――なんちゅう医者と看護師だ。なんちゅう診療所だ。
関西人ではないけれど、おもわず浪速の語りになってしまう。
決めた。健康でいよう。金輪際こことは関わらないと心に決めた時、冷泉があくびを添えて爆弾を落とした。
「お前、上之酉システムエンジニアリングの社員だろ。うちの診療所と病院も担当だからよろしく」
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