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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
2-6.このドクター、口は悪いが顔はいい
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飛行機で言い合っていた時よりもさらに近い。
視界いっぱいに広がる男の顔にぽかんとしつつ、千秋はうわあ、と歓声とも困惑とも付かない声を漏らしてしまう。
(ダメだ、私の頭……暑さで完全にバグってる。よりによってあんな黒歴史男に押し倒されているなんて)
痴女じゃないし、恋愛がこりごりで逃げだしたのに、どうして、あの時の――不遇な事故でイチモツを揉んでしまった男を思い出してしまうのか。
「そもそも、顔がよすぎるのが悪い」
どうせ夢だと思えばなんとでも言える。はぁああ、と嫌な気持ちを隠すことなく溜息に込めて眉を寄せ、千秋は状況をもう一度確認する。
意識を失って、腕から入ってくる水が気持ち良くていい気分でいたら、いきなり痴女呼ばわりされた挙げ句、絶世の美男子(推定)に押し倒されているだなんて。
ありえねえ。
つい口が汚くなってしまうほど、支離滅裂だ。
第一、世の女性達は夢に見たいご面相でも、千秋にとっては人生から抹消したい黒歴史。
いくらなんでも、と思う反面、でもこれだけ美形なら、やっぱ印象深いよな。とも思う。
妹の千春で美形に関してはそこそこの免疫がある千秋でも、気圧されてしまったほどの迫力である。
(うっわー、相変わらずまつげバッシバシ。黒髪さらっさら。お肌はしっとりつやつやって……どこの美容液つかってるんだこの人。エステとか行かずにこれ維持しているなら、神だよな。神)
などと思いつつ、溜息を吐いたまま呼吸を止めてしまう。
ベッドに腰掛け、上半身だけねじる形で千秋の肩を押さえつけ、至近距離からにらみつけてくる男は、深い紺色で妙にごわついたシャツを着ており、V字の襟からのぞく鎖骨や形のよい喉仏の輪郭がはっきりしており男らしい。
どきり、とした。
(いやいや、夢でドキリって。欲求不満なの? え、そういうこと経験なくてもなるものなの!)
男にも恋愛にもこりごりで、当面どころか人生の終末まで関わりたくないと思っていたくせに、いざ迫られるとどうしていいかわからない。
おもわずシーツを握りしめ、相手をじっと見詰め返せば、彼はやや驚いたように目を見開いた。
――あ、コレ、キスされるやつだ。
少女マンガの王道展開。乙女ゲームなら絶対にスチル画像としてどーんと画面一杯に表示され、花とキラキラが散らされるやつだ。
なんてことを頭の裏側あたりで思っていると、不意に男が口を開く。
「お前……」
ためらうように男は言葉を切り、それから声を落として囁いた。
「痴女でも、年頃の女が、股間、股間、イチモツと連呼するのはどうかと思うぞ」
腰がぞくぞくするほど低く響きのよい声が、とんでもなく下世話な指摘をする。
「れ、連呼って……」
「……譫妄や意識混濁にしても酷すぎる。出産するなら相手は付き添いさせないほうがいい。百年どころか千年の恋も覚めるうわごとを言うに決まっているからな」
などと口にした途端、相手は掴んでいた千秋の肩を押し、その反動で身を起こす。
白い布の端が男の身体から滑って千秋の横顔に降りかかり、同時に消毒薬特有のつんとした匂いが鼻孔を満たす。
たまらずくしゃみを放てば、男は小馬鹿にした声で「おや失礼」などとのたまい、千秋の視界を塞いでいた布をたぐり寄せる。
「クリーニングだな」
「ちょっ、くしゃみしたのは悪いですけど、それでクリーニングとか酷すぎませんか!」
威勢よくさけび、だけど飛び起きようとしてまた押し倒されるなんてこりごりだと、半身を転がし首をもちあげ――。
千秋は、目の前にぶら下がる男のIDカードに記された〝医師〟の単語にぽかんと口を開いた。
視界いっぱいに広がる男の顔にぽかんとしつつ、千秋はうわあ、と歓声とも困惑とも付かない声を漏らしてしまう。
(ダメだ、私の頭……暑さで完全にバグってる。よりによってあんな黒歴史男に押し倒されているなんて)
痴女じゃないし、恋愛がこりごりで逃げだしたのに、どうして、あの時の――不遇な事故でイチモツを揉んでしまった男を思い出してしまうのか。
「そもそも、顔がよすぎるのが悪い」
どうせ夢だと思えばなんとでも言える。はぁああ、と嫌な気持ちを隠すことなく溜息に込めて眉を寄せ、千秋は状況をもう一度確認する。
意識を失って、腕から入ってくる水が気持ち良くていい気分でいたら、いきなり痴女呼ばわりされた挙げ句、絶世の美男子(推定)に押し倒されているだなんて。
ありえねえ。
つい口が汚くなってしまうほど、支離滅裂だ。
第一、世の女性達は夢に見たいご面相でも、千秋にとっては人生から抹消したい黒歴史。
いくらなんでも、と思う反面、でもこれだけ美形なら、やっぱ印象深いよな。とも思う。
妹の千春で美形に関してはそこそこの免疫がある千秋でも、気圧されてしまったほどの迫力である。
(うっわー、相変わらずまつげバッシバシ。黒髪さらっさら。お肌はしっとりつやつやって……どこの美容液つかってるんだこの人。エステとか行かずにこれ維持しているなら、神だよな。神)
などと思いつつ、溜息を吐いたまま呼吸を止めてしまう。
ベッドに腰掛け、上半身だけねじる形で千秋の肩を押さえつけ、至近距離からにらみつけてくる男は、深い紺色で妙にごわついたシャツを着ており、V字の襟からのぞく鎖骨や形のよい喉仏の輪郭がはっきりしており男らしい。
どきり、とした。
(いやいや、夢でドキリって。欲求不満なの? え、そういうこと経験なくてもなるものなの!)
男にも恋愛にもこりごりで、当面どころか人生の終末まで関わりたくないと思っていたくせに、いざ迫られるとどうしていいかわからない。
おもわずシーツを握りしめ、相手をじっと見詰め返せば、彼はやや驚いたように目を見開いた。
――あ、コレ、キスされるやつだ。
少女マンガの王道展開。乙女ゲームなら絶対にスチル画像としてどーんと画面一杯に表示され、花とキラキラが散らされるやつだ。
なんてことを頭の裏側あたりで思っていると、不意に男が口を開く。
「お前……」
ためらうように男は言葉を切り、それから声を落として囁いた。
「痴女でも、年頃の女が、股間、股間、イチモツと連呼するのはどうかと思うぞ」
腰がぞくぞくするほど低く響きのよい声が、とんでもなく下世話な指摘をする。
「れ、連呼って……」
「……譫妄や意識混濁にしても酷すぎる。出産するなら相手は付き添いさせないほうがいい。百年どころか千年の恋も覚めるうわごとを言うに決まっているからな」
などと口にした途端、相手は掴んでいた千秋の肩を押し、その反動で身を起こす。
白い布の端が男の身体から滑って千秋の横顔に降りかかり、同時に消毒薬特有のつんとした匂いが鼻孔を満たす。
たまらずくしゃみを放てば、男は小馬鹿にした声で「おや失礼」などとのたまい、千秋の視界を塞いでいた布をたぐり寄せる。
「クリーニングだな」
「ちょっ、くしゃみしたのは悪いですけど、それでクリーニングとか酷すぎませんか!」
威勢よくさけび、だけど飛び起きようとしてまた押し倒されるなんてこりごりだと、半身を転がし首をもちあげ――。
千秋は、目の前にぶら下がる男のIDカードに記された〝医師〟の単語にぽかんと口を開いた。
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