17 / 34
=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
2-2.このドクター、口は悪いが顔はいい
しおりを挟む
そもそも最初からワケありな空気が漂っていたし、課長だってワケありだとはっきり口にしていた。にもかかわらず、またまた妹に彼氏を寝取られた挙げ句、なぜか親からは自分が怒られるといった状況にうんざりし、遠くへ行きたいという気持ちに従い飛びついた千秋が悪い。
悪いのだが――、さすがにこれはと口ごもりたくもなる。
「案内してくれた人が、うちの会社の人じゃなくて空港の管理会社の人だったってのもなあ」
事務所とは名ばかりな、客先の資料室にある一角に戻り第一声にぼやく。
今まで同様にチームがあり、上司がいて、先輩がいて――なんてことを考え緊張していたが、蓋を開けてみればなんのことはない、千秋が沖縄支局長で沖縄支局平社員。
つまり、誰もいない開放感を得るかわりに、なにが起きても自己責任ということだ。
(駄目押しに、客先のメインは空港ビルのシステムだけど、市内の病院のシステム保守も担当だし)
遠隔地勤務手当という人件費を抑えるために、二つの業務をひとまとめにしているのだろう。
「課長が頭を抱えるわけだわ。……規模は小さいけれど週ごとにトラブルが発生しているし、まったく違う業界のシステムを両方ってなると、頭の切り替えが大変だもんね」
基礎が同じでも、専門が違えばまるでお手上げな例は世にいくらでもある。
同じ営業でも、昨日までお菓子を売っていた人に、いきなり武器を売れと命令してもすぐに結果が出ないのと同じだ。
千秋は与えられたデスクに座りつつ、たよりない資料が入ったUSBをパソコンに差し込みウィルスチェックする。
その待ち時間に顔を真上に向け、我慢していた溜息を吐く。
「これは、人間として試されていますよ千秋さん」
少し色がくすみかかった天井を睨んで、弱気になりかけている自分自身へ活を入れる。
家族と離れて生きて行く。自分だけの人生を生きていく。それが絵空事や夢ではなく、現実として目の前にあり、考えていたより厳しいかもしれないからとひるんではいられない。
(逆に考えるんだ。ここで生き抜いて帰れれば、きっとどこでも生きていける)
――すくなくとも、仕事だけはそうだ。
ふんっ、と鼻息も荒く顔を正面に向け、パソコンのデスクトップに付箋アプリを貼り付けて、やることを思いつく端から書きだす。
資料を読み込む。本当か確認して最新を残して整理する。過去の障害事例を読む。
「あと……できるだけ、人のつながりを作ったほうがいいな」
資料が数値で管理されていないような客先は、人同士のつながりが密で長老的な人が情報を握っていることがままある。
それでなくとも本当に資料通りの設定がされているのか、機器が置かれているのかさえも怪しい。
つまり、今までのようにデスクワークだけではやがて行き詰まるということだ。
「今日の障害は、業務用Wi-Fiが繋がったり切れたりが頻繁で、地上組から仕事にならないって声が上がって来ているんだっけ」
最初は一日に一回か二回だったのが、今では一、二時間に一回と頻繁になって来ているらしい。
使っているのは手荷物受付の連絡や勤怠管理など、飛行機の運航には大きく影響がないものではあるが、少し気になる。
「これは、直接行ってから資料の場所に機器があるか、電源が通ってるかを確認するのが先だよね」
幸い、着任初日の午後に滑走路へ降りる資格試験を受けて合格している。
飛行機の真下は無理だが、屋根があるエリアまでは立ち入り許可が出ているのを幸いに、千秋は昼休みの間で資料を頭に叩き込み、午後一杯を使って〝ハブ(蛇じゃないよ)〟を探す旅にでることにした。
悪いのだが――、さすがにこれはと口ごもりたくもなる。
「案内してくれた人が、うちの会社の人じゃなくて空港の管理会社の人だったってのもなあ」
事務所とは名ばかりな、客先の資料室にある一角に戻り第一声にぼやく。
今まで同様にチームがあり、上司がいて、先輩がいて――なんてことを考え緊張していたが、蓋を開けてみればなんのことはない、千秋が沖縄支局長で沖縄支局平社員。
つまり、誰もいない開放感を得るかわりに、なにが起きても自己責任ということだ。
(駄目押しに、客先のメインは空港ビルのシステムだけど、市内の病院のシステム保守も担当だし)
遠隔地勤務手当という人件費を抑えるために、二つの業務をひとまとめにしているのだろう。
「課長が頭を抱えるわけだわ。……規模は小さいけれど週ごとにトラブルが発生しているし、まったく違う業界のシステムを両方ってなると、頭の切り替えが大変だもんね」
基礎が同じでも、専門が違えばまるでお手上げな例は世にいくらでもある。
同じ営業でも、昨日までお菓子を売っていた人に、いきなり武器を売れと命令してもすぐに結果が出ないのと同じだ。
千秋は与えられたデスクに座りつつ、たよりない資料が入ったUSBをパソコンに差し込みウィルスチェックする。
その待ち時間に顔を真上に向け、我慢していた溜息を吐く。
「これは、人間として試されていますよ千秋さん」
少し色がくすみかかった天井を睨んで、弱気になりかけている自分自身へ活を入れる。
家族と離れて生きて行く。自分だけの人生を生きていく。それが絵空事や夢ではなく、現実として目の前にあり、考えていたより厳しいかもしれないからとひるんではいられない。
(逆に考えるんだ。ここで生き抜いて帰れれば、きっとどこでも生きていける)
――すくなくとも、仕事だけはそうだ。
ふんっ、と鼻息も荒く顔を正面に向け、パソコンのデスクトップに付箋アプリを貼り付けて、やることを思いつく端から書きだす。
資料を読み込む。本当か確認して最新を残して整理する。過去の障害事例を読む。
「あと……できるだけ、人のつながりを作ったほうがいいな」
資料が数値で管理されていないような客先は、人同士のつながりが密で長老的な人が情報を握っていることがままある。
それでなくとも本当に資料通りの設定がされているのか、機器が置かれているのかさえも怪しい。
つまり、今までのようにデスクワークだけではやがて行き詰まるということだ。
「今日の障害は、業務用Wi-Fiが繋がったり切れたりが頻繁で、地上組から仕事にならないって声が上がって来ているんだっけ」
最初は一日に一回か二回だったのが、今では一、二時間に一回と頻繁になって来ているらしい。
使っているのは手荷物受付の連絡や勤怠管理など、飛行機の運航には大きく影響がないものではあるが、少し気になる。
「これは、直接行ってから資料の場所に機器があるか、電源が通ってるかを確認するのが先だよね」
幸い、着任初日の午後に滑走路へ降りる資格試験を受けて合格している。
飛行機の真下は無理だが、屋根があるエリアまでは立ち入り許可が出ているのを幸いに、千秋は昼休みの間で資料を頭に叩き込み、午後一杯を使って〝ハブ(蛇じゃないよ)〟を探す旅にでることにした。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
天鬼ざくろのフリースタイル
ふみのあや
キャラ文芸
かつてディスで一世を風靡した元ラッパーの独身教師、小鳥遊空。
ヒップホップと決別してしまったその男がディスをこよなく愛するJKラッパー天鬼ざくろと出会った時、止まっていたビートが彼の人生に再び鳴り響き始めた──。
※カクヨムの方に新キャラと設定を追加して微調整した加筆修正版を掲載しています。
もし宜しければそちらも是非。
独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯
あさかん
ライト文芸
~以後不定期更新となります~
両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。
「……おじさん」
主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。
「俺の所に来ないか?」
会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。
2人に訪れる結末は如何に!?
失恋少女と狐の見廻り
紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。
人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。
一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか?
不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」
化想操術師の日常
茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。
化想操術師という仕事がある。
一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。
化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。
クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。
社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。
社員は自身を含めて四名。
九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。
常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。
他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。
その洋館に、新たな住人が加わった。
記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。
だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。
たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。
壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。
化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。
野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる