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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
1-5 寝取られましたが、それがなにか?
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正直、彼氏と妹が半裸で組んずほぐれつしていた時よりも、実家に呼び出され不条理な理由で叱られた時よりも、会社に行って人がいたことに驚いた。
会社から歩いて一キロない処に激安物件が借りられたこともあり、入社してこちら、課で一番早く出社するのはいつも千秋で、誰もいない静かなオフィスの中、一階で購入したおにぎりと共同費で購入されるお茶で朝ごはんを済ませるのが日課になっていた。
もちろん、年末から年度末にかけては世間の例に漏れず――というか、世間一般よりもハードコアに働かされるIT関連会社とあって、その時期だけは徹夜明けと一目で分かる死体のような有様で床に転がり寝ている人や、子どもの写真を見ながら遠い目をして死亡フラグを立てる中堅社員のおじさん、はたまた、鉄火場の二丁拳銃ならぬダブルキーボードに二つの画面、肩には電話という仕事モードで朝から顧客のクレーム対応をしつつ、ソースコード――プログラムのチェックをするリーダーなどいたりもしたが、そんな波もすぎさって、遅ればせながらの有休消化や、新入社員研修がメインとなる四月に、千秋より早く出社する人は皆無。
だから、ビルの間から差し込む朝日に塗りつぶされ、影に紛れるようにして頭を抱えた課長の姿にも、溜息の大きさにも驚いて、千秋は手に提げていたコンビニ袋を落としてしまった。
私のおにぎり! と急ぎ拾い上げ、課長より食べ物に気がいったことを取り繕うように、おはようございますと告げれば、またもや、はぁああああああ――と、大きな溜息が返された。
「どうしたんですか、課長。……なにか、トラブルでもあったんですか?」
そろりと様子をうかがえば、課長は頭を上げ、めっきり老け込んだ顔を千秋に見せた。
「ああ、うん。守屋さんかぁ……。うん、まあ」
やっかいごとには関わりたくないが、仕事の障害や事件であれば情報は早く握って潰すに限る。長くもない社会人生活で身に染みていた千秋は、無言でどうにでも取れるような笑顔を浮かべる。
「障害とか、故障じゃあないんだけどねえ。……隣の課から、人を貸してって言われてさあ」
「隣の課といえば、流通グループですか?」
千秋がいる医療第一グループが総合病院や大学病院を相手に、電子カルテや診療報酬請求システム――いわゆるレセコンや、医療論文検索システムなどをセットにして売るのに対し、隣の流通グループはトラックや船便、あるいは航空便を使った輸送管理や、旅客のチケット発券システムとか、運行管理という、時刻表をリアルタイムで電子掲示板やらネットに配信するものをまとめて売っている。
まったく違う業界相手ではあるが、中身のシステムは核心に近ければ近いほど同じなため、たびたび、人を貸したり借りたりしていた。
だからそんなに落ち込む話でもないのになあ。と首を傾げれば、課長はとんでもないことをぼやきだす。
「隣の課でシステム管理できる奴が、システム入れ替えの調査要員アンド今使っているシステムの保守担当として、沖縄に出向していたんだけど……なんか、そのまま行方知れずになったらしくてねえ」
「はあっ?」
「まあ、こういう徹夜上等なブラック業界だから、二年に一人ぐらい、遠くへ行きたいとか書き残して、会社や同僚に何も言わず、ふらっと消える奴はいるんだけど」
いやいや、それはそれで問題でしょうがと内心突っ込みつつ、ひきつった笑顔で相づちを打つが、課長は見もせず、ただただ、胸の中を吐露しつづける。
「もう無理です」とだけ書き置きして消えたその社員は、世を儚んで――いるわけもなく、東北にある実家に逃げ帰って、そのまま押し入れから出て来なかったのだとか。
「それを引っ張り出して、働かせるなんて無理だからそれはそれで自主退職扱いにしちゃったから、どうでもいいんだけど」
「どうでもいいんだ……」
いや、社会人として結構それはダメなんじゃ? との疑問から千秋の口から素のままな言葉が出たが、悩める課長の耳には届いていなかった。
「客先が代替要員を出せ、出せの連呼でさ。……でもあちらさん、既婚者ばかりな上に、家を建てたとか子ども生まれましたなおめでたが続いたじゃない? それで、独身がいるウチから一人なんとかって言われたんだけど……打診した奴らにことごとくお断りされてね」
東京から沖縄はなかなかに遠い。日本最南端の県に転居しろといわれても即断できる奴は少ない。
「残ってるのは守屋さんか、関丸くんかってなっていて。でも守屋さんは女の子だし、関丸くんは相手方の条件から外れるから仕事にならないだろうし……で」
「って、別に私、構いませんけれど」
悩むあまりついに机に突っ伏した課長を前に、千秋は考えるより早く口を開いていた。
会社から歩いて一キロない処に激安物件が借りられたこともあり、入社してこちら、課で一番早く出社するのはいつも千秋で、誰もいない静かなオフィスの中、一階で購入したおにぎりと共同費で購入されるお茶で朝ごはんを済ませるのが日課になっていた。
もちろん、年末から年度末にかけては世間の例に漏れず――というか、世間一般よりもハードコアに働かされるIT関連会社とあって、その時期だけは徹夜明けと一目で分かる死体のような有様で床に転がり寝ている人や、子どもの写真を見ながら遠い目をして死亡フラグを立てる中堅社員のおじさん、はたまた、鉄火場の二丁拳銃ならぬダブルキーボードに二つの画面、肩には電話という仕事モードで朝から顧客のクレーム対応をしつつ、ソースコード――プログラムのチェックをするリーダーなどいたりもしたが、そんな波もすぎさって、遅ればせながらの有休消化や、新入社員研修がメインとなる四月に、千秋より早く出社する人は皆無。
だから、ビルの間から差し込む朝日に塗りつぶされ、影に紛れるようにして頭を抱えた課長の姿にも、溜息の大きさにも驚いて、千秋は手に提げていたコンビニ袋を落としてしまった。
私のおにぎり! と急ぎ拾い上げ、課長より食べ物に気がいったことを取り繕うように、おはようございますと告げれば、またもや、はぁああああああ――と、大きな溜息が返された。
「どうしたんですか、課長。……なにか、トラブルでもあったんですか?」
そろりと様子をうかがえば、課長は頭を上げ、めっきり老け込んだ顔を千秋に見せた。
「ああ、うん。守屋さんかぁ……。うん、まあ」
やっかいごとには関わりたくないが、仕事の障害や事件であれば情報は早く握って潰すに限る。長くもない社会人生活で身に染みていた千秋は、無言でどうにでも取れるような笑顔を浮かべる。
「障害とか、故障じゃあないんだけどねえ。……隣の課から、人を貸してって言われてさあ」
「隣の課といえば、流通グループですか?」
千秋がいる医療第一グループが総合病院や大学病院を相手に、電子カルテや診療報酬請求システム――いわゆるレセコンや、医療論文検索システムなどをセットにして売るのに対し、隣の流通グループはトラックや船便、あるいは航空便を使った輸送管理や、旅客のチケット発券システムとか、運行管理という、時刻表をリアルタイムで電子掲示板やらネットに配信するものをまとめて売っている。
まったく違う業界相手ではあるが、中身のシステムは核心に近ければ近いほど同じなため、たびたび、人を貸したり借りたりしていた。
だからそんなに落ち込む話でもないのになあ。と首を傾げれば、課長はとんでもないことをぼやきだす。
「隣の課でシステム管理できる奴が、システム入れ替えの調査要員アンド今使っているシステムの保守担当として、沖縄に出向していたんだけど……なんか、そのまま行方知れずになったらしくてねえ」
「はあっ?」
「まあ、こういう徹夜上等なブラック業界だから、二年に一人ぐらい、遠くへ行きたいとか書き残して、会社や同僚に何も言わず、ふらっと消える奴はいるんだけど」
いやいや、それはそれで問題でしょうがと内心突っ込みつつ、ひきつった笑顔で相づちを打つが、課長は見もせず、ただただ、胸の中を吐露しつづける。
「もう無理です」とだけ書き置きして消えたその社員は、世を儚んで――いるわけもなく、東北にある実家に逃げ帰って、そのまま押し入れから出て来なかったのだとか。
「それを引っ張り出して、働かせるなんて無理だからそれはそれで自主退職扱いにしちゃったから、どうでもいいんだけど」
「どうでもいいんだ……」
いや、社会人として結構それはダメなんじゃ? との疑問から千秋の口から素のままな言葉が出たが、悩める課長の耳には届いていなかった。
「客先が代替要員を出せ、出せの連呼でさ。……でもあちらさん、既婚者ばかりな上に、家を建てたとか子ども生まれましたなおめでたが続いたじゃない? それで、独身がいるウチから一人なんとかって言われたんだけど……打診した奴らにことごとくお断りされてね」
東京から沖縄はなかなかに遠い。日本最南端の県に転居しろといわれても即断できる奴は少ない。
「残ってるのは守屋さんか、関丸くんかってなっていて。でも守屋さんは女の子だし、関丸くんは相手方の条件から外れるから仕事にならないだろうし……で」
「って、別に私、構いませんけれど」
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