上 下
11 / 34
=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==

1-4 寝取られましたが、それがなにか?

しおりを挟む
 大学時代こそ、実家を出ると言うだけでまだ早いと理由もなく決めつけ、千春ちゃんのことで家が大変なのに、家族を見捨てるのと泣き落としにかかっていた両親も、千秋が大手コンピューター企業の関連会社に入社を決めてから態度が変わった。
 採用通知が来た当初こそ、「事務職ではなく技術職で、しかも残業が多いIT業界と知り女の子がそこまで働くのはみっともない」などとぼやいていた父と母は、「そのほうが残業代を稼げるし技術手当も出るから、家に沢山仕送りできるし」と千秋が反論した途端、戸惑いつつ口を閉じた。
 心臓の手術を数度受け、ようやく成人した妹の千春も、その頃に病気も回復し、ほとんど入院しなくなっていて、三年遅れではあるが、短大生として毎日を楽しく暮らしていた。
 もっとも、友達と喧嘩したり雨が降ったりした時だけ、都合よく熱が出たと倒れ、短大をさぼっていたが。
 主治医が健康体と判を押し、年に一度の定期検診でよしとなったのだから、いい加減、親も嘘を見抜いてしかればいいのに、手が掛かる子ほどかわいいのか、実際外見もすばらしく美しい千春が自慢なのか、まるで大名の姫君がごとく扱っており、多少のわがままや金銭的浪費には目をつぶってばかりいた。
 それでなくても彼女にかかった医療費は高く、おまけに千春は、胸の手術痕を消すために自費の美容形成手術を受けたりしていたので、しがないサラリーマンの父に家計を頼る守屋家は、毎月のローンを払えるか払えないかの綱渡りを続けていた。
 そこに千秋が、大手と関係ある上場企業の就職を決めたのだから、当然、家に住まわせて給料の半分――あるいはそれ以上を生活費で貰う算段を付けていたのは、口に出されずともわかっていた。
 通勤に一日に四時間。どうかしたら終電を逃し、タクシーかホテルかなんて暮らしより、安いアパートを借りてその分で残業したほうが身体にも財布にも優しいのは、働いたことがある人ならわかる話。
 それでも母だけは、料理はどうするのとか家事は? と口を出してきたけれど、物心ついたときから千春につきっきりで病院につめ、夜も遅く帰ってくる母に変わり、掃除・洗濯・晩ごはんをまかなってきたのは他ならぬ千秋だ。
 家事については、教えることはあっても教わることはない。
 ――逃げたいほど虐待された訳ではないが、関わりがないぐらいには離れたい。
 離れたいけれど、血縁を振り切る勇気もない千秋は、こうしてマイルドに親や妹と距離を置き、そうして、会社で仕事を認められ、褒められることにより遅まきながら自己肯定感を高めつつあった。
 その最中での彼氏寝取り事件。もう呆れて声もでない。
 いや、彼氏にではなく、両親妹、その他親戚どもにである。
 ――判官びいきではないけれどさあ。強気の被害者より弱気の被害者を装った加害者のほうが、得をする環境だからねえ。
 的確に千秋の置かれた状況を見抜きそんな風にまとめてしまったのは、母方の従兄弟で、親戚の中で唯一、千春に興味が無い――というか、千秋も、その他にも覚めていた、東條の叔父さん家の秀基にいさんだったろうか。
 干支を一周するほど年齢が離れた彼とは祖母の葬式からこちら、もう十年は会っていないが、なるほどと今なら思う。
 儚くもろく美しいものはそれだけで人の心を魅了する。薄く繊細なガラス細工の品がキラキラと輝く様に見とれるように目を惹かれ、思考を奪われ、それが割れた時、どんな刃物よりも切れ味が鋭い傷をつけるかなどこれっぽっちも考えない。
 いや、本能的に知っているからこそ、壊さないように優しく接し大切にするのだろうか。
 生まれつき雑草で、産声を上げた時から予見されたように手を掛けずともしぶとく育ち、踏まれても切られてもどこ吹く風と、伸び伸び育った千秋にはわからない。
 むしろ、わからなくていいとすら思う。
 妹や、彼女を甘やかす周囲に腹はたつけれど、彼らには彼らなりの事情や打算があるのだと、大学に入ってからこちら悟ってしまった。
 一番穏便なのは、できるだけ接さないように、彼らの世界を壊さないようにフェードアウトすることだと見抜き、実家を出ることで距離を置いたのだが。
 ――やはり埼玉と東京では、なんの隔てにもならなかった。
 誕生日に彼氏を寝取ろうとした妹も、寝取られた千秋も大概だが、それを一方の意見だけで物事を決めつけ、断罪する両親もこりごりだ。
 恋が失われたことより、今後いかにして、あのやっかいな人達と関わらずに生きて行くかと、頭痛を抱え千秋がいつも通りに出社すると、千秋より沈痛な顔をして、窓際から入り口に立つ千秋にまで届く大きな溜息をついて、課長――直属の上位が頭を抱えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

ヒロインに騙されて婚約者を手放しました<番外編:リアムの場合>

結城芙由奈 
恋愛
<僕の世界一可愛い婚約者は、何故か自分に自信が持てない> 僕の名前はリアム・ネルソン。僕には勿体ない位素敵な婚約者がいる。彼女の名前はクリスティーナ・エバンズ。そして・・・僕の初恋の女性。彼女はとても可愛くて頭も良い。だけど一番魅力的なのはその明るい性格。彼女はいつも面白い事を話して僕を楽しませてくれる。口下手な僕には持ったない位の素敵な彼女だ。僕は彼女に嫌われたくないから、少しだけ距離を空けて接していた。だってそうでもしないとつまらない人間だと思われて、彼女に嫌わるのが怖かったから。けれどもある日、とうとう恐れていたことが起こってしまった。いきなり彼女から分厚い手紙を受け取って別れを告げられてしまったんだ。もう曖昧な態度を取るのはやめよう。彼女にはっきり自分の気持ちを伝えるんだ。それも飛び切りの方法で・・! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています

犯罪カウンセラー

一宮 沙耶
大衆娯楽
精神を病む凶悪犯罪者を刑務所で治療するカウンセラー 犯罪者は、何を語るのか? ※過去に書いた小説をカウンセラーを軸にリメークして合体させました。カウンセラー部分は新たに書いています。

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

えんとっぷ
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。

処理中です...