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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==

1-4 寝取られましたが、それがなにか?

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 大学時代こそ、実家を出ると言うだけでまだ早いと理由もなく決めつけ、千春ちゃんのことで家が大変なのに、家族を見捨てるのと泣き落としにかかっていた両親も、千秋が大手コンピューター企業の関連会社に入社を決めてから態度が変わった。
 採用通知が来た当初こそ、「事務職ではなく技術職で、しかも残業が多いIT業界と知り女の子がそこまで働くのはみっともない」などとぼやいていた父と母は、「そのほうが残業代を稼げるし技術手当も出るから、家に沢山仕送りできるし」と千秋が反論した途端、戸惑いつつ口を閉じた。
 心臓の手術を数度受け、ようやく成人した妹の千春も、その頃に病気も回復し、ほとんど入院しなくなっていて、三年遅れではあるが、短大生として毎日を楽しく暮らしていた。
 もっとも、友達と喧嘩したり雨が降ったりした時だけ、都合よく熱が出たと倒れ、短大をさぼっていたが。
 主治医が健康体と判を押し、年に一度の定期検診でよしとなったのだから、いい加減、親も嘘を見抜いてしかればいいのに、手が掛かる子ほどかわいいのか、実際外見もすばらしく美しい千春が自慢なのか、まるで大名の姫君がごとく扱っており、多少のわがままや金銭的浪費には目をつぶってばかりいた。
 それでなくても彼女にかかった医療費は高く、おまけに千春は、胸の手術痕を消すために自費の美容形成手術を受けたりしていたので、しがないサラリーマンの父に家計を頼る守屋家は、毎月のローンを払えるか払えないかの綱渡りを続けていた。
 そこに千秋が、大手と関係ある上場企業の就職を決めたのだから、当然、家に住まわせて給料の半分――あるいはそれ以上を生活費で貰う算段を付けていたのは、口に出されずともわかっていた。
 通勤に一日に四時間。どうかしたら終電を逃し、タクシーかホテルかなんて暮らしより、安いアパートを借りてその分で残業したほうが身体にも財布にも優しいのは、働いたことがある人ならわかる話。
 それでも母だけは、料理はどうするのとか家事は? と口を出してきたけれど、物心ついたときから千春につきっきりで病院につめ、夜も遅く帰ってくる母に変わり、掃除・洗濯・晩ごはんをまかなってきたのは他ならぬ千秋だ。
 家事については、教えることはあっても教わることはない。
 ――逃げたいほど虐待された訳ではないが、関わりがないぐらいには離れたい。
 離れたいけれど、血縁を振り切る勇気もない千秋は、こうしてマイルドに親や妹と距離を置き、そうして、会社で仕事を認められ、褒められることにより遅まきながら自己肯定感を高めつつあった。
 その最中での彼氏寝取り事件。もう呆れて声もでない。
 いや、彼氏にではなく、両親妹、その他親戚どもにである。
 ――判官びいきではないけれどさあ。強気の被害者より弱気の被害者を装った加害者のほうが、得をする環境だからねえ。
 的確に千秋の置かれた状況を見抜きそんな風にまとめてしまったのは、母方の従兄弟で、親戚の中で唯一、千春に興味が無い――というか、千秋も、その他にも覚めていた、東條の叔父さん家の秀基にいさんだったろうか。
 干支を一周するほど年齢が離れた彼とは祖母の葬式からこちら、もう十年は会っていないが、なるほどと今なら思う。
 儚くもろく美しいものはそれだけで人の心を魅了する。薄く繊細なガラス細工の品がキラキラと輝く様に見とれるように目を惹かれ、思考を奪われ、それが割れた時、どんな刃物よりも切れ味が鋭い傷をつけるかなどこれっぽっちも考えない。
 いや、本能的に知っているからこそ、壊さないように優しく接し大切にするのだろうか。
 生まれつき雑草で、産声を上げた時から予見されたように手を掛けずともしぶとく育ち、踏まれても切られてもどこ吹く風と、伸び伸び育った千秋にはわからない。
 むしろ、わからなくていいとすら思う。
 妹や、彼女を甘やかす周囲に腹はたつけれど、彼らには彼らなりの事情や打算があるのだと、大学に入ってからこちら悟ってしまった。
 一番穏便なのは、できるだけ接さないように、彼らの世界を壊さないようにフェードアウトすることだと見抜き、実家を出ることで距離を置いたのだが。
 ――やはり埼玉と東京では、なんの隔てにもならなかった。
 誕生日に彼氏を寝取ろうとした妹も、寝取られた千秋も大概だが、それを一方の意見だけで物事を決めつけ、断罪する両親もこりごりだ。
 恋が失われたことより、今後いかにして、あのやっかいな人達と関わらずに生きて行くかと、頭痛を抱え千秋がいつも通りに出社すると、千秋より沈痛な顔をして、窓際から入り口に立つ千秋にまで届く大きな溜息をついて、課長――直属の上位が頭を抱えていた。
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