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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
1-3 寝取られましたが、それがなにか?
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航空機の二重になった窓にこつりと額をあてて、千秋はぼんやりと思う。
(今思えば、妹に告白する前に私に別れを切り出した分、まだマシだったのかも)
若さゆえの潔癖さからか、あるいは馬鹿真面目で律儀だったのか。ともかく、最初の彼はきっちりとけじめを付けただけ偉かった。
その後の四人は事後承諾で、最後の一人――会社の同僚だった元彼なぞ、千秋の誕生日に千秋が一人暮らしする家で妹と裸でアレコレしていた挙げ句、千秋に見つかってなお開き直り、時間の無駄な言い訳と逆切れをぶちまけてくれた。
これが初めての体験であれば浮気特有の愁嘆場にもなるだろうが、生憎、こちとら妹に彼氏を取られて五度目。
未成年だったからか最初の彼氏だけは最中を目にすることはなかったが、大学以降の彼氏はどいつもこいつも腰を振る前中後とよりどりみどり。いっそ猿のほうがまだかわいげがある。
初めて妹に彼氏を取られた時は泣いた。泣いた上に諦めも悪かった。
同じ大学を志望していたから、合格したらまた恋が――なんて、世間知らずの純真無垢さで夢を見ていた。
だけど同じ手口で二度三度、卒業間際に四度目と続けば、男にも恋愛にも幻想を抱けない女一直線。
見事に枯れた新卒として社会で働き始め、仕事だけが人生とばかりに打ち込んでいたのに、仕事で組んだ先輩の断ってもめげぬ熱意に負け、付き合い始めて一年経たずのこの結果。
怒るより嘆くより恋に覚めてしまうのはしょうがない話ではないか。
大きく開いたブラウスの間からまろびでた妹の乳房を、鼻息も荒くブラジャー越しに鷲づかんでいた彼氏を目にし思ったのは、「あ、やっぱり」という呆れと「深い関係にならなくてよかった」という安堵だった。
(正直、セーフ! って心の中で叫んだぐらいだもんね)
我ながらひどすぎると思いつつ、口の端から乾いた笑いをこぼす。
度重なる裏切りに警戒し、男を信用するのは結婚してからと心に刻んでいたのは、よかったのか悪かったのか。
結婚までセックスしない。と初っぱなから宣言しつつ交際にオーケーを出した千秋に、元彼は「惚れ込んだら後悔するぞ」だの「俺がその気を変えてやる」だの口にしからかっていたが、(妹に)惚れ込んで後悔したのも、その気を変えたのもやっぱり、いつも通り彼氏からだった。
嫉妬一つ見せず色気を匂わせれば逃げる、そんな千秋の態度に傷ついた。俺の彼女だっていう気がしない。とそれまでの男達同様の言葉を投げかけられても響かない。
浮気されて悔しくないのかと吠えられ頭をよぎった台詞はといえば、『寝取られましたが、それがなにか?』である。
逆切れも哀願も土下座も右から左に聞き流し顔をしかめたのは、彼氏と別れるのが辛いのではなく――また親が騒ぐんだろうな。ということだけだ。
自己保身に走る元彼の下から首尾よく抜け出し、ベッドの下に脱ぎ散らかされていたスーツのジャケットやスカーフを掴んで胸元を隠した妹は、これまたいつも通り目をうるうるさせた被害者顔で、「千秋ちゃん、ごめん、私っ、断れなくって……ッ」と声を詰まらせ崩れかかるが、もう騙される子どもではない。
はいはい。わかったから。わかってるからと繰り返し、そこのオジさんに駅まで送って貰いなさいねとオカン丸出しの口調で告げて、荷物と服をひっつかみ二人まとめて追い出した。
やってられるかとビールの大きい方の缶を三本まとめて開けて、それでも酔えずに料理酒と塩を煽った次の日。
案の定、親から呼び出されアレやコレやと尋問のあげく、シメの一言でぶんなぐられた。
そもそも千秋はかわいげがない。かわいげがないのがいけない。
だから男がよりつかない。どころか千春に迷惑をかけるなんてとんでもない。
大体、女が勉強や仕事ができてどうする。できた男に愛されて結婚して、幸せな家庭を築いて、孫を産んでこそ一人前で、女で役職がどうこうなんて口にするのも恥ずかしい!
(あなたいつの時代から来たんですかな説教を二時間ほど喰らった挙げ句、千春を見習いなさいときたもんだ。……寝取られたのは私だし、いつもやりだすのは千春なのに)
通勤するには遠すぎるからを理由に一人暮らしし始め、盆正月も仕事で忙しいと断り、やっと親と妹から距離を置き、姉だからという理由で自分が折れなくてすむ暮らしを手に入れたと思ったのに、相手(千春)から来られては、どうにもならないではないか。
(やっぱり埼玉の端から東京都心にある本社ぐらいの距離じゃ、ダメだったんだなあ)
(今思えば、妹に告白する前に私に別れを切り出した分、まだマシだったのかも)
若さゆえの潔癖さからか、あるいは馬鹿真面目で律儀だったのか。ともかく、最初の彼はきっちりとけじめを付けただけ偉かった。
その後の四人は事後承諾で、最後の一人――会社の同僚だった元彼なぞ、千秋の誕生日に千秋が一人暮らしする家で妹と裸でアレコレしていた挙げ句、千秋に見つかってなお開き直り、時間の無駄な言い訳と逆切れをぶちまけてくれた。
これが初めての体験であれば浮気特有の愁嘆場にもなるだろうが、生憎、こちとら妹に彼氏を取られて五度目。
未成年だったからか最初の彼氏だけは最中を目にすることはなかったが、大学以降の彼氏はどいつもこいつも腰を振る前中後とよりどりみどり。いっそ猿のほうがまだかわいげがある。
初めて妹に彼氏を取られた時は泣いた。泣いた上に諦めも悪かった。
同じ大学を志望していたから、合格したらまた恋が――なんて、世間知らずの純真無垢さで夢を見ていた。
だけど同じ手口で二度三度、卒業間際に四度目と続けば、男にも恋愛にも幻想を抱けない女一直線。
見事に枯れた新卒として社会で働き始め、仕事だけが人生とばかりに打ち込んでいたのに、仕事で組んだ先輩の断ってもめげぬ熱意に負け、付き合い始めて一年経たずのこの結果。
怒るより嘆くより恋に覚めてしまうのはしょうがない話ではないか。
大きく開いたブラウスの間からまろびでた妹の乳房を、鼻息も荒くブラジャー越しに鷲づかんでいた彼氏を目にし思ったのは、「あ、やっぱり」という呆れと「深い関係にならなくてよかった」という安堵だった。
(正直、セーフ! って心の中で叫んだぐらいだもんね)
我ながらひどすぎると思いつつ、口の端から乾いた笑いをこぼす。
度重なる裏切りに警戒し、男を信用するのは結婚してからと心に刻んでいたのは、よかったのか悪かったのか。
結婚までセックスしない。と初っぱなから宣言しつつ交際にオーケーを出した千秋に、元彼は「惚れ込んだら後悔するぞ」だの「俺がその気を変えてやる」だの口にしからかっていたが、(妹に)惚れ込んで後悔したのも、その気を変えたのもやっぱり、いつも通り彼氏からだった。
嫉妬一つ見せず色気を匂わせれば逃げる、そんな千秋の態度に傷ついた。俺の彼女だっていう気がしない。とそれまでの男達同様の言葉を投げかけられても響かない。
浮気されて悔しくないのかと吠えられ頭をよぎった台詞はといえば、『寝取られましたが、それがなにか?』である。
逆切れも哀願も土下座も右から左に聞き流し顔をしかめたのは、彼氏と別れるのが辛いのではなく――また親が騒ぐんだろうな。ということだけだ。
自己保身に走る元彼の下から首尾よく抜け出し、ベッドの下に脱ぎ散らかされていたスーツのジャケットやスカーフを掴んで胸元を隠した妹は、これまたいつも通り目をうるうるさせた被害者顔で、「千秋ちゃん、ごめん、私っ、断れなくって……ッ」と声を詰まらせ崩れかかるが、もう騙される子どもではない。
はいはい。わかったから。わかってるからと繰り返し、そこのオジさんに駅まで送って貰いなさいねとオカン丸出しの口調で告げて、荷物と服をひっつかみ二人まとめて追い出した。
やってられるかとビールの大きい方の缶を三本まとめて開けて、それでも酔えずに料理酒と塩を煽った次の日。
案の定、親から呼び出されアレやコレやと尋問のあげく、シメの一言でぶんなぐられた。
そもそも千秋はかわいげがない。かわいげがないのがいけない。
だから男がよりつかない。どころか千春に迷惑をかけるなんてとんでもない。
大体、女が勉強や仕事ができてどうする。できた男に愛されて結婚して、幸せな家庭を築いて、孫を産んでこそ一人前で、女で役職がどうこうなんて口にするのも恥ずかしい!
(あなたいつの時代から来たんですかな説教を二時間ほど喰らった挙げ句、千春を見習いなさいときたもんだ。……寝取られたのは私だし、いつもやりだすのは千春なのに)
通勤するには遠すぎるからを理由に一人暮らしし始め、盆正月も仕事で忙しいと断り、やっと親と妹から距離を置き、姉だからという理由で自分が折れなくてすむ暮らしを手に入れたと思ったのに、相手(千春)から来られては、どうにもならないではないか。
(やっぱり埼玉の端から東京都心にある本社ぐらいの距離じゃ、ダメだったんだなあ)
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