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=1巻= 寝取られ女子、性悪ドクターと出会う ~ 永遠の愛はどこに消えた? ~==
0-2.高度一万メートルの黒歴史
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一ヶ月前に別れた元彼は営業で、体育会系の性格に相応しい単純な男だった。
彼はまるで部活で着るスタメンのユニフォームに憧れるように、エリートじみたスーツや高級時計に憧れ、コンビニでその手合いの特集雑誌を見つけては、千秋が夕飯を作る傍らで寝そべり、ページをめくって、今の会社でくすぶって終わらない。スキルを身につけてもっといい会社に転職するのだと口にしていた。
(まあ、口にする割に、資格試験の勉強はおざなりだし、買った雑誌も、私の家に置きっぱなしにして帰ってたんだけど)
一人暮らしの女の家には多すぎる男性ファッション雑誌を、ビニール紐でまとめて捨てたのはいつだったのか。まだ半月も経たないはずなのに、まるで思い出せない。
(やめやめっ! 終わったことはもう考えない。そのために沖縄への転勤を引き受けたんだから!)
自分に言い聞かせ、背の高いフルートグラスに注がれたスパークリングワインをひと息にあおる。
そして、通路を周回していた客室乗務員に、空のグラスを掲げおかわりを頼む。
(スパークリングワインっていっても、二時間の間飲み放題って……もう、それだけで別格な感じ)
一般の乗客席では、オレンジジュースかコーヒーまたはお茶が一度だけの提供と考えれば、それだけで自分が特別扱いされている気がしてしまう。
なんて非日常。まるでお嬢様のよう。
高い高い空の上で、どこまでも遠く、縁の方で少しだけ丸くなった地平線に地球の丸さを知りながら、千秋は思う。
(違う私に、なる)
だから昨日までのことは忘れよう。明日から千秋は常夏の地で輝きに満ちた日々を送るのだ。
別れた男など、南国の太陽に焼かれて白い灰になって消えてしまえ。
幸いなことに、この便が到着する沖縄は雲一つない晴れとアナウンスがあった。
だからきっと、離陸の時に目にする夕暮れと最後の太陽が、終わった恋に綺麗に幕を引いてくれるだろう。
そう思いつつ、新たに注がれたスパークリングワインを取ろうとし、自分のささくれが目立つ指先と、ネイルどころか手入れもされていない、短すぎる爪が目に留まる。
――なんか、お前といると恋人ではなく男友達と付き合っているみたいで、嫌なんだよ。色気も飾り気もなさすぎて。恥ずかしかったんだよ。これが彼女だって言うのも。
だったらなんで告白したのよと啖呵を切って平手打ちしたが、元彼の捨て台詞は千秋のコンプレックスにまともに突き刺さった。
仕事に明け暮れ、それがまた楽しく、やりがいがあるのでメイクやボディケアにあまり目が行っていなかったことは認める。
けれど、一度は彼氏であった男から言われると、やはりきつい。
溜息をつき、腰裏にいれていたポーチを探り、空港で購入したばかりのハンドクリームを抜き取る。
どうせ今日が最後だと、免税される外国人でもないのにブランドのメイクセットを購入し、そのおまけに渡された、新作のハンドクリームだ。
(さすがハイブランド。……試供品なのにパンパンに詰まってる!)
はち切れんばかりに膨らんだチューブ容器を眺めつつ、これよこれ、と無理にテンションを盛り上げる。
コンビニで間に合わせに買うものや、ドラッグストアでセールされている量販品とは違う、黒に金色のロゴをあしらった外装も素敵だが、ケチケチしないたっぷりさがいい。
そんなことを考えにんまりし、蓋をあけ、未開封の証であるアルミフィルムを剥がす。
途端、ぶちゅっ、と変な音がして白いクリームが目の前を飛ぶ。
「うわっ!」
思わず声をあけ、顔に掛かるのを避けようと千秋は手を避けた。
――それが、いけなかった。
空を飛んだ白いクリームの塊は、そのまま綺麗な放物線を描き、隣に座る男のあらぬ場所――つまり股間へと落ちていった。
彼はまるで部活で着るスタメンのユニフォームに憧れるように、エリートじみたスーツや高級時計に憧れ、コンビニでその手合いの特集雑誌を見つけては、千秋が夕飯を作る傍らで寝そべり、ページをめくって、今の会社でくすぶって終わらない。スキルを身につけてもっといい会社に転職するのだと口にしていた。
(まあ、口にする割に、資格試験の勉強はおざなりだし、買った雑誌も、私の家に置きっぱなしにして帰ってたんだけど)
一人暮らしの女の家には多すぎる男性ファッション雑誌を、ビニール紐でまとめて捨てたのはいつだったのか。まだ半月も経たないはずなのに、まるで思い出せない。
(やめやめっ! 終わったことはもう考えない。そのために沖縄への転勤を引き受けたんだから!)
自分に言い聞かせ、背の高いフルートグラスに注がれたスパークリングワインをひと息にあおる。
そして、通路を周回していた客室乗務員に、空のグラスを掲げおかわりを頼む。
(スパークリングワインっていっても、二時間の間飲み放題って……もう、それだけで別格な感じ)
一般の乗客席では、オレンジジュースかコーヒーまたはお茶が一度だけの提供と考えれば、それだけで自分が特別扱いされている気がしてしまう。
なんて非日常。まるでお嬢様のよう。
高い高い空の上で、どこまでも遠く、縁の方で少しだけ丸くなった地平線に地球の丸さを知りながら、千秋は思う。
(違う私に、なる)
だから昨日までのことは忘れよう。明日から千秋は常夏の地で輝きに満ちた日々を送るのだ。
別れた男など、南国の太陽に焼かれて白い灰になって消えてしまえ。
幸いなことに、この便が到着する沖縄は雲一つない晴れとアナウンスがあった。
だからきっと、離陸の時に目にする夕暮れと最後の太陽が、終わった恋に綺麗に幕を引いてくれるだろう。
そう思いつつ、新たに注がれたスパークリングワインを取ろうとし、自分のささくれが目立つ指先と、ネイルどころか手入れもされていない、短すぎる爪が目に留まる。
――なんか、お前といると恋人ではなく男友達と付き合っているみたいで、嫌なんだよ。色気も飾り気もなさすぎて。恥ずかしかったんだよ。これが彼女だって言うのも。
だったらなんで告白したのよと啖呵を切って平手打ちしたが、元彼の捨て台詞は千秋のコンプレックスにまともに突き刺さった。
仕事に明け暮れ、それがまた楽しく、やりがいがあるのでメイクやボディケアにあまり目が行っていなかったことは認める。
けれど、一度は彼氏であった男から言われると、やはりきつい。
溜息をつき、腰裏にいれていたポーチを探り、空港で購入したばかりのハンドクリームを抜き取る。
どうせ今日が最後だと、免税される外国人でもないのにブランドのメイクセットを購入し、そのおまけに渡された、新作のハンドクリームだ。
(さすがハイブランド。……試供品なのにパンパンに詰まってる!)
はち切れんばかりに膨らんだチューブ容器を眺めつつ、これよこれ、と無理にテンションを盛り上げる。
コンビニで間に合わせに買うものや、ドラッグストアでセールされている量販品とは違う、黒に金色のロゴをあしらった外装も素敵だが、ケチケチしないたっぷりさがいい。
そんなことを考えにんまりし、蓋をあけ、未開封の証であるアルミフィルムを剥がす。
途端、ぶちゅっ、と変な音がして白いクリームが目の前を飛ぶ。
「うわっ!」
思わず声をあけ、顔に掛かるのを避けようと千秋は手を避けた。
――それが、いけなかった。
空を飛んだ白いクリームの塊は、そのまま綺麗な放物線を描き、隣に座る男のあらぬ場所――つまり股間へと落ちていった。
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