敏腕ドクターは孤独な事務員を溺愛で包み込む

華藤りえ

文字の大きさ
10 / 52
1.カルテの森と眠るドクター

1-9

しおりを挟む
「歩美もがんばるねー。神野先生の出勤時間を狙って郵便局に行くなんてさ」

 聞こえた内容に、ブラウスのボタンを外す指が止まる。

「そう。出勤時間を狙って待ち伏せ」
「ストーカーか……って言いたいけど、それを言ったら、心臓血管外科病棟に居る看護師のあの子が上手だよね」

 ロッカーを開く音や、着替えをする物音が重なる。

 相手は三人組のようで、相づちを打つ端から質問が飛ぶ。

「聞いた聞いた。神野先生が泊まりの時だけめちゃくちゃ真面目で、オーダーがあるとすぐ動くって。心外部長にも甘ったれだったのにね」
「なにかと医局に入っては、教えてください神野せんせぇーって。まだ二年目だしぃって……で、教えたらお礼に食事でも……とか?」
「そうそう。それで神野先生の返事が、『教えたら飯をおごるとか言うのは、今日は君で三人目だが、ここの女性看護師の伝統かなにかか?』だってさ。機会があったら俺がおごるから、またね。なんて当たらず障らずで、軽くあしらわれたみたい。スマートに逃げる手口からして、もう相当に場数を踏んでるっぽい」

 聞くのは失礼だ。と思いながら、なるほどとうなる。

 神野がカルテ庫に来る事情を理解した。

 仮眠室や医局では休ませてもらえないほど、おモテてになっていらっしゃるようだ。

 ますます盛り上がる声に紛れさせつつため息を吐き、朱理は気配を隠しながら着替える。

 しかし彼女らは、朱理がいるとも気づかず、身ぶりを加えながら盛り上がっていた。

「もうかっこいいやら、憎いやらだよね。勤務シフト見て出待ちする歩美の気持ちがわかるわ」
「あたしらは医療従事者と違ってドクターと一緒に仕事しないし。医事課や医療資材課ならまだしも、ただの事務じゃねえ。接点ないっつーの」

 歩美と呼ばれていた女性が、リップグロスを塗り直している。ショートカットにきりっとした顔立ちの美人でスタイルもいい。

(あんなにきれいな人でも相手にされないんだ。……あ、でも私も相手をしてなかったから、同じか)

 つまり、職場では面倒を避けたい系。

 納得しながら、更衣室を出て職員通用口を抜けて駐車場へ向かう。

 朱理は徒歩通勤だが、駐車場裏口からの方が家に近いし道も明るく安全だ。

 トートバッグを探りながら眼鏡ケースを出そうとするも、なかなか手に触れない。

 財布、お弁当とスマートフォン――と、ポーチなどで分類して整理しているのに。

 首をかしげていると、駐車場に止まっていた一台の車から、小さい子どもが飛び出して走ってくる。

「あか姉ちゃん!」

 ふわふわの癖っ毛を左右に結んだ幼稚園児の姪と、生意気盛りな小学二年生の甥っ子だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

処理中です...