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にじいろの ねこ

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 天使のなみだのような雨がふっています。そのなみだよりも上、ずうっと上の空に、大きな橋がかかっています。
 赤いスカーフをまいた真っ黒なねこがしっぽをピンと持ち上げて、その橋をさっそうと歩いていました。

 すると橋の向こうから白いたまごが歩いてきました。
 白いたまごはねこを見ると
「きゃあ! こわいよう」
と、そこにうずくまってしまいました。

「だいじょうぶだよ こわくないよ」
 ねこは言いましたが、たまごはうずくまったまま動きません。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向きました。
「こわがりなあなたの中に、強さをプレゼントしましょう!」

 真っ黒なねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えると白いたまごは赤い色になり、心が強くなりました。
 真っ黒なねこは、とても暗いグレイのねこになりました。

 赤いたまごと、赤いスカーフをまいたとても暗いグレイのねこがしっぽをピンと持ち上げて、その橋をかろやかに歩いていました。
 すると橋の向こうから白いたまごが歩いてきました。

 白いたまごはねこを見ると、つまらなさそうにそっぽをむきました。
「どうしたの?」
ねこがたずねると
「なんだかつまらないの」
 白いたまごはそう言って、またそっぽをむいてしまいました。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向きました。
「たいくつなあなたの中に、楽しさをプレゼントしましょう!」

 とても暗いグレイのねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えると白いたまごはオレンジ色になり、心が楽しくなりました。
 とても暗いグレイのねこは、暗いグレイのねこになりました。

 赤いたまごと、オレンジ色のたまごと、赤いスカーフをまいた暗いグレイのねこがしっぽを持ち上げて、橋を歩いていました。
 すると橋の向こうから白いたまごが泣きながら歩いてきました。
「どうしたの?」
ねこがたずねると
「みんなといっしょにいないとさみしい」
 白いたまごはそう言って、またしくしくと泣き出しました。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向いて
「さみしがりやのあなたの中に、にぎやかさをプレゼントしましょう」
 暗いグレイのねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。

 すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えるとたまごは黄色になり、心が明るくなりました。
 暗いグレイのねこは、グレイのねこになりました。

 赤いたまごと、オレンジ色のたまごと、黄色いたまごと、赤いスカーフをまいたグレイのねこがしっぽをなびかせて、ゆっくりと歩いていました。
 すると橋の向こうから白いたまごが歩いてきました。白いたまごはねこに気付かずトボトボ歩いていきます。
「どうしたの?」
ねこがたずねると
「なんだかね、つかれちゃったの」
 白いたまごはそう言って、ふぅ、とためいきをつきました。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向いて
「つかれてしまったあなたの中に、安心をプレゼントしましょう」
 グレイのねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。

 すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えると白いたまごはみどり色になり、心が安心しました。
 グレイのねこは、明るいグレイのねこになりました。

 赤いたまごと、オレンジ色のたまごと、黄色いたまごと、みどり色のたまごと、赤いスカーフをまいた明るいグレイのねこがしっぽを少し下げて、しずかに歩いていました。
 すると橋の向こうから白いたまごが歩いてきました。
 白いたまごはねこに気付くと
「じゃまじゃま! どいて!」
とおこりだしました。
「ああ、あたまにくる なぜこんなにイライラするんだろう」
 白いたまごはそう言って、ずっとおこっています。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向いて
「イライラするあなたの中に、お休みをプレゼントしましょう」
 明るいグレイのねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。

 すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えると白いたまごは青色になり、心がしずかになりました。
 明るいグレイのねこは、とても明るいグレイのねこになりました。

 赤いたまごと、オレンジ色のたまごと、黄色いたまごと、みどり色のたまごと、青色のたまごと、赤いスカーフをまいたとても明るいグレイのねこがしっぽをだらりと下げて、ヨロヨロと歩いていました。すると橋の向こうから白いたまごが歩いてきました。
 白いたまごはねこに気付くとそのまま通りすぎて歩いていきました。
「こんにちは どうしたの?」
ねこは白いたまごに話しかけました。
「何を見ても何もかんじないの」
 白いたまごはそう言って、あきらめたように歩いていきます。
 ねこは少し考えると、そうだ、とうなずき後ろを向いて
「かんどうしないあなたの中に、心をプレゼントしましょう」
 とても明るいグレイのねこはそう言うと、しっぽをぐるんと大きく回しました。
 すると、しっぽからキラキラした光が出て、白いたまごをつつみました。
 光が消えると白いたまごはむらさき色になり、心が生まれました。

 とても明るいグレイのねこは真っ白なねこになり、パタリとたおれてしまいました。
 たまごたちに色をすべて分けてしまったねこは、自分の力をうしなってしまったのです。

「だいじょうぶ?」 「しっかりして!」
 真っ白なねこはたおれたまま動きません。
「どうしよう」 「どうしよう」
 たまごたちはみんなでそうだんしました。

 そして、ねこからもらった色を少しずつねこに返してあげることにしました。

「私の色を少し返すね」 「私も」
 たまごたちはつぎつぎに自分たちがもらった色をねこに返していきました。
 赤、オレンジ、黄色、みどり、青、むらさき。

 すべての色を受けとったねこは、うつくしい『にじ色』のねこになりました。

「やさしいたまごたち ありがとう 私はすっかり元気になったよ」
「おれいに私からプレゼントをあげよう! これからたくさんの人に愛されるように! これからたくさんの愛でみたされるように!」

「それ!」

 ねこは首をぶるんと大きく回しました。

 すると、ねこの赤いスカーフからたくさんの小さな赤い玉が、たまごたちにむかってとんでいきました。
「ありがとう」 「ありがとう」
 たまごたちは、その赤い玉を両手につかんでゆっくりと下におりていきます。

「さあ、行ってらっしゃい!」
 ねこがさいごに大きく首をふり、しっぽをピンとのばすと、天使のなみだのような雨はあがり、空が明るくなりました。
 明るくなった空を、たまごたちは下へ下へとおりていきます。そして、たまごたちはバラバラになり、少しずつ色がうすくなって、女の人のおなかの中にきえていきました。


「オギャア! オギャア!」
 病院に元気ななき声がひびきわたりました。赤ちゃんのお母さんが、うれしそうに赤ちゃんをだいています。
「ふふふ、赤ちゃんって、手をギュッとむすんでいるのね。なぜかしら?」
お母さんのしつもんにお父さんが答えます。
「赤ちゃんはね、自分がもらえる分の愛情を両手に持って生まれてくるそうだよ」
「まあ! おりこうなのね!」
お母さんはそう言うと、赤ちゃんの手をやさしくなでました。
「ようこそ、私たちの赤ちゃん」

赤ちゃんの手がほんのりと赤く光ると、空に大きなにじがかかりました。
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