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次の日、早朝から慌ただしく支度をして、母を病院へ連れて行く。

母の足は昨日よりも大分良くなっていて、痛めた足を引きずりながらでも一応歩くことができるような状態だった。

病院へ行くことにあまり乗り気でない母だったけれど、一度は診てもらった方が良いと説得してタクシーで向かった。

父には留守番をしてもらい、戸締りに気を付けて家を出てきた。

タクシーの中で電話の履歴を見たのだけれど茜からの連絡はない。


どうしたんだろう……少し心がざわつく。

帰宅したら連絡してみよう。


わりとすんなりと順番が回ってきて、母はX線検査室に入る。

「救急にかかりましたか?」

固定のために巻いていた包帯を見て先生が訊いた。

「いえ」

「応急処置は君がやったの?」

「はい」

僕が答えると

「X線写真見ないと詳しいことはわかりませんが、見た感じ骨折はしていなさそうですね。処置も適切なので大した腫れもない。捻挫だけならすぐに痛みも治まってくると思いますよ」

そう言われたので少し安心して、僕はX線検査室の外で母を待った。

結局骨折はしておらず捻挫ということで、処置をしてもらい松葉杖を借りて診察は終わった。

会計を済ませると、母がこれから仕事へ行くと言い出した。

無理をしないほうが良いと止めたのだけれど、どうしても行くというので仕方なくタクシーで一緒に職場まで行き、僕は電車で帰ることにした。

家に近い駅に降りて電話を取り出す。

やはり茜からの連絡はない。こちらからの連絡にも返信がない。

一体どうしたんだろう。

やっぱり受け入れてもらえなかったんだろうか。

でも。

フラフラしていると、いつのまにか昨日のホームセンターの近くに来ていた。

そう言えば、茜が好きなハーブの名前、訊いてなかったな。

昨日茜が見ていたあたりの鉢植えを見てみる。

昨日と同じ形の葉と、茜の香りがする鉢植え。

ローズマリー?

ローズマリーっていうのか。

見ていると、違う鉢植えを持った店員さんが近付いてきた。

「あ、こちらが入ったばかりのローズマリーです」


 そんなバカな。だってこの花は……


「これもローズマリーなんですか?」

 僕は訊き直した。

「はい、今出ているものよりも大きくて少し違う環境で育てたものですが、こちらもローズマリーですよ」

確かに同じ香りがした。

でも、同じであっちゃいけないんだ。

辻褄(つじつま)が合っちゃいけないんだ!

僕はその大きなローズマリーを買って、急いで家に戻った。


家に帰ると玄関のカギが開いていた。

父が居なかった。

一人でどこかに行けるはずがない父が居なかった。


「父さん!」

多分父はいない。


「父さん!」

事実のかけらが確信に変わっていく。


「父さん!」



そうか

そうなのか

そうだったのか
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