25 / 29
4
2
しおりを挟む
次の日、早朝から慌ただしく支度をして、母を病院へ連れて行く。
母の足は昨日よりも大分良くなっていて、痛めた足を引きずりながらでも一応歩くことができるような状態だった。
病院へ行くことにあまり乗り気でない母だったけれど、一度は診てもらった方が良いと説得してタクシーで向かった。
父には留守番をしてもらい、戸締りに気を付けて家を出てきた。
タクシーの中で電話の履歴を見たのだけれど茜からの連絡はない。
どうしたんだろう……少し心がざわつく。
帰宅したら連絡してみよう。
わりとすんなりと順番が回ってきて、母はX線検査室に入る。
「救急にかかりましたか?」
固定のために巻いていた包帯を見て先生が訊いた。
「いえ」
「応急処置は君がやったの?」
「はい」
僕が答えると
「X線写真見ないと詳しいことはわかりませんが、見た感じ骨折はしていなさそうですね。処置も適切なので大した腫れもない。捻挫だけならすぐに痛みも治まってくると思いますよ」
そう言われたので少し安心して、僕はX線検査室の外で母を待った。
結局骨折はしておらず捻挫ということで、処置をしてもらい松葉杖を借りて診察は終わった。
会計を済ませると、母がこれから仕事へ行くと言い出した。
無理をしないほうが良いと止めたのだけれど、どうしても行くというので仕方なくタクシーで一緒に職場まで行き、僕は電車で帰ることにした。
家に近い駅に降りて電話を取り出す。
やはり茜からの連絡はない。こちらからの連絡にも返信がない。
一体どうしたんだろう。
やっぱり受け入れてもらえなかったんだろうか。
でも。
フラフラしていると、いつのまにか昨日のホームセンターの近くに来ていた。
そう言えば、茜が好きなハーブの名前、訊いてなかったな。
昨日茜が見ていたあたりの鉢植えを見てみる。
昨日と同じ形の葉と、茜の香りがする鉢植え。
ローズマリー?
ローズマリーっていうのか。
見ていると、違う鉢植えを持った店員さんが近付いてきた。
「あ、こちらが入ったばかりのローズマリーです」
そんなバカな。だってこの花は……
「これもローズマリーなんですか?」
僕は訊き直した。
「はい、今出ているものよりも大きくて少し違う環境で育てたものですが、こちらもローズマリーですよ」
確かに同じ香りがした。
でも、同じであっちゃいけないんだ。
辻褄(つじつま)が合っちゃいけないんだ!
僕はその大きなローズマリーを買って、急いで家に戻った。
家に帰ると玄関のカギが開いていた。
父が居なかった。
一人でどこかに行けるはずがない父が居なかった。
「父さん!」
多分父はいない。
「父さん!」
事実のかけらが確信に変わっていく。
「父さん!」
そうか
そうなのか
そうだったのか
母の足は昨日よりも大分良くなっていて、痛めた足を引きずりながらでも一応歩くことができるような状態だった。
病院へ行くことにあまり乗り気でない母だったけれど、一度は診てもらった方が良いと説得してタクシーで向かった。
父には留守番をしてもらい、戸締りに気を付けて家を出てきた。
タクシーの中で電話の履歴を見たのだけれど茜からの連絡はない。
どうしたんだろう……少し心がざわつく。
帰宅したら連絡してみよう。
わりとすんなりと順番が回ってきて、母はX線検査室に入る。
「救急にかかりましたか?」
固定のために巻いていた包帯を見て先生が訊いた。
「いえ」
「応急処置は君がやったの?」
「はい」
僕が答えると
「X線写真見ないと詳しいことはわかりませんが、見た感じ骨折はしていなさそうですね。処置も適切なので大した腫れもない。捻挫だけならすぐに痛みも治まってくると思いますよ」
そう言われたので少し安心して、僕はX線検査室の外で母を待った。
結局骨折はしておらず捻挫ということで、処置をしてもらい松葉杖を借りて診察は終わった。
会計を済ませると、母がこれから仕事へ行くと言い出した。
無理をしないほうが良いと止めたのだけれど、どうしても行くというので仕方なくタクシーで一緒に職場まで行き、僕は電車で帰ることにした。
家に近い駅に降りて電話を取り出す。
やはり茜からの連絡はない。こちらからの連絡にも返信がない。
一体どうしたんだろう。
やっぱり受け入れてもらえなかったんだろうか。
でも。
フラフラしていると、いつのまにか昨日のホームセンターの近くに来ていた。
そう言えば、茜が好きなハーブの名前、訊いてなかったな。
昨日茜が見ていたあたりの鉢植えを見てみる。
昨日と同じ形の葉と、茜の香りがする鉢植え。
ローズマリー?
ローズマリーっていうのか。
見ていると、違う鉢植えを持った店員さんが近付いてきた。
「あ、こちらが入ったばかりのローズマリーです」
そんなバカな。だってこの花は……
「これもローズマリーなんですか?」
僕は訊き直した。
「はい、今出ているものよりも大きくて少し違う環境で育てたものですが、こちらもローズマリーですよ」
確かに同じ香りがした。
でも、同じであっちゃいけないんだ。
辻褄(つじつま)が合っちゃいけないんだ!
僕はその大きなローズマリーを買って、急いで家に戻った。
家に帰ると玄関のカギが開いていた。
父が居なかった。
一人でどこかに行けるはずがない父が居なかった。
「父さん!」
多分父はいない。
「父さん!」
事実のかけらが確信に変わっていく。
「父さん!」
そうか
そうなのか
そうだったのか
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
真夏の温泉物語
矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
リストカット伝染圧
クナリ
青春
高校一年生の真名月リツは、二学期から東京の高校に転校してきた。
そこで出会ったのは、「その生徒に触れた人は、必ず手首を切ってしまう」と噂される同級生、鈍村鉄子だった。
鉄子は左手首に何本もの傷を持つ自殺念慮の持ち主で、彼女に触れると、その衝動が伝染してリストカットをさせてしまうという。
リツの両親は春に離婚しており、妹は不登校となって、なにかと不安定な状態だったが、不愛想な鉄子と少しずつ打ち解けあい、鉄子に触れないように気をつけながらも関係を深めていく。
表面上は鉄面皮であっても、内面はリツ以上に不安定で苦しみ続けている鉄子のために、内向的過ぎる状態からだんだんと変わっていくリツだったが、ある日とうとう鉄子と接触してしまう。
雨上がりに僕らは駆けていく Part2
平木明日香
青春
学校の帰り道に突如現れた謎の女
彼女は、遠い未来から来たと言った。
「甲子園に行くで」
そんなこと言っても、俺たち、初対面だよな?
グラウンドに誘われ、彼女はマウンドに立つ。
ひらりとスカートが舞い、パンツが見えた。
しかしそれとは裏腹に、とんでもないボールを投げてきたんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる