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玄
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いつまでそこにいただろう。
すっかり暗くなってしまった道をトボトボと歩く。
僕は今も泣いているだろうか?
それとも笑っているんだろうか?
「鏡がないからわからないな」
誰に言うわけでもなく呟く。
「お腹、空いたな」
また呟いて、開いているお店を探す。
パンでも買って歩きながら食べようかとお店に入ると、今日見たばかりの顔が近付いてきて、いきなり両手で僕の顔を覆った。
「だーれだ?」
「それは後ろからやるもんだよ」
けれど玄は僕の声を聞いても僕の顔を覆ったまま、入り口近くまで僕を押していった。
そして僕の身体を右に向かせて
「お前面白い顔してるから、とりあえずこれ持ってまっすぐ行けよ」
と、ポケットティッシュを持たせて僕を洗面所に送り出した。
ああ、そういうことか。
涙と鼻水と汗とでぐちゃぐちゃになった僕の顔は確かに面白かった。
水に濡らしたティッシュで顔を拭くと、まぶたが膨らんで一重になった僕が現れた。
「さっきとあんまり変わらないな」
洗面所の前で待っていた玄がそう言って笑った。
パンとコーヒーを買って、玄と共にお店を出る。
コーヒーを飲みながら並んで歩く。
だんだんと街灯が少なくなって、住宅街に入った。
明後日から試験前の短縮授業が始まる。
玄とは学校は違うけれど試験日は同じだから、試験のこと、夏休みのことなど他愛のない話をしながら、いつの間にか家の近所まで歩いてきていた。
僕はあの水辺であったことを玄に言えないでいた。
路地にさしかかったとき
「彼女にさ、嫌われたかもしれないんだ」
言葉に出した後、自分自身に現実を突きつけられて胸が苦しくなる。
「嫌われたかもしれないってことは、嫌われてないかもしれないってことだよな?」
「そうだけど……でもきっと」
玄は立ち止まって僕を見つめた。
「なぁ、茜ちゃんになんて言われたんだ?」
あれからずっと。
走り去る茜の姿がいつまでもいつまでも頭で再生されている。
水辺で膝を抱えていた時も。玄と話している今も。
なんて言われたんだっけ?走り去る前、なんて言われたんだっけ?
あぁ。そうだ。
「少し時間が欲しいって。また連絡するって」
そう答えると玄は真っ白な歯を見せてニッと笑い
「じゃあ、時間を与えてやれよ。連絡を待ってやれよ」
そう言って僕の肩をバンバンと叩いた。
「なぁ、空」
玄が続ける。
「例えば茜ちゃんがお前のことを好きじゃなくなったとして、別れるようなことになったとして、お前は茜ちゃんを好きじゃなくなるのか? お前は、茜ちゃんがおまえのことを好きだから、茜ちゃんのことを好きなのか? 違うよな? お前はそんな奴じゃない。いいじゃないか、両想いが片想いになったって。また振り向いてくれるまで待てばいいだけだろ? 茜ちゃんが連絡くれるまで待つのも、茜ちゃんがまた振り向いてくれるまで待つのも一緒だ。お前は待ってりゃいいんだよ!」
玄にかかると全ての悩みが簡単な問題に思えてくる。
いや、簡単な問題なのかもしれないな。
僕がわざわざ難しくしていただけかもしれない。
「僕は待ってたらいいのか?」
「そうだ! 待て! 犬のように!」
そう言って笑いながらまた歩き出す玄の後を慌てて追いかけ、また並ぶ。
結局僕の家まで送ってくれた形になった玄は
「到着しました姫! わたくしは下がらせていただきます」
と言って帰っていった。
「犬じゃなかったのかよ」
そう呟いて僕も家に入る。
かなり居心地の悪い家だけれど仕方がない。なるべく両親に関わらないように部屋に戻った。
正直、両親の様子が気にならないわけではない。
あんなにうなだれている父を残して今まで外出していたし、母も心配だろうと思う。
でも。
今は考えたくないんだ。
もう少し待ってほしい。
ああ、もしかしたら、茜もこうなのかな。
こうであったら、いいな。
鳴らない電話を抱きしめて、僕は背中を丸めて目を閉じた。
すっかり暗くなってしまった道をトボトボと歩く。
僕は今も泣いているだろうか?
それとも笑っているんだろうか?
「鏡がないからわからないな」
誰に言うわけでもなく呟く。
「お腹、空いたな」
また呟いて、開いているお店を探す。
パンでも買って歩きながら食べようかとお店に入ると、今日見たばかりの顔が近付いてきて、いきなり両手で僕の顔を覆った。
「だーれだ?」
「それは後ろからやるもんだよ」
けれど玄は僕の声を聞いても僕の顔を覆ったまま、入り口近くまで僕を押していった。
そして僕の身体を右に向かせて
「お前面白い顔してるから、とりあえずこれ持ってまっすぐ行けよ」
と、ポケットティッシュを持たせて僕を洗面所に送り出した。
ああ、そういうことか。
涙と鼻水と汗とでぐちゃぐちゃになった僕の顔は確かに面白かった。
水に濡らしたティッシュで顔を拭くと、まぶたが膨らんで一重になった僕が現れた。
「さっきとあんまり変わらないな」
洗面所の前で待っていた玄がそう言って笑った。
パンとコーヒーを買って、玄と共にお店を出る。
コーヒーを飲みながら並んで歩く。
だんだんと街灯が少なくなって、住宅街に入った。
明後日から試験前の短縮授業が始まる。
玄とは学校は違うけれど試験日は同じだから、試験のこと、夏休みのことなど他愛のない話をしながら、いつの間にか家の近所まで歩いてきていた。
僕はあの水辺であったことを玄に言えないでいた。
路地にさしかかったとき
「彼女にさ、嫌われたかもしれないんだ」
言葉に出した後、自分自身に現実を突きつけられて胸が苦しくなる。
「嫌われたかもしれないってことは、嫌われてないかもしれないってことだよな?」
「そうだけど……でもきっと」
玄は立ち止まって僕を見つめた。
「なぁ、茜ちゃんになんて言われたんだ?」
あれからずっと。
走り去る茜の姿がいつまでもいつまでも頭で再生されている。
水辺で膝を抱えていた時も。玄と話している今も。
なんて言われたんだっけ?走り去る前、なんて言われたんだっけ?
あぁ。そうだ。
「少し時間が欲しいって。また連絡するって」
そう答えると玄は真っ白な歯を見せてニッと笑い
「じゃあ、時間を与えてやれよ。連絡を待ってやれよ」
そう言って僕の肩をバンバンと叩いた。
「なぁ、空」
玄が続ける。
「例えば茜ちゃんがお前のことを好きじゃなくなったとして、別れるようなことになったとして、お前は茜ちゃんを好きじゃなくなるのか? お前は、茜ちゃんがおまえのことを好きだから、茜ちゃんのことを好きなのか? 違うよな? お前はそんな奴じゃない。いいじゃないか、両想いが片想いになったって。また振り向いてくれるまで待てばいいだけだろ? 茜ちゃんが連絡くれるまで待つのも、茜ちゃんがまた振り向いてくれるまで待つのも一緒だ。お前は待ってりゃいいんだよ!」
玄にかかると全ての悩みが簡単な問題に思えてくる。
いや、簡単な問題なのかもしれないな。
僕がわざわざ難しくしていただけかもしれない。
「僕は待ってたらいいのか?」
「そうだ! 待て! 犬のように!」
そう言って笑いながらまた歩き出す玄の後を慌てて追いかけ、また並ぶ。
結局僕の家まで送ってくれた形になった玄は
「到着しました姫! わたくしは下がらせていただきます」
と言って帰っていった。
「犬じゃなかったのかよ」
そう呟いて僕も家に入る。
かなり居心地の悪い家だけれど仕方がない。なるべく両親に関わらないように部屋に戻った。
正直、両親の様子が気にならないわけではない。
あんなにうなだれている父を残して今まで外出していたし、母も心配だろうと思う。
でも。
今は考えたくないんだ。
もう少し待ってほしい。
ああ、もしかしたら、茜もこうなのかな。
こうであったら、いいな。
鳴らない電話を抱きしめて、僕は背中を丸めて目を閉じた。
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