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何度も何度も僕に向かって謝り、ソファから下に落ちてしまいそうな程頭を下げる父。
何も言えないまま時が過ぎ、また僕のポケットが震える。
さっきから何度もかかっている電話を僕は取れないでいた。
さっき、いや、昨日からずっと。
玄が後ろから話しかけてきた。
「少し外の風にでも当たるか」
促されて僕は家の外に出た。
もう切れてしまった電話をポケットから取り出すと、玄はさりげなく僕から離れて歩いていった。
着信履歴から折り返す。
ワンコール鳴るか鳴らないかですぐにつながった。
「どこにいるの? どうしたの? 何かあったの? 無事なの?」
心配しているような、怒っているような、焦っているような声が矢継ぎ早に耳元に響く。
「大丈夫だよ」
僕は、僕は会いたいと。
抱きしめたいと。
本当は言いたかったけれど。
会ってしまったら全てを話さなければいけないような、話したくなってしまうような気がして。
「大丈夫だよ、茜」
そう言うのが精一杯だった。でも
「今から行くから」
と茜が言い出した。
「今から行くから! どこにいるの?」
こんな時の茜は圧倒的な行動力がある。
「今は家の前に居るけど。茜、学校は?」
茜は黙ってしまった。
「茜? 茜?」
電話がつながっているか確かめながら茜の名前を呼ぶ。
ふいに爽やかな香りと共に影が二つになり、そして重なった。
「学校なんて行けるわけないじゃない!」
ずっと感じたかった温もりが突然僕の身体を包んだ。
捜してくれていたんだ、僕を。
見つけてくれたんだ、僕を。
「心配かけてごめん」
後ろから腰に回された腕を上から抱きしめる。
「お詫びに何してくれる?」
「なんでもするよ」
「じゃぁ、今からデートだね!」
どうやらいつもの如く僕に拒否権はないようなので、僕はほぼ部屋着の姿から着替えるために家に戻った。
出かけることを両親に告げると母が何か言いたげだったけれど、僕はそれに気付かないフリをして部屋のドアを閉め、外で待たせている茜のために手早く着替える。
ポケットから電話を出すと、玄からメッセージが入っていた。
「家に帰ってるから、何かあったら連絡しろよ!」
気を利かせてくれたのだろうか?
「ありがとう」
とだけ返信した。
ジーンズにTシャツ、薄手のパーカー。
ポケットに財布と電話、そして例の記事を突っ込んで考える。
これからきっと僕は茜にこれまでのことを話すんだろう。
茜はどう思うだろうか。
それでも僕を包んでくれるだろうか。
それとも僕から離れていくのだろうか……
何も言えないまま時が過ぎ、また僕のポケットが震える。
さっきから何度もかかっている電話を僕は取れないでいた。
さっき、いや、昨日からずっと。
玄が後ろから話しかけてきた。
「少し外の風にでも当たるか」
促されて僕は家の外に出た。
もう切れてしまった電話をポケットから取り出すと、玄はさりげなく僕から離れて歩いていった。
着信履歴から折り返す。
ワンコール鳴るか鳴らないかですぐにつながった。
「どこにいるの? どうしたの? 何かあったの? 無事なの?」
心配しているような、怒っているような、焦っているような声が矢継ぎ早に耳元に響く。
「大丈夫だよ」
僕は、僕は会いたいと。
抱きしめたいと。
本当は言いたかったけれど。
会ってしまったら全てを話さなければいけないような、話したくなってしまうような気がして。
「大丈夫だよ、茜」
そう言うのが精一杯だった。でも
「今から行くから」
と茜が言い出した。
「今から行くから! どこにいるの?」
こんな時の茜は圧倒的な行動力がある。
「今は家の前に居るけど。茜、学校は?」
茜は黙ってしまった。
「茜? 茜?」
電話がつながっているか確かめながら茜の名前を呼ぶ。
ふいに爽やかな香りと共に影が二つになり、そして重なった。
「学校なんて行けるわけないじゃない!」
ずっと感じたかった温もりが突然僕の身体を包んだ。
捜してくれていたんだ、僕を。
見つけてくれたんだ、僕を。
「心配かけてごめん」
後ろから腰に回された腕を上から抱きしめる。
「お詫びに何してくれる?」
「なんでもするよ」
「じゃぁ、今からデートだね!」
どうやらいつもの如く僕に拒否権はないようなので、僕はほぼ部屋着の姿から着替えるために家に戻った。
出かけることを両親に告げると母が何か言いたげだったけれど、僕はそれに気付かないフリをして部屋のドアを閉め、外で待たせている茜のために手早く着替える。
ポケットから電話を出すと、玄からメッセージが入っていた。
「家に帰ってるから、何かあったら連絡しろよ!」
気を利かせてくれたのだろうか?
「ありがとう」
とだけ返信した。
ジーンズにTシャツ、薄手のパーカー。
ポケットに財布と電話、そして例の記事を突っ込んで考える。
これからきっと僕は茜にこれまでのことを話すんだろう。
茜はどう思うだろうか。
それでも僕を包んでくれるだろうか。
それとも僕から離れていくのだろうか……
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