君と僕の花言葉

倉澤 環(タマッキン)

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父の懺悔

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—もうすぐ九年か。

空、お前が小さな頃から月に一度、家族で外食をすることがささやかな贅沢でな、母さんとお前と三人で色々なところで外食を楽しんでいた頃があったんだ。

あるとき、レストランである人と言い合いになってね、俺はつい手を出してしまった。

警察沙汰になったんだが、酒の席の喧嘩ということで大した罪にはならなかった。

しかしあの日、居酒屋で偶然その時の被害者と会ってしまったんだ。

相手も俺の顔を覚えていて、ずっと睨みつけていた。

俺のことも、母さんやお前のことも。

俺は、もしかしたら向こうは俺の家族に手を出してくるかもしれないと身構えた。

そして、こちらに向かってくる相手に掴みかかり、そのまま外に連れ出した。


必死だったんだ。

お前たちを守りたかったんだ……


掴みかかった俺に逆上した相手と、外に出てすぐに殴り合いになった。

遠くで子供の叫び声が聞こえて、それがお前の声のような気がした。

なんとしてもお前たちを守らなければと必死だった。

殴り飛ばされて誰かにぶつかった俺は、ぶつかった相手の車のトランクにあった金属バットをとっさに掴み、無我夢中で振り回した。


相手が倒れるまで。

動かなくなるまで。


正直、どれだけ相手を殴ったのかわからない。

それからの記憶があまり定かではないんだ。

ただ、相手の方は亡くなった。

俺が殺したんだ。

それが、お前が六歳の時のことだよ。



父の気持ちはわからなくもない。

でも、相手がこちらに危害を加えようとしていたかわからない状態で掴みかかっていくなんて。

そう言おうとした僕の服を後ろから玄が引っ張る。

わかってるよ、玄。

最後まで聞くんだ。

どんな話でも。



—俺は五年服役した。

出所し、素性を隠して就職してもすぐにバレて仕事を失ってしまう日々。

人を殺したという噂はすぐに広まってしまう。

どこに居ても、どこに行ってもだ。

噂が広まると俺たちはすぐに引っ越した。

空、お前にも迷惑をかけたな。

そんな日々に疲れてしまってね。

俺は、生きることをやめようと思ったんだ。


高いビルに登り……


しかし、死ぬことはできなかった。

途中どこかで身体をぶつけ、スピードが落ちたから命拾いしたのだろうと医者は言っていたのだが、俺はね、空……



「死ねなかった上に、今後自分で死ぬこともできない身体になってしまったんだよ」

父は自分の足を見ながら悲しそうに呟いた。



—そして俺は今でもこうしてお前たちに迷惑をかけながら生きている。

素性が知られる度に引っ越しをして、一人では何もすることができず、一日中窓から外を眺めるだけの毎日を、俺はただ生き続けている。

守りたかった人に迷惑をかけて生き続けている。

すまない、空

本当にすまない……

申し訳ない……


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