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キリの良いところで模様替えを終わらせ、部屋に戻って一息つく。
茜に今日のことを話そう。
メッセージを送ってみる。
(今日は大変だったんだね。お疲れ様!)
茜から返信がきた。
ポツポツとやり取りが続く。
明日は学校に行くこと、試験が終わるまでは家のこともあるので、学校以外では会えないこと、父の散歩もしばらくはしないことなどを簡単に伝えた。
(そっか……でも私は待ってるから大丈夫だよ! お家のことをまず大事にしてね)
茜の優しさが心に沁(し)みる。
大丈夫
頑張れる
頑張れるさ
窓の修理が終わっても、父を一人にするのはやはり危険だ。
試験が始まれば昼前には帰宅できるので、結局試験前までは母と僕が交代で休み、試験中は母が午前中休んで僕の帰宅後に交代で仕事に行くことになった。
学校で少し茜と話す時間を取ることができる。
でも、茜は受験生だ。
一つ一つの試験が重要な時期だろう。
僕は、茜に試験に集中するようにメッセージを送り、試験が終わるまで会わないことに決めた。
「やめっ! 解答用紙を回収する」
試験官の先生の声で筆記用具を置いて大きく息を吐く。
これで全ての試験が終わった。
あれから特に不審な人や不穏な出来事はない。
来週から通常授業になるからずっと父についていることはできなくなるけれど……どうするんだろう。
とりあえず今日は早く帰って母と交代しなきゃ。
急いで教室を出ると
「お疲れ様!」
いきなり真正面に茜が現れた。
「あ、ああ、お疲れ様」
「慌てて一緒に帰ろう!」
久しぶりに奪われた左手は、いつにも増して緊張しながらも嬉しそうだった。
速足で歩きながら茜が尋ねる。
「これからお家、どうするの?」
「僕にもわからない。多分今夜にでも話し合うと思う」
「そっか」
「多分、しばらくは父さんのことがあるから家を空けることはできないと思う」
仕方ないよね、と茜は呟いた。
しばらく沈黙が続く。
奪われたままの左手がだんだん、だんだん熱くなった。
そして
「週一のデートは死守する!」
突然茜が叫んだ。
「外でデートできないなら空の家に押しかけるもん!」
茜の顔が急に近づいて、そして離れる。
「拒否権はありません」
いたずらっぽく笑うとサッと身をひるがえし
「お家のこと、わかったらまた連絡して!」
あっという間に遠ざかっていく。
爽やかな香りと左手の温かさを残して。
母の帰宅後、これからどうするかを話し合った。
施錠をしっかりすることと早く帰ること、父を一人にする時間をなるべく少なくすること、そして散歩はやめることが決まった。
かなり言い出しにくかったけれど
「あの、週一くらいで茜を家に呼んでもいいかな」
「もちろん、連れておいで。私は何もできないが」
「ありがとう」
「すまないな、空」
父が申し訳なさそうに言う。
なんて答えて良いかわからず、僕は何も答えないまま自分の部屋へ戻った。
次の週から僕と茜は週に一度僕の家で会うことになった。
僕はあまり物を持たないようにしている。
引っ越しが多く、その都度まとめるのが面倒になったからだ。
いつしか物を持たないことにも慣れていった。
最初に玄が部屋に入った時
「お前の部屋に泥棒が入っても、何も盗む物がないな」
と笑った。
茜は何て言うだろう。
「わぁ! 空の部屋に泥棒が入っても、何も盗む物がないね!」
茜の言葉に思わず吹き出す。
始めから似ていると思っていたけれど、まさかここまでか!
「なに? なんでそんなに笑ってるの?」
「茜と全く同じことを言った友達がいたから」
「え? 誰?」
一週間に一度、短い時間だったけど、僕達はこうしてお互いのことを話した。
始めのうちは聞き役だった茜も、徐々に自分のことを話してくれるようになった。
お父さんは茜が八歳の時亡くなったことや、茜と出会った時にいた知り合いの女の子が、茜の弟さんのことを好きなこととか。
僕と茜には共通点が多いこともわかった。
僕は父の関係で、特に進学希望ではないけれど進学校を選んだ。
茜も母子家庭で交通費がもったいないからと、進学希望ではないのに進学校を選んだという。
元々この地域で生まれ育ったわけではないことも同じ。
僕達は出会った時の猛スピードの展開から一転、ゆっくりと、じっくりと、関係を深めていった。
バットが投げ込まれてからずっと、できるだけ警戒しながら生活をしてきた僕達だったけれど、あれから特に何もないまま数ヶ月が過ぎた。
茜に今日のことを話そう。
メッセージを送ってみる。
(今日は大変だったんだね。お疲れ様!)
茜から返信がきた。
ポツポツとやり取りが続く。
明日は学校に行くこと、試験が終わるまでは家のこともあるので、学校以外では会えないこと、父の散歩もしばらくはしないことなどを簡単に伝えた。
(そっか……でも私は待ってるから大丈夫だよ! お家のことをまず大事にしてね)
茜の優しさが心に沁(し)みる。
大丈夫
頑張れる
頑張れるさ
窓の修理が終わっても、父を一人にするのはやはり危険だ。
試験が始まれば昼前には帰宅できるので、結局試験前までは母と僕が交代で休み、試験中は母が午前中休んで僕の帰宅後に交代で仕事に行くことになった。
学校で少し茜と話す時間を取ることができる。
でも、茜は受験生だ。
一つ一つの試験が重要な時期だろう。
僕は、茜に試験に集中するようにメッセージを送り、試験が終わるまで会わないことに決めた。
「やめっ! 解答用紙を回収する」
試験官の先生の声で筆記用具を置いて大きく息を吐く。
これで全ての試験が終わった。
あれから特に不審な人や不穏な出来事はない。
来週から通常授業になるからずっと父についていることはできなくなるけれど……どうするんだろう。
とりあえず今日は早く帰って母と交代しなきゃ。
急いで教室を出ると
「お疲れ様!」
いきなり真正面に茜が現れた。
「あ、ああ、お疲れ様」
「慌てて一緒に帰ろう!」
久しぶりに奪われた左手は、いつにも増して緊張しながらも嬉しそうだった。
速足で歩きながら茜が尋ねる。
「これからお家、どうするの?」
「僕にもわからない。多分今夜にでも話し合うと思う」
「そっか」
「多分、しばらくは父さんのことがあるから家を空けることはできないと思う」
仕方ないよね、と茜は呟いた。
しばらく沈黙が続く。
奪われたままの左手がだんだん、だんだん熱くなった。
そして
「週一のデートは死守する!」
突然茜が叫んだ。
「外でデートできないなら空の家に押しかけるもん!」
茜の顔が急に近づいて、そして離れる。
「拒否権はありません」
いたずらっぽく笑うとサッと身をひるがえし
「お家のこと、わかったらまた連絡して!」
あっという間に遠ざかっていく。
爽やかな香りと左手の温かさを残して。
母の帰宅後、これからどうするかを話し合った。
施錠をしっかりすることと早く帰ること、父を一人にする時間をなるべく少なくすること、そして散歩はやめることが決まった。
かなり言い出しにくかったけれど
「あの、週一くらいで茜を家に呼んでもいいかな」
「もちろん、連れておいで。私は何もできないが」
「ありがとう」
「すまないな、空」
父が申し訳なさそうに言う。
なんて答えて良いかわからず、僕は何も答えないまま自分の部屋へ戻った。
次の週から僕と茜は週に一度僕の家で会うことになった。
僕はあまり物を持たないようにしている。
引っ越しが多く、その都度まとめるのが面倒になったからだ。
いつしか物を持たないことにも慣れていった。
最初に玄が部屋に入った時
「お前の部屋に泥棒が入っても、何も盗む物がないな」
と笑った。
茜は何て言うだろう。
「わぁ! 空の部屋に泥棒が入っても、何も盗む物がないね!」
茜の言葉に思わず吹き出す。
始めから似ていると思っていたけれど、まさかここまでか!
「なに? なんでそんなに笑ってるの?」
「茜と全く同じことを言った友達がいたから」
「え? 誰?」
一週間に一度、短い時間だったけど、僕達はこうしてお互いのことを話した。
始めのうちは聞き役だった茜も、徐々に自分のことを話してくれるようになった。
お父さんは茜が八歳の時亡くなったことや、茜と出会った時にいた知り合いの女の子が、茜の弟さんのことを好きなこととか。
僕と茜には共通点が多いこともわかった。
僕は父の関係で、特に進学希望ではないけれど進学校を選んだ。
茜も母子家庭で交通費がもったいないからと、進学希望ではないのに進学校を選んだという。
元々この地域で生まれ育ったわけではないことも同じ。
僕達は出会った時の猛スピードの展開から一転、ゆっくりと、じっくりと、関係を深めていった。
バットが投げ込まれてからずっと、できるだけ警戒しながら生活をしてきた僕達だったけれど、あれから特に何もないまま数ヶ月が過ぎた。
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