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歩道橋からこれ以上下を眺めていると、そのまま吸い込まれそうになるから思わず目を背ける。
ふいに誰かの気配と、何処かで嗅いだことがあるような爽やかな香りが鼻にまとわりついた。
振り向くと
「おっはよ! 迎えに来た!」
はじけるような笑顔の茜が突然アップになり、当たり前のように僕の左手を奪う。
「遅刻するよ! 急げー!」
僕の左手を引っ張り、茜が走り出す。
「どうしてここがわかったの?」
「歩道橋を見上げたら、泣きそうな空がいた」
「ねえ、僕は走ると爆発しちゃうんだよ?」
「そう? 私は走らないと膨らんじゃうの」
思わず笑いがこみ上げる。
さっきまであんなに寒くて辛かった心が、あっという間に温められ溶かされていく。
こんな風に走ったのは初めてかもしれないな。
そして、僕だけが息を切らして無事学校にたどり着いた。
「じゃ、またね!」
そういって去っていこうとする茜の左手を今度は僕が奪う。
「待って」
「どうしたの?」
「茜、爽やかな良い香りがするね。香水?」
なんだ、そんなこと。
と、茜は笑った。
「これはハーブの香りよ。部屋でハーブを育ててるから制服とかに香りが移っちゃうのよね」
そうだったのか。
爽やかでいて、なんとなく頭がすっきりするような、心が軽くなるような。
「いい香りだね。とても」
「ありふれた香りなんだけれど、空が好きなら毎日服にこすりつけて来るよ」
いたずらっぽく笑うと、茜は北校舎に消えていった。
僕は両手と唇と、そして鼻に残った茜の余韻と共に教室へ向かった。
北校舎に教室がある学年は三年生だけ。そうか、茜は三年生だったのか。
自分の教室に向かいながら考える。
そういえば、茜はどこに住んでいるんだ?
家族構成は?
友達は?
なぜ僕と付き合ったんだろう。
僕は、茜をもっと知りたい。
ふいに誰かの気配と、何処かで嗅いだことがあるような爽やかな香りが鼻にまとわりついた。
振り向くと
「おっはよ! 迎えに来た!」
はじけるような笑顔の茜が突然アップになり、当たり前のように僕の左手を奪う。
「遅刻するよ! 急げー!」
僕の左手を引っ張り、茜が走り出す。
「どうしてここがわかったの?」
「歩道橋を見上げたら、泣きそうな空がいた」
「ねえ、僕は走ると爆発しちゃうんだよ?」
「そう? 私は走らないと膨らんじゃうの」
思わず笑いがこみ上げる。
さっきまであんなに寒くて辛かった心が、あっという間に温められ溶かされていく。
こんな風に走ったのは初めてかもしれないな。
そして、僕だけが息を切らして無事学校にたどり着いた。
「じゃ、またね!」
そういって去っていこうとする茜の左手を今度は僕が奪う。
「待って」
「どうしたの?」
「茜、爽やかな良い香りがするね。香水?」
なんだ、そんなこと。
と、茜は笑った。
「これはハーブの香りよ。部屋でハーブを育ててるから制服とかに香りが移っちゃうのよね」
そうだったのか。
爽やかでいて、なんとなく頭がすっきりするような、心が軽くなるような。
「いい香りだね。とても」
「ありふれた香りなんだけれど、空が好きなら毎日服にこすりつけて来るよ」
いたずらっぽく笑うと、茜は北校舎に消えていった。
僕は両手と唇と、そして鼻に残った茜の余韻と共に教室へ向かった。
北校舎に教室がある学年は三年生だけ。そうか、茜は三年生だったのか。
自分の教室に向かいながら考える。
そういえば、茜はどこに住んでいるんだ?
家族構成は?
友達は?
なぜ僕と付き合ったんだろう。
僕は、茜をもっと知りたい。
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