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小話(web拍手用に書いたものです)
小話4 ジーナトクスの庭
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第26.5話 ジーナトクスの庭
アイナお姉ちゃんに初めて会った時、お姫様が来たのだと思った。
キラキラした髪をきれいに編んでいて、緑の瞳がとても美しかった。
笑った顔が優しくて、きっと皆が大好きになる人だと思った。
お城に住んでいるのも、物語だったら王道だよね。
だけど、お姫様にしてはお姉ちゃんは変わっているんだと思う。
お姫様は泥棒から荷物を取り返そうとしたり、調合師になるために街の薬屋に弟子入りしたりするんだろうか?
毒草を喜んで摘みまくったり、手が真っ黒になるまで火薬をいじったりなんて、お姫様はしないと思う、絶対。
そんな変わったお姫様だから、選んだ王子様も変わってる。
なぜかわたしを見ると後退りするけど、王子様であることは間違いないお兄ちゃん。
いつもお城の庭にいて、草花や木を世話している。
身体が半分トカゲでできている王子様なんて、滅多にいないと思う。
デュースさんは、
「トカゲじゃなくて竜なんじゃね?」
って意味ありげに笑いながら言っていたけど、どっちにしてもきっと悪い魔法使いに呪いを掛けられたのかもね。
そうしたら、呪いを解くのはお姫様の役目なのかな。
城の中から何気なく庭を眺めていたら、お姫様と王子様がキスするのが見えた。
キスだけじゃ魔法は解けなかったみたい。
でも、お姉ちゃんがすごく恥ずかしそうに、嬉しそうにしていて、お兄ちゃんがぎゅっと抱きしめているのを見て、さすがに見ているわたしも照れた。
たまたま通りかかったバードさんも窓の外に気づいたみたいで、
「まったくあの子たちは」
と笑いながら、
「ジーナトクス。なにか買って欲しいものがあったら、エドウィン様におねだりするといいですよ。さっき見たことを上手にちらつかせなさい」
真っ黒なセリフをわたしに言った。
こんなに近くに悪い魔法使いがいるみたいなんだけど、いいのかしら?
お母さんは毎朝エドナ城に料理人として出掛けていく。
私も連れて行ってとお願いしたら、「もう少し大人になったらね」と約束してくれた。
アイナお姉ちゃんに会えるのも楽しみで、初めてエドナ城に連れて行ってもらえる事になった時は、大人になったって思って本当に嬉しかったの。
でも。
初めてお兄ちゃんを見た時。
すごく怖かった。
見えた手が恐ろしくて、体が震えて、見てはいけないと思った。
お母さんが「大人になったら」って言った意味がようやく分かった。
大人は怯えたりしない。怖くても、知らんふりできる。
なのに怖くてお母さんの後ろに隠れてしまった。
わたしがもう少し大人だったら、お兄ちゃんを傷つけなかったのかな。
お母さんもお姉ちゃんも、そんなわたしになにも言わなかった。
結局、お兄ちゃんに「ごめんなさい」の言葉を言うことはできなかった。
それでもお兄ちゃんの手には慣れたのかな。
もう怖くはなくなっていたから。
今日も天気が良いから、やっぱり庭にお兄ちゃんがいて、
「こいつは肥料食いなんだよ……」
とかブツブツ言いながら薬を混ぜて土を作っていた。
わたしはそんな様子をしゃがんで眺めて、ずっと聞きたかったことをついに聞いてみた。
「お兄ちゃんはお姉ちゃんのどこが好きなの?」
「……どこ?」
眉根を寄せて不機嫌そうに逆に聞かれて、そして
「お前にはまだ早い!」
なぜか怒られた。
どこ?
部分じゃないってこと?
そうか。その人のまるごと全部を好きになるんだね。
だから、手が怖いとかそういうの関係ないんだ。
お兄ちゃんと同じように、お姉ちゃんはまるごと全部お兄ちゃんが好きだから。
「お姉ちゃんみたいになれるかな?」
「無理だな」
お兄ちゃんに即答された。
「アイナは一人だけでいい。 ……それに、アイナがたくさんいたら城がもたないな」
城を見上げてお兄ちゃんがまた不思議なことを言う。
「もたないのはお前だろう」
頭の上から声が降ってきた。
「デュースさん」
「デュー、ジーナに触るなよ。アイナが心配する」
溜息をつきつつ、お兄ちゃんは立ちあがって笑う。
「なっ!触ってないぞ! ……そうか。まずは『お姉ちゃん』を懐柔しないとだな」
ニヤリと笑ったデュースさんが向かい合う。
「ふん。その前にそびえる『お兄ちゃん』の壁を甘く見るなよ」
「どうだか。アイナちゃん崩せばこっちのもんだ」
いつもこんな調子で昼間の庭は賑やか。
でも、わたしとデュースさんが帰った後は、嘘のように庭が静かになるの。
おつかいや勉強で忙しいお姉ちゃんが帰ってくるのを、お兄ちゃんは一人で庭で待っていて。
そしてわたしもデュースさんも見たことのない優しい笑顔でお姉ちゃんを迎えてぎゅっと抱きしめる。
こっそり覗いていたわたしとデュースさんは顔を見合わせてくすりと笑って、それからそっとお城から立ち去った。
明日もまた、晴れたらこの庭に遊びに来るね、お姉ちゃん、お兄ちゃん。
アイナお姉ちゃんに初めて会った時、お姫様が来たのだと思った。
キラキラした髪をきれいに編んでいて、緑の瞳がとても美しかった。
笑った顔が優しくて、きっと皆が大好きになる人だと思った。
お城に住んでいるのも、物語だったら王道だよね。
だけど、お姫様にしてはお姉ちゃんは変わっているんだと思う。
お姫様は泥棒から荷物を取り返そうとしたり、調合師になるために街の薬屋に弟子入りしたりするんだろうか?
毒草を喜んで摘みまくったり、手が真っ黒になるまで火薬をいじったりなんて、お姫様はしないと思う、絶対。
そんな変わったお姫様だから、選んだ王子様も変わってる。
なぜかわたしを見ると後退りするけど、王子様であることは間違いないお兄ちゃん。
いつもお城の庭にいて、草花や木を世話している。
身体が半分トカゲでできている王子様なんて、滅多にいないと思う。
デュースさんは、
「トカゲじゃなくて竜なんじゃね?」
って意味ありげに笑いながら言っていたけど、どっちにしてもきっと悪い魔法使いに呪いを掛けられたのかもね。
そうしたら、呪いを解くのはお姫様の役目なのかな。
城の中から何気なく庭を眺めていたら、お姫様と王子様がキスするのが見えた。
キスだけじゃ魔法は解けなかったみたい。
でも、お姉ちゃんがすごく恥ずかしそうに、嬉しそうにしていて、お兄ちゃんがぎゅっと抱きしめているのを見て、さすがに見ているわたしも照れた。
たまたま通りかかったバードさんも窓の外に気づいたみたいで、
「まったくあの子たちは」
と笑いながら、
「ジーナトクス。なにか買って欲しいものがあったら、エドウィン様におねだりするといいですよ。さっき見たことを上手にちらつかせなさい」
真っ黒なセリフをわたしに言った。
こんなに近くに悪い魔法使いがいるみたいなんだけど、いいのかしら?
お母さんは毎朝エドナ城に料理人として出掛けていく。
私も連れて行ってとお願いしたら、「もう少し大人になったらね」と約束してくれた。
アイナお姉ちゃんに会えるのも楽しみで、初めてエドナ城に連れて行ってもらえる事になった時は、大人になったって思って本当に嬉しかったの。
でも。
初めてお兄ちゃんを見た時。
すごく怖かった。
見えた手が恐ろしくて、体が震えて、見てはいけないと思った。
お母さんが「大人になったら」って言った意味がようやく分かった。
大人は怯えたりしない。怖くても、知らんふりできる。
なのに怖くてお母さんの後ろに隠れてしまった。
わたしがもう少し大人だったら、お兄ちゃんを傷つけなかったのかな。
お母さんもお姉ちゃんも、そんなわたしになにも言わなかった。
結局、お兄ちゃんに「ごめんなさい」の言葉を言うことはできなかった。
それでもお兄ちゃんの手には慣れたのかな。
もう怖くはなくなっていたから。
今日も天気が良いから、やっぱり庭にお兄ちゃんがいて、
「こいつは肥料食いなんだよ……」
とかブツブツ言いながら薬を混ぜて土を作っていた。
わたしはそんな様子をしゃがんで眺めて、ずっと聞きたかったことをついに聞いてみた。
「お兄ちゃんはお姉ちゃんのどこが好きなの?」
「……どこ?」
眉根を寄せて不機嫌そうに逆に聞かれて、そして
「お前にはまだ早い!」
なぜか怒られた。
どこ?
部分じゃないってこと?
そうか。その人のまるごと全部を好きになるんだね。
だから、手が怖いとかそういうの関係ないんだ。
お兄ちゃんと同じように、お姉ちゃんはまるごと全部お兄ちゃんが好きだから。
「お姉ちゃんみたいになれるかな?」
「無理だな」
お兄ちゃんに即答された。
「アイナは一人だけでいい。 ……それに、アイナがたくさんいたら城がもたないな」
城を見上げてお兄ちゃんがまた不思議なことを言う。
「もたないのはお前だろう」
頭の上から声が降ってきた。
「デュースさん」
「デュー、ジーナに触るなよ。アイナが心配する」
溜息をつきつつ、お兄ちゃんは立ちあがって笑う。
「なっ!触ってないぞ! ……そうか。まずは『お姉ちゃん』を懐柔しないとだな」
ニヤリと笑ったデュースさんが向かい合う。
「ふん。その前にそびえる『お兄ちゃん』の壁を甘く見るなよ」
「どうだか。アイナちゃん崩せばこっちのもんだ」
いつもこんな調子で昼間の庭は賑やか。
でも、わたしとデュースさんが帰った後は、嘘のように庭が静かになるの。
おつかいや勉強で忙しいお姉ちゃんが帰ってくるのを、お兄ちゃんは一人で庭で待っていて。
そしてわたしもデュースさんも見たことのない優しい笑顔でお姉ちゃんを迎えてぎゅっと抱きしめる。
こっそり覗いていたわたしとデュースさんは顔を見合わせてくすりと笑って、それからそっとお城から立ち去った。
明日もまた、晴れたらこの庭に遊びに来るね、お姉ちゃん、お兄ちゃん。
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