君の声が聞きたくて

第２６章 番外編☆dolce

９

　「ご馳走様でした」

　新鮮な海鮮で腹を満たして店を出ると、翔真さんが俺の腰を抱いて人気のない路地裏へと引き込む。
　コンクリートに背中を押し付けられ、乱暴に唇を塞がれる。
　強引で深いキスに、俺の腰を抱く翔真さんの支えがなかったら、膝から崩れてしまいそうになるくらい、身体から力が抜けて行く。

　いつもそうだ。
　俺は突然我儘な子供みたく強引になった翔真さんに振り回される。

　でも俺はそんな翔真さんも嫌いじゃないし、寧ろ優しいばかりの翔真さんよりも、ちょっとした時に素の翔真さんが垣間見れるこの瞬間が好きだ。

　ただ、心の準備が出来てなかった分、空気を貯めておくことも出来ず、翔真さんが角度を変える合間を狙って、鼻から息を吸い込むけど、それだけじゃ全然足りなくて……

　息苦しくなった俺は、翔真さんの胸をトンと両手で叩いた。

　「あ……、ごめん……」

　漸く俺の唇を解放して、翔真さんが申し訳なさそうに眉を下げる。

　「でも夜まで智樹の顔が見れないと思うと、つい……さ……」


　分かってるよ、俺も同じだから、翔真さんの気持ちはよく分かる。

　「マジでごめん……」
　「いいよ、そんな謝んないでよ。俺も、その……翔真さんに……」


　キスして欲しかったから……


　って言えたら良かったんだけど、照れ屋な俺はたった一言が言えなくて、代わりに厚い胸に頬を埋めると、翔真さんの鼓動が耳を伝って俺の中へと流れて来た。

　「さっきの話だけどね……」
　「うん……」
　「俺、何とか都合つけるから」
　「いいの？　別に次もあるだろうし、 無理しなくても……」

　ついさっきまで俺の意見なんて聞こうともしなかったくせに、急に気遣ったりするからつい笑ってしまいそうになる。

　「大丈夫。俺が翔真さんと一緒に行きたいんだ」


　それじゃ理由になんない？