君の声が聞きたくて

誠奈

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第26章  番外編☆dolce

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 どうにかこうにか午前中のうちに目を覚ました俺は、洗濯機のスイッチだけを押して、その間に着替えと、仕事のための支度を済ませ、それから漸く、早朝に届いた翔真さんからのメールを開いた。

 翔真さんか殆ど毎日と言って良いくらい届くメールには、ベランダから撮った海の写真と一緒に、


 『おはよう、智樹』
 『昼、いつもの店で良いよな?』
 『待ってるから』


 いつも同じ文章が添えられている。
 
 だからあえて返事は返さず、タイミング良く洗い終えた洗濯物を窓辺に干し、俺はリュックだけを背負ってアパートを出た。



 坂道を駆け下り、店に行くのとは逆の方へと足を向ける。

 漁港がある方だ。
 だからかな、暫くすると、潮の匂いが強くなって来る。


 俺はこの匂いが嫌いじゃない。元々海が好きなのもあって、この独特とも言える匂いを嗅いでいると、どんなに落ち込んでいても、不思議と気分が上がってくる。
 俺は潮の匂いを胸いっぱいに吸い込み、足を止めたついでにと、ポケットからスマホを取り出し、メール画面を開いた。


 『もうすぐ着く』


 さっきはしなかった返信をして、再び足を前に進める。

 心做しか歩く歩幅が大きくなってるような気がするのも、歩く速度が早くなってるような気がするのも、翔真さんに会えるから……だろうな。


 あの分かれ道でキスを交わしてから、まだ半日しか経っていないのに、もう会いたくてたまらない。


 俺は待ち合わせの定食屋が視界に入ったと同時に、そこに向かって走り出した。
 普段滅多に走ることなんてないのに、その時だけは別。俺は乱れた息を整えることなく、建付けの悪い戸を引くと、傾きかけた店の中に翔真さんの姿を探した。
 でも狭い店内のどこを探しても翔真さんの姿はなくて、 俺は入口に一番近い席に腰を下ろすと、走ったせいでしっとり汗ばんだダウンを脱ぎ、椅子の背もたれに引っ掛けた。

 その時だった。
 ガラッと開いた戸の隙間から、会社からのあつらえだろうか、作業着を着て、息を乱した翔真さんが飛び込んで来た。
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