君の声が聞きたくて

第２４章 tempestoso

１５

　翔真さんが自転車のサドルに跨り、荷台を指差して俺に笑顔を向けるから、俺は小さく頷いてから、自転車の荷台に跨った。

　「ちゃんと捕まっててね？」
　「……うん」

　言われるまま、翔真さんの腰に両腕を回す。
　背中に ピッタリと顔をくっつけると、分厚いダウンを通して翔真さんの体温が伝わってくる。


　温かいな……
　つか、前にも似たようなこと、なかったっけ？



　そうだ、潤一さんに騙されて、初めて翔真さんの部屋に泊まった時だ。あの時はまだこうして腰に腕を回すと、お互いの体温が混じり合って、汗ばむくらいに暑かった。
　そうそう、翔真さんのがあんまりドンくさくて笑っちゃったんだよな。

　つか……

　「しょっ、翔真さんっ、前、前っ！」

　三年経っても翔真さんがドンくさいのは健在のようで……

　「……っぶね……」

　電柱にぶつかる寸でのところで急ブレーキをかけた翔真さんが、汗なんて全然出てないのに額の汗を拭う仕草をするから俺も、「焦った…」と翔真さんを真似て額の汗を拭った。
　こんなところも三年前と全く変わっていない。

　もし変化があるとしたら、それはこんな風に会話が出来るようになったことが、俺達にとっての一番の変化なのかもしれない。


　翔真さんの目を見て会話出来ないのは、ちょっとだけ寂しいけど……


　「ねえ、翔真さんの住んでるとこってまだ先なの？」
　「いや、もうすぐそこだよ。ほら、あの五階建てのマンションがそうだよ」

　良かった。こんな危なっかしい運転じゃ、流石に生きた心地がしない。


　ケツだって痛いし………って、えっ？
　あのマンションて、確か俺のアパートの真裏じゃん！

　ってことは何か？
　潤一さんは……いや、潤一さんだけじゃない、雅也さんも翔真さんがここにいることを知っていて俺を？

　嘘だろ、マジか……


　自転車を駐輪場に停め、戻って来る翔真さんを待ちながら、俺は深い溜息と一緒に肩を落とした。

　「お待たせ。行こうか？」

　翔真さんの手が俺の腰を抱く。
　本当は嬉しい筈なのに、二人にまんまと嵌められたんだと思うと、素直に喜べないことが凄く残念に感じてしまう。