276 / 337
第24章 tempestoso
8
しおりを挟む
嘘……、だろ……?
いや、そんな筈はない。あの人がここにいる筈ない。
だってあの人は……
でもあの肩から背中へのラインは、確かにあの人……翔真さんに似てる。
何度も忘れようとしたけど、結局忘れることなんて出来なかったあの人の後ろ姿に……
違うかもしれない、ただ似てるだけなのかもしれない。
きっとそうだ、だって翔真さんがこんな所にいる筈がない。
でももしかしたら……
俺は口から心臓が飛び出しそうな緊張を押し殺し、スっと息を吸い込むと、 「翔……真さ……ん」と恐る恐る声をかけた。
聞こえないって……、俺の声なんて、店内の騒がしさに掻き消されて、絶対届かないって、そう思っていた。
なのに、まるでスローモーションでも見ているかのように振り返ったその人は、俺がずっと会いたくて会いたくて、でも会えなくて、想うだけで胸が苦しくなるくらいに恋焦がれていた人で……
「どう……て、ここ……に……」
いるの……?
言いたいのに、喉の奥に何かが詰まったような感覚に、思うように声が出せない。
「智……樹? 本当に智樹なのか?」
だからその問いかけにも答えられなくて、徐々に霞んで行く視界の中で、静かに俺に向かって伸びて来る手を振り払った。
駄目だ……、まだ駄目だ……。
今の俺には、まだこの手を握る資格なんて……ない。
俺は足をふらつかせながら後ずさると、まるで逃げるようにその場を後にし、転がるように店の外へと飛び出した。
店の裏口にしゃがみ込み、必死で呼吸を整えようと、口に手を当てるけど、やっぱりまともに息なんて出来なくて……
拭っても拭っても、決壊したダムのように溢れて来る涙に頬を濡らしていた。
その時、コツッ……と踵を鳴らす音が聞こえて、「智……樹?」掠れた声が俺の名前を呼んだ。
でも俺は顔を上げることが出来なくて、ゆっくりと距離を縮めて来る足音に、俺はただただ抱えた膝に顔を埋めていた。
そして足音がピタリと止まった瞬間、俺がずっと求めていたあの人の腕が、俺をスッポリと包み込んでいた。
いや、そんな筈はない。あの人がここにいる筈ない。
だってあの人は……
でもあの肩から背中へのラインは、確かにあの人……翔真さんに似てる。
何度も忘れようとしたけど、結局忘れることなんて出来なかったあの人の後ろ姿に……
違うかもしれない、ただ似てるだけなのかもしれない。
きっとそうだ、だって翔真さんがこんな所にいる筈がない。
でももしかしたら……
俺は口から心臓が飛び出しそうな緊張を押し殺し、スっと息を吸い込むと、 「翔……真さ……ん」と恐る恐る声をかけた。
聞こえないって……、俺の声なんて、店内の騒がしさに掻き消されて、絶対届かないって、そう思っていた。
なのに、まるでスローモーションでも見ているかのように振り返ったその人は、俺がずっと会いたくて会いたくて、でも会えなくて、想うだけで胸が苦しくなるくらいに恋焦がれていた人で……
「どう……て、ここ……に……」
いるの……?
言いたいのに、喉の奥に何かが詰まったような感覚に、思うように声が出せない。
「智……樹? 本当に智樹なのか?」
だからその問いかけにも答えられなくて、徐々に霞んで行く視界の中で、静かに俺に向かって伸びて来る手を振り払った。
駄目だ……、まだ駄目だ……。
今の俺には、まだこの手を握る資格なんて……ない。
俺は足をふらつかせながら後ずさると、まるで逃げるようにその場を後にし、転がるように店の外へと飛び出した。
店の裏口にしゃがみ込み、必死で呼吸を整えようと、口に手を当てるけど、やっぱりまともに息なんて出来なくて……
拭っても拭っても、決壊したダムのように溢れて来る涙に頬を濡らしていた。
その時、コツッ……と踵を鳴らす音が聞こえて、「智……樹?」掠れた声が俺の名前を呼んだ。
でも俺は顔を上げることが出来なくて、ゆっくりと距離を縮めて来る足音に、俺はただただ抱えた膝に顔を埋めていた。
そして足音がピタリと止まった瞬間、俺がずっと求めていたあの人の腕が、俺をスッポリと包み込んでいた。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説

あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。


林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる