君の声が聞きたくて

第２４章 tempestoso

６

　「おっちゃんの知り合い？」


　だとしたら、サービスしねぇと……


　「知り合いも何も、俺の甥っ子だよ」
　「え、マジで？」
　「何でも、三年前に赴任して来た上司のために、親睦会を開くんだとさ」


　三年前か……、丁度翔真さんが本社から異動になった頃だな。


　「ふーん。つか、今頃親睦会なの？」

　三年も経ってるのに？

　「いやいや、親睦会ってぇのは表向きで、実際は快気祝いとか何とか言ってたっけな」
　「ああ、なるほど」

　だったら納得かも。

　「ま、どっちにしろ宜しく頼むわ」

　おっちゃんが所々解れたキャップを外し、俺に向かって頭を下げるから、俺は任せとけとばかりに胸をポンと叩いた。


　だっておっちゃんの甥っ子ってことはさ、手抜きなんて出来ないしね？


　俺はおっちゃんから貰ったルアーをポケットに入れ、自転車に跨ると、店まで全速力でペダルを漕いだ。







　「よし、準備完了！　俺、暖簾出して来るわ」

　辻ちゃんを始め、バイト君達がそれぞれのポジションに立つのを確認してから、俺は暖簾を手に入口ドアを開き、店の外に並んでいた客を迎え入れた。

　「予約しておいた上杉っすけど」
　「お待ちしてました」

　俺は苦手な営業用スマイルを浮かべると、上杉と名乗った男と、その後に続く男女の団体を、予め準備しておいた席に案内した。


　つか、おっちゃんの甥っ子だって言うからどんな奴かと思ったら……
　頭はキラッキラの金髪だし、このくそ寒いのに革ジャンにタンクトップだし、首にも耳にも、ついでに指にも、やたらとデカイアクセサリー着けてるし、超ヤンチャそうな奴じゃん。

　おっちゃん、ごめん。
　いくらおっちゃんの甥っ子でも、俺コイツとは絶対友達にはなれそうもないわ……


　俺は心の中でおっちゃんに謝りながら、ドリンクオーダーを取った。


　でも、あれ……？


　「えっと、ご予約の人数は二十人て……」

　何度数え直しても、一人分足りない。

　「ああ、ちょっと野暮用が出来て、遅れて来るから」
　「ああ、なるほど」

　俺は十九人分のドリンクオーダーを手に、厨房へと引っ込んだ。後は辻ちゃんに任せておけば良い。


　誰よりも愛想の良い辻ちゃんならきっと……