君の声が聞きたくて

誠奈

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第23章  passionato

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 「今日は悪かったな。明日はちゃんと出勤するから」

 謝罪をしつつ約束を交わし、上杉がエレベーターに乗り込むまで、玄関先で見送った。
 玄関の鍵を閉め、リビングに戻った俺は、テーブルの上に残された鍵を、失くしてしまわないよう財布の中に入れた。

 明日の朝、マンション管理人でもある上杉の親父さんに直接返せば良いか。


 それにしてもアイツ……、見た目に反して几帳面な性格なのは知っていたが、まさかここまでとは……


 散らかり放題だった以前の様子を思い出せないくらい、すっかり綺麗に片付いた部屋を見回し、俺は申し訳なさと、ちょっとした気恥しさに頭を掻いた。
 そして上杉が買って来てくれた風邪薬を決められた数だけ飲むと、この部屋には不釣り合いの大きなソファに身体を投げ出した。

 昼間しっかり寝たせいか、まっすぐベッドに行く気にはなれなくて、俺はスマホを手に取ると、一日分のメールと着信の確認をした。
 当然のことながら、着信履歴の殆どは会社からの物で、上杉を始め所長からの着信もある。メールもほぼ同じような感じだ。


 一応所長に連絡入れとくか……


 俺は履歴から所長に電話をかけると、急に会社を休んでしまったことを詫びた。

 ところが、所長は俺を咎めるどころか、逆に俺の体調を気遣ってくれて、本社勤務だったら絶対にありえない状況に、申し訳なさが余計に募った。
 しかも俺のために快気祝いの席まで設けてくれると言うんだから驚きだ。

 流石に、ただの風邪で快気祝いは大袈裟過ぎるから、それは丁重にお断りしたが、親睦会と名目を変えてならということで了承した。


 今更親睦を深める必要もないんだけど……


 何せ、社員の殆どは、本社から異動して来た俺を除けば、地元で生まれ育った奴らばかりだし、家だって皆ご近所さん同然だから。

 俺は、とりあえずの日程だけを決め、所長との電話を切った。
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