君の声が聞きたくて

誠奈

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第23章  passionato

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 俺は別に何も恐れてなんか……


 反論しようと思った。けど、出来なかった。
 自分ではそう思っていても、実際心の奥底では、再び智樹と会うことへの恐れ……とは、またちょっと違うのかもしれないが、それと良く似た感情があったのは事実だ。
 ただそれを上杉に見透かされるとは、想像もしていなくて、俺は唇を強く噛み締めたまま、空になった茶碗に視線を落した。

 「俺は……俺はただ、押し付けたくないっつーか……」
 「何を?」
 「だ、だから、あの時と今とでは、置かれてる状況だって違うんだ。もし智樹に新しい恋人でも出来てたら……」


 あれから三年だ。
 人一倍強がりで、でも人一倍寂しがりの智樹だから、俺のことなんてきっともう……


 「確かめたんすか?」
 「いや、それは……」

 聞こうと思えば、松下に聞くことだって出来た。でもそれをしてこなかったのは、現実を知るのが怖かったからだ。
 あの頃のような、身を焦がすような想いは、確かに今はない。それでも俺はまだ智樹を愛してる。だからこそ、仮に智樹が別の人を愛していたとしたら、俺はきっと立ち直れなくなる。
 それが分かってるから、松下の口から智樹の名前が出る度、わざと話を逸らして来た。

 「なんか、ガッカリっすね……」


 えっ?


 「俺、兄貴のことは尊敬してますよ? 仕事出来るし、俺らみたいな下っ端の社員の面倒見も超良いし。でも、男としては最低っすね。つか、情けねぇの……」
 「な……っ!」

 最低……、その一言が、一瞬で俺の怒りの感情に火をつけた。

 俺自身、自分が完璧な人間だなんて思ったことは、ただの一度だってない。人間だから、当然ミスだってするし、行き届かないことだってまだまだ多い。反省することだって、日に何度もある。
 それでも、たかだか二、三年程の付き合いしかない上杉に、最低と言われる程、俺は不誠実な男でもないと思っている。

 俺はテーブルの上で握り締めた拳が、怒りに震えるのを感じた。
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