君の声が聞きたくて

誠奈

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第23章  passionato

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 「本当に気にしなくて良いから」

 俺は肩を落した上杉の背中をポンと叩くと、割れたマグカップを受け取り、捨てるつもりで置いてあった新聞紙に包んだ。

 「怪我は? ない?」
 「はい」
 「そっか、なら良かった。ところで飯って?」

 思えば昨日の夜からだから、丸っと一日水分以外は口にしていない。

 「いや、飯って言っても、レトルト温めただけのモンなんすけど、食います?」
 「そうだな、少し貰おうかな」

 俺がダイニングテーブルに着くと、上杉が温めたレトルトのお粥を器に移し、スプーンを添えて俺の前に置いた。

 「頂きます」

 両手を合わせ、スプーンに掬ったお粥に息を吹きかけてから、口に運んだ。

 「美味っ」

 自分では腹なんか減ってないと思っていたが、実際はそうでもなかったみたいで、俺はお粥を綺麗に平らげると、食べ始める時同様、両手を合わせた。

 「助かったよ、ありがとう」

 俺一人だったら、きっと飯のことなんて考えもしなかっただろう。

 「いえ。それであの、昨日のことなんすけど」
 「ああ、うん」
 「俺、一晩考えたんすけど、その……なんつーか……」
 「俺がどうして男を好きになったのか、ってこと?」

 あまりにも上杉が言いにくそうにしてるから、俺の方から先を促してやると、上杉は小さく頷いてからテーブルの上で握った両手に落した。

 「俺、分かんないすよね。元々はノーマルだった人が、いきなり男を好きになるって、ちょっと理解出来なくて……」

 俺だって最初は自分が信じられなかった。それまでの恋愛対象は全て女性だったのに、何故なんだと……
 でも智樹と出会って知ったんだ。

 「それはさ、昨日も話したと思うけど、本当にたまたまなんだ。たまたま好きになったのが、男だったってだけで、他に理由なんてないよ」


 人を好きになることに理由なんて必要ないから……


 「智樹と出会って、彼の魅力って言うのかな……に惹かれて、気が付いたら、もう後には引き返せないくらい、智樹のことが……」


 好きになっていたんだ。
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