君の声が聞きたくて

誠奈

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第23章  passionato

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 ガシャン、と硝子の割れるような音がして、俺は瞼をパチッと開けた。


 まさか泥棒?

 いや、そんな筈はない。玄関の施錠は毎回二度は確認するし、この時期だから窓だってここ最近は開けたこともない。

 でも……


 俺はもしもの事態に備えて、いつか使うだろうと思って買ったものの、そのままになっていたゴルフバッグからクラブを一本取り出すと、野球のバッドのように構えた。

 なるべく物音を立てないよう、細心の注意を払いながら、寝室とリビングを隔てるドアをそっと開くが、取り敢えずリビングに変わった様子はない。


 となると問題はキッチンか……


 俺はゴクリと息を吞むと、クラブをギュッと握り直し、足音を立てないようキッチンに近づき、カウンター越しに中を覗き込んだ。

 「だ、誰だっ!」

 緊張に震える声で叫び、クラブを頭の上に構えた。
 そしていよいよクラブを振り下ろそうとしたその時、丁度シンクの下辺りだろうか、茶よりも金に近い物体が僅かに動いたのが見えて……

 「えっ、何で?」

 俺は一度は振りかざしたクラブを、ゆっくりとカウンターの上に置いた。

 「どうしてここに? つか、何してんの?」
 「連絡しても出ないから……」

 金色の物体の正体は、驚いたことに上杉(正確には、上杉の髪の毛だが)で、上杉は一瞬唇を尖らせると、金髪を乱暴に掻き乱した。

 「大体、無断欠勤とか良くないっすよ」

 言われて漸く、会社に連絡を入れていないことを思い出した。
 熱があったからと言って、連絡もなしに会社を休むなんて、社会人として許される行為じゃない。

 「すまん、それどころじゃなくて」

 俯き、謝罪と言い訳をする俺に、上杉が溜息を落とす。

 「で、熱は? もう下がったんすか?」
 「え、ああ、多分……」

 曖昧な返事をする俺の額に、上杉が呆れたとばかりに手を当てる。そして自分の額と交互に触っては、険しい顔で何度も首を傾げた。
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