君の声が聞きたくて

第２２章 subito

１６

　そんなある日、後片付けを済ませた店のカウンターに、雅也さんが俺に一枚の大きな紙を広げて見せた。

　「これ……は？」

　見た感じ見取り図……というか、図面のような物にも見えるけど、それが何を意味するのかは、俺にはさっぱり分からなくて、頭の上に無数の？マークを浮かべ、首を傾げた。

　「二号店をね、智樹に任せようと思ってさ」
　「は？」
　
　困惑する俺を他所に、雅也さんが信じられない言葉を口にするから、当然俺の頭の上の？マークはその数を増し、口はまるで閉じることを忘れてしまったかのように開いたままになった。

　「えっと……、言ってる意味が分かんないんだけど？」

　いや、言葉の意味は分かる。
　でもどうして俺なのかが、さっぱり分からない。

　「いやいや、無理だって……。ヤバいって……」

　図面に鉛筆で何かを書き込みながら、事細かに説明を始めた雅也さんを横目に、何度も首を横に振った。
　すると雅也さんがその手を止め、珍しく厳しい表情で俺を見上げると、俺に座るように促した。

　「どうして最初から無理だって決め付けるの？」
　「だって俺……」

　高校の勉強だってろくに出来なかったし、そんな俺に、いくら雇われ店長とは言っても、店の経営なんてとても出来っこない。

　「そんなのやってみなくちゃ分かんないでしょ？　それに、俺は今の智樹だから任せてみようと思ったんだよ？」
　「今の……俺？」
　「そう、今の智樹なら、安心して任せられるかなって。潤一も賛成してくれたし、どう？　やってみない？」
　「潤一さんが？」


　つか、潤一さんが賛成してるってことは、最初から俺に選択する権利なんてないじゃねぇか……


　俺はフッと息を吐き出すと、雅也さんの手から図面を取り上げた。

　「分かったよ、やってみるよ。けどさ、もし失敗しても文句言うなよ？」
　「うん、言わないよ。だって俺、信じてるから。智樹なら絶対大丈夫だって、信じてるから」


　何だよ、その意味不明な自信は……


　「そうと決まったら、これから忙しくなるぞ♪」

　雅也さんが俺の髪をクシャッと掻き混ぜるてから、大袈裟にガッツポーズをするから、俺もそれに応えるように小さく頷いた。