君の声が聞きたくて

第２２章 subito

１４

　もう後ろなんて見ないって、前だけを見て歩いて行くんだって、そう心に決めたばかりなのに、もう後悔ばかりが胸に募って、結局俺は自分の弱さを思い知らされる。


　駄目だな、俺は……


　声に出せない思いを、溜息と一緒に吐き出した。



　すると、そんな俺を見ていた雅也さんが、「まだ好き？」なんて言いづらそうに聞いてくるから、俺もつい戸惑ってしまう。

　まだ翔真さんのことを好きなのか、と問われれば、答えは当然《ＹＥ Ｓ 》なんだろうけど、好きだからってどうかなる問題でもないってことは、俺自身が一番良く分かってる。

　だからこそ、何て答えたら良いのか分からなくなる。

　「自分の気持ちが分かんないんだ。分かんないんだけどさ、会いたくて堪んないんだ」


　例え言葉を交わせなくても、例え以前のようにお互いの気持ちを通わすことが出来なくても、それでも翔真さんに会いたい。

　翔真さんの傍にいたい。


　「そう思うことは許されないことなの？　だから潤一さんは俺に、翔真さんと会わせられないって言ったの？」
　「それは違うと思うよ？」

　俺の問いかけに、静かに首を横に振った雅也さんが、やっぱり静かに答える。

　「じゃあどうして？」
　「潤一が桜木さんとどんな約束を交わしたのかはさ、俺も聞いてないし、聞こうとも思わない。でもさ、桜木さん俺に言ったんだよね……」
　「なんて？」
　「智樹がいつか自分の足でちゃんと歩けるようになって、その時まだ自分を愛してくれてるなら、その時は会いに来て欲しい、って……」

　布団の端を握った俺の手に、雅也さんの手がそっと重ねられる。触れた指の先から、雅也さんの少し高めの体温と、優しさが伝わって来るような気がして、自然と目頭が熱くなる。

　「翔真さんがそんなことを……？」


　知らなかった。翔真さんがそんな風に思っていてくれたなんて、全然知らなかった。


　「だからさ、焦らなくて良いからさ、少しづつで良いんだからさ、歩いてみないか、自分の足で」


　次に翔真さんに会う時に、恥ずかしくない自分でいるために、自分の足で……