君の声が聞きたくて

誠奈

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第22章  subito

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 予定の時間に仕度を済ませ、しっかり靴まで履いて玄関で潤一さんを待つ。
 診察時間は予約済みだから、そう慌てる必要もないけとさ、自分で九時って言ったくせに、結局自分が一番最後なんだから……


 どうせあれこれ服を選んでるか、髪型が決まらないとか、鏡の前であれこれやってんだろうな。ま、これもいつものことなんだけど。


 「悪い、遅くなった」

 普段仕事に行く時とは違う、やたらと派手なコートを羽織った潤さんが、シューズボックスから最近買ったばかりの靴を取り出す。

 「ねぇ、マジでそれ履いてくつもりなの?」
 「そのつもりだが?」

 いや、いいんだよ?
 靴自体は格好良いし、潤一さんには似合ってるし、派手なコートとも合ってると思う。


 でもさ、『ちょっとスタッズ付き過ぎじゃない?』なんて、口が裂けても言えないな。


 「よし、行こうか」



 玄関ドアを開け、雅也さんが先に外へと出る。鍵を閉めるのは、最後に出た潤一さんの役目。
 雅也さんの部屋に居候するようになってから気付いたことの一つで、勿論、車に乗る時だって二人には暗黙の了解みたいのがあった……筈、なんだけど……

 「前に乗らないの?」

 何故か後部座席の真ん中に我が物顔で座った俺を押し退けるようにして、雅也さんが強引に俺の隣に乗り込んでくる。

 「つか、狭いし……」

 さっきまで広々としていた空間が急に狭くなり、唇を尖らせ苦情を言う俺を、雅也さんは更に奥に押しやりドアを閉める。

 「たまには良いでしょ?」なんて笑いながら……







 雅也さんのマンションから病院までは、車で凡そ40分。
 その間も俺達の間に会話はなく、あまりの沈黙の長さに、俺の睡魔が呼び起こされる。

 こっそり窓の外を見ているフリをして、特大の欠伸を一つした俺に、「寝てても良いが、もうすぐ着くぞ?」と潤一さんがミラー越しに言う。

 「うん、分かってる」


 ちょっとだけだから……


 俺は静かに瞼を閉じると、持ち込んだお気に入りのブランケットを肩まで引き寄せた。
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