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第21章 loco
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夜半過ぎに帰宅した俺は、伽藍堂がらんどうと化した部屋に寝袋を広げた。早々にベッドや寝具の類を送ってしまったため、慌ててホームセンターで購入した物だ。
俺はスーツを脱ぎハンガーにかけると、寝巻き替わりのスウェットの上下に着替え、広げた寝袋の中に潜り込んだ……が、やっぱりそれだけじゃ寒くて、エアコンの温度を、いつもより少し高めに設定してから漸く眠りに就いた。
この部屋で過ごすのも、今日を除けば残り一日か、なんてことを考えながら……
昼過ぎになって、管理会社に頼んで手配して貰った清掃業者からの電話で目を覚ました俺は、あと一晩過ごすのに必要な物だけを纏め、不要な物は事前に借りておいた車に詰め込んだ。
後は業者に任せておけば良いから、引っ越しとは言っても楽なもんだ。
俺は一人、近所の相原さんの店へと向かった。
その時間なら、まだ智樹が出勤していないことは知っていたから。
相原さんは、俺が異動になったことを話すと、酷く驚いた様子で……
「潤一とは今ちょっと冷戦中で……」と、白い歯を覗かせながら苦笑した。
上手くいってないとは聞いていたが、まさか本当だったとはな……
俺は内心困惑しつつも、出されたお茶を一気に飲み干した。
「それで、いつ?」
「明後日には……」
「そんなに早く? じゃあ……」
その先の言葉を、相原さんは咄嗟に飲み込んだように見えたが、俺には相原さんが何を言いたかったのかが直ぐに分かった。
「智樹に会うつもりはありません」
この先も多分……
「それで本当に良いんですか?」
想像通りの問に、「はい」と答える代わりに、俺は黙って頷いた。
「まだ、好きなんですよね?」
「ええ、好きですよ」
全てを捨てても良いくらいに……
でも俺にはもう彼を愛する資格はない。
「あの、智樹にはこのことは黙っておいて下さい」
少なくとも、彼が本当の意味で立ち直ったと思える時までは……
相原さんと約束を交わし、店を出た俺はショッピングモールと併設した駅に向かい、あの日智樹が歌っていた場所に座り、真冬にも関わらず驚く程澄み渡った青空を見上げた。
本当にさよならだ、智樹。
そう呟きながら……
俺はスーツを脱ぎハンガーにかけると、寝巻き替わりのスウェットの上下に着替え、広げた寝袋の中に潜り込んだ……が、やっぱりそれだけじゃ寒くて、エアコンの温度を、いつもより少し高めに設定してから漸く眠りに就いた。
この部屋で過ごすのも、今日を除けば残り一日か、なんてことを考えながら……
昼過ぎになって、管理会社に頼んで手配して貰った清掃業者からの電話で目を覚ました俺は、あと一晩過ごすのに必要な物だけを纏め、不要な物は事前に借りておいた車に詰め込んだ。
後は業者に任せておけば良いから、引っ越しとは言っても楽なもんだ。
俺は一人、近所の相原さんの店へと向かった。
その時間なら、まだ智樹が出勤していないことは知っていたから。
相原さんは、俺が異動になったことを話すと、酷く驚いた様子で……
「潤一とは今ちょっと冷戦中で……」と、白い歯を覗かせながら苦笑した。
上手くいってないとは聞いていたが、まさか本当だったとはな……
俺は内心困惑しつつも、出されたお茶を一気に飲み干した。
「それで、いつ?」
「明後日には……」
「そんなに早く? じゃあ……」
その先の言葉を、相原さんは咄嗟に飲み込んだように見えたが、俺には相原さんが何を言いたかったのかが直ぐに分かった。
「智樹に会うつもりはありません」
この先も多分……
「それで本当に良いんですか?」
想像通りの問に、「はい」と答える代わりに、俺は黙って頷いた。
「まだ、好きなんですよね?」
「ええ、好きですよ」
全てを捨てても良いくらいに……
でも俺にはもう彼を愛する資格はない。
「あの、智樹にはこのことは黙っておいて下さい」
少なくとも、彼が本当の意味で立ち直ったと思える時までは……
相原さんと約束を交わし、店を出た俺はショッピングモールと併設した駅に向かい、あの日智樹が歌っていた場所に座り、真冬にも関わらず驚く程澄み渡った青空を見上げた。
本当にさよならだ、智樹。
そう呟きながら……
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