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第21章 loco
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泣くつもりなんてなかった。
でも気付いたら、俺は松下の胸に顔を埋め、声を上げて泣いていた。
自分は異常者で、普通の人間じゃないんだと……
そう認めるのが怖かった訳じゃなく、明確な理由なんてない、ただ涙が溢れて止まらなかった。
「あのね、サクラちゃん?」
女性的な仕草や口調とは全く不釣り合いな、男性的な大きな手が俺の髪を撫でる。
「アタシね、勿論ジュンイチちゃんやトモちゃんもそうだと思うんだけどね、物心ついた時から他人とは違うんだって思いながら生きて来たの。同級生の男の子達が、クラスの女の子に胸ときめかせてる時、アタシはその男の子に胸をときめかせてたの。その時アタシ気付いたのよ、アタシは皆とは違うんだ、って」
顔を上げた俺の前に、綺麗に畳んだティッシュが差し出される。
俺はそれを受け取ると、涙を拭いたついでに鼻をかみ、裕也さんの手に返した。裕也さんはそれを嫌な顔一つすることなく受け取ると、足元のゴミ箱に投げ入れた。
「辛くはなかったんですか?」
自分が他人とは違う……
そう気認めることが、幼い心にどれだけの痛みと、深い傷を与えたことか……
そこにはきっと、俺なんかじゃ到底想像も出来ない程の苦悩があったに違いない。
「そりゃ、最初は辛かったわよ? でもね、クヨクヨしてたって仕方ないじゃない? だから諦めたのよ、世間で言う《普通》を生きることをね?」
諦めなんて、そんな簡単な一言で済まされないような、苦悩に満ちた日々が……
「でもね、普通であることを諦めたら辞めたで、今度は周りがアタシを色眼鏡で見るようになったわ。男のくせに男が好きなんて、変態だって」
「そんな、酷い……」
「そうね、酷いと思うでしょ? でもそれが現実なの。トモちゃんと出会うまで、女の人しか愛して来なかったサクラちゃんには分かるでしょ?」
「あっ……」
図星……、だった。
智樹と出会う以前の俺は、自分とは違う生き方をする人を、異端の目で見てきた。
自分とは一生交わることのない人種だって。
でも気付いたら、俺は松下の胸に顔を埋め、声を上げて泣いていた。
自分は異常者で、普通の人間じゃないんだと……
そう認めるのが怖かった訳じゃなく、明確な理由なんてない、ただ涙が溢れて止まらなかった。
「あのね、サクラちゃん?」
女性的な仕草や口調とは全く不釣り合いな、男性的な大きな手が俺の髪を撫でる。
「アタシね、勿論ジュンイチちゃんやトモちゃんもそうだと思うんだけどね、物心ついた時から他人とは違うんだって思いながら生きて来たの。同級生の男の子達が、クラスの女の子に胸ときめかせてる時、アタシはその男の子に胸をときめかせてたの。その時アタシ気付いたのよ、アタシは皆とは違うんだ、って」
顔を上げた俺の前に、綺麗に畳んだティッシュが差し出される。
俺はそれを受け取ると、涙を拭いたついでに鼻をかみ、裕也さんの手に返した。裕也さんはそれを嫌な顔一つすることなく受け取ると、足元のゴミ箱に投げ入れた。
「辛くはなかったんですか?」
自分が他人とは違う……
そう気認めることが、幼い心にどれだけの痛みと、深い傷を与えたことか……
そこにはきっと、俺なんかじゃ到底想像も出来ない程の苦悩があったに違いない。
「そりゃ、最初は辛かったわよ? でもね、クヨクヨしてたって仕方ないじゃない? だから諦めたのよ、世間で言う《普通》を生きることをね?」
諦めなんて、そんな簡単な一言で済まされないような、苦悩に満ちた日々が……
「でもね、普通であることを諦めたら辞めたで、今度は周りがアタシを色眼鏡で見るようになったわ。男のくせに男が好きなんて、変態だって」
「そんな、酷い……」
「そうね、酷いと思うでしょ? でもそれが現実なの。トモちゃんと出会うまで、女の人しか愛して来なかったサクラちゃんには分かるでしょ?」
「あっ……」
図星……、だった。
智樹と出会う以前の俺は、自分とは違う生き方をする人を、異端の目で見てきた。
自分とは一生交わることのない人種だって。
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