215 / 337
第20章 delicato
10
しおりを挟む
「俺……さ、和人に言っちゃったんだよね……」
フッと息を長く吐き出した潤一さんが、視線を天井に向けたまま、掠れた声で言う。
そしてその声は、
「雅也は渡さない、って。雅也は和人のことなんて何とも思ってない、って。だからもう雅也には近付くな、って……」
次第に微かな震えを帯び始め、
「馬鹿だよな…… 雅也の愛は俺に向けられてるのに、ちゃんと分かってるのに、なのに和人に嫉妬して、傷付けて……」
遂には嗚咽へと変わった。
天井を仰ぎ見た頬を涙が濡らし、顎先を伝って雅也さんの手の甲にポツポツと落ち続け、
「俺が和人を殺した……」
それは雅也さんの手が静かに離れて行くまで、止まることはなかった。
『殺した……って、どういうこと? だって和人は……』
遺書や、自殺に繋がるような原因を記した物こそ残ってなかったけど、あの日現場検証に来た警察の人だって、明らかな自殺だって言ってたのに……
なのにどうして自分が殺したなんて言うの?
「あの日……、和人が死ぬ前日さ、和人が突然訪ねて来たんだ。ただその日に限って雅也は早番で。でも和人の奴、約束してあったからって言って聞かなくてさ……」
そんなに遠くはない過去を、涙で濡れた長い睫毛に縁取られた瞼を閉じて振り返る潤一さんの横で、雅也さんが何かを思い出したかのように、ハッとしたような顔をする。
「確かあの日は……そうだ、先延ばしになってた誕生日プレゼントを買ってやるって、だから一緒に買い物に行く約束をしてたんだ。だけど急な団体予約が入って、結局断りの連絡もする余裕がなくて……」
その日のことなら、俺も良く覚えてる。
なんたって、その予約が入って来たおかげで、元々連休で取っていた筈の休日が、一日に減らされたんだから……
しかも前日飲み過ぎたせいか、二日酔いも酷くて……
色々と重なったからかな、その日のことは、数ヶ月経った今でもしっかりと記憶している。
フッと息を長く吐き出した潤一さんが、視線を天井に向けたまま、掠れた声で言う。
そしてその声は、
「雅也は渡さない、って。雅也は和人のことなんて何とも思ってない、って。だからもう雅也には近付くな、って……」
次第に微かな震えを帯び始め、
「馬鹿だよな…… 雅也の愛は俺に向けられてるのに、ちゃんと分かってるのに、なのに和人に嫉妬して、傷付けて……」
遂には嗚咽へと変わった。
天井を仰ぎ見た頬を涙が濡らし、顎先を伝って雅也さんの手の甲にポツポツと落ち続け、
「俺が和人を殺した……」
それは雅也さんの手が静かに離れて行くまで、止まることはなかった。
『殺した……って、どういうこと? だって和人は……』
遺書や、自殺に繋がるような原因を記した物こそ残ってなかったけど、あの日現場検証に来た警察の人だって、明らかな自殺だって言ってたのに……
なのにどうして自分が殺したなんて言うの?
「あの日……、和人が死ぬ前日さ、和人が突然訪ねて来たんだ。ただその日に限って雅也は早番で。でも和人の奴、約束してあったからって言って聞かなくてさ……」
そんなに遠くはない過去を、涙で濡れた長い睫毛に縁取られた瞼を閉じて振り返る潤一さんの横で、雅也さんが何かを思い出したかのように、ハッとしたような顔をする。
「確かあの日は……そうだ、先延ばしになってた誕生日プレゼントを買ってやるって、だから一緒に買い物に行く約束をしてたんだ。だけど急な団体予約が入って、結局断りの連絡もする余裕がなくて……」
その日のことなら、俺も良く覚えてる。
なんたって、その予約が入って来たおかげで、元々連休で取っていた筈の休日が、一日に減らされたんだから……
しかも前日飲み過ぎたせいか、二日酔いも酷くて……
色々と重なったからかな、その日のことは、数ヶ月経った今でもしっかりと記憶している。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
俺と両想いにならないと出られない部屋
小熊井つん
BL
ごく普通の会社員である山吹修介は、同僚の桜庭琥太郎に密かに恋心を寄せていた。
同性という障壁から自分の気持ちを打ち明けることも出来ず悶々とした日々を送っていたが、ある日を境に不思議な夢を見始める。
それは『〇〇しないと出られない部屋』という形で脱出条件が提示される部屋に桜庭と2人きりで閉じ込められるというものだった。
「この夢は自分の願望が反映されたものに違いない」そう考えた山吹は夢の謎を解き明かすため奮闘する。
陽気お人よし攻め×堅物平凡受けのSF(すこし・ふしぎ)なBL。
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる