君の声が聞きたくて

第２０章 delicato

７

　でも、どれだけ和人が雅也さんを愛しても、雅也さんがその愛を受け入れることはなかった。


　辛かったよな？
　苦しかったよな？


　どんなに強く想っても、たとえ想いを伝えられたとしても、相手に受け入れて貰えなかったら、それはただ苦しいだけの想いで終わってしまうことがある。
　きっと和人もその苦しいだけの想いから逃れたくて、だから自ら命を……


　でもさ、和人？

　お前が望んだ愛の形とはちょっと……いや、大分違うかもしんないけどさ、弟以上の存在にはなれなかったかもしんないけどさ、雅也さんは確かにお前のこと愛してたよ？

　だってその証拠に……


　「俺さ、兄弟のいる生活ってのに憧れてはいたけどさ、実際弟が出来たと思ったら和人のあの性格だろ？　もうどう接して良いのか分かんなくてさ。でもさ、そんな愛想もないし、ゲームばっかしてるしさ、口を開けば憎まれ口はっか叩く弟だったけど、凄く可愛く思えたんだよな」

　和人のことを語る雅也さんは、とても嬉しそうな顔をしてる。今まで見たこともないような、幸せそうな顔で……

　でもそれもほんの一瞬で……

　「俺はそんな和人に嫉妬してたけどね」

　いつの間に帰って来たのか、突然した潤一さんの声に、俺も雅也さんも咄嗟に視線を部屋の入口に向けた。

　「潤一、今日は桜木さんの所に泊まるって……」

　言いかけたところで、雅也さんがシマッタといった様子で口を手で塞いだ。


　っていうか、俺に潤一さんの行き先を言いたがらない時点で、大体予想はしてたけどね？


　「うん、そのつもりだったんだけどね。桜木の奴色々あって、今日は一人になりたいって言うから」


　翔真さんに何かあったの？


　聞きたい言葉が、喉まで出かかっては、飲み込まれて行く。


　俺が気にしたところで、俺にはもう関わりのないことなのに……


　「そっか。っていうか、嫉妬って？　潤一がどうして和人に嫉妬なんて……」

　雅也さんが身体を起こし、ベッドの端に腰をかけたその横に、潤一さんが腰をかけた。