君の声が聞きたくて

誠奈

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第19章  stringendo

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 さよ……なら……
 きっともうここへ来ることは、恐らくないだろう。親父やお袋の顔を見ることも、多分……

 だから、さようなら、そしてありがとう……


 心の中で謝罪と感謝の言葉を繰り返し、俺はリビングを出ようとした……が、「待ちなさい」あまり感情を見えない親父の声が俺を引き止めた。

 「座りなさい」
 「え、で、でも…」
 「いいから座れ」

 いつもと変わらない、微かな厳しさを含んだ声に、俺は開いたドアを閉じ、まだ温もりの残る椅子に腰を下ろした。

 「お前の話は分かった。お前がその……男を好きだ、ってことも」
 「親父……」
 「ただ、だからといって簡単に《ああそうですか》と言えることでもないのは、お前も立派な大人なら分かるな?」
 「はい……」

 当の本人である俺ですら、自分自身の気持ちを理解するまでには相当な時間をかけたし、それなりに苦悩だってしてきた。
 だから当然、親父やお袋に今すぐ理解して貰えるとは思わないし、理解して欲しいとは……そりゃ多少は思うけど、無理にとは望んでいない。
 寧ろ、理解出来る方がおかしいとさえ思っている。

 「一度その彼とやらを家に連れて来なさい」
 「はい……って、え?」
 「話はそれからだ。今日はもう遅い、お前も早く休みなさい」

 そう言ってゆっくり席を立った親父が、静かにリビングを出て行こうとする。

 「ちょ、ちょっと待って、意味分かんないんだけど……」

 その少しだけ小さくなった背中を追いかけようと思った。でもお袋の手が俺を引き止めた。

 「で、でも……」


 俺、まだ話してないことがあるのに……


 「私もお父さんの意見に賛成よ? 一度、そのお相手の方の都合の良い時にでも家に連れてらっしゃい。今後のことを考えるのは、それからでも遅くないから。ね?」


 違うんだ、そうじゃなくて……


 親父やお袋が俺の気持ちを理解してくれようとしてくれてるのは分かるし、その気持ちはとても嬉しい。


 ただ俺と智樹はもう……
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