君の声が聞きたくて

誠奈

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第18章  espresso

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 「だからもう自分を責めるな」

 俯いてしまった顔を両手で挟まれ、無理矢理上向かせられると、森岡先生のいつになく優しい笑顔がそこにあって……


 もう良いんだ。
 もう罪の意識に苛まれて生きて行かなくても良いんだ。


 そのほんの一瞬で思った。

 勿論、全てが許されたわけじゃないし、和人の苦しみに気付いてやれなかったことに対する申し訳なさだけは、ずっと俺の胸の中でしこりとなって残る。
 でも、それでも森岡先生に胸の内を打ち明けたことで、俺の気持ちが軽くなったことは確かで……

 『あり……がとう』

 俺が言うと、森岡先生はニヤリと笑って、両手で俺の顔をパシンと叩いた。

 『ってぇ……』

 突然のことに、何が起きたのか分からないまま咄嗟に両頬を押さえる俺を見て、森岡先生がプッと吹き出す。

 「痛てぇか? 悪ぃ悪ぃ」

 なんていつも通りの軽い口調で言いながら、思わず涙目になる俺の髪をクシャッと掻き混ぜた。


 つか、森岡先生はそうでもないと思ってるかもしんないけど、けっこう力入ってたからね?


 「さて、と……」

 口を尖らせ、ヒリヒリとする頬を摩る俺を見て、森岡先生がクスクスと笑いながら席を立つ。そして窓辺に立つと、白衣のポケットから取り出したスマホでどこかに電話をかけ始めた。
 電話の相手は、多分だけど潤一さんだ。坊主を迎えに来いとか、そんな声が聞こえたから。


 別にさ、同じ建物の中にいるんだから、一人でも大丈夫なのにね?
 ま、休日の薄暗い病院の中を、たとえ目と鼻の先であっても一人で歩くのは、やっぱ怖かったりするんだけどさ。


 「ああ、それともう一つ」

 電話を終え、再び席に着いた森岡先生が、タブレット端末の画面上に指を忙しく滑らせる。そしてある所でピタリと指を止めると、一瞬いかにも高級そうな腕時計に視線を落としてから、「いや、また今度にしよう」そう言ってタブレットを閉じた。

 その時、ほんの一瞬ではあったけど、俺の目に飛び込んで来た画像に、俺の思考が急停止をした。
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