君の声が聞きたくて

誠奈

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第18章  espresso

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 俺は、目の前に置かれた缶コーヒーを手に取り、両手で握り締めた。
 冷蔵庫から取り出したばかりのコーヒーはとても冷たくて、ずっと握り締めていたら、身体の芯から凍えてしまいそうになる。


 あの日は冷たい缶コーヒーがとても気持ち良かったのに……


 『あの日……』

 俺は再びペンを手に取り、真新しい紙の上に走らせた。





 あの日は凄く暑くて、少し自転車を走らせただけで、着ていたシャツは直ぐに汗だくになった。

 早く帰って和人の喜ぶ顔が見たいとも思ったけど、流石に暑さに耐えられなくて、アパートから程近いコンビニに立ち寄った。
 そこで冷たい缶コーヒーを買って、店先で一気に飲み干すと、冷たいコーヒーが身体に染み渡って、それまでビッショリとかいていた汗が、ちょっとだけ引いたような気がした。

 俺はキャップを被り直すと、再びサドルに跨り、自転車のペダルを漕ぎ始めた。身体が冷えて少しだけ楽になったせいか、アパートまでの距離が凄く近くに感じた。

 俺はリュックを背中に背負うことなく、ケーキの入った小さな箱と一緒に手に下げ、階段を駆け上がった。


 いつもと同じように、一段飛ばしで。




 「和人君が待ってると思ったら、きっと気持ちも弾んでたんだろうな?」

 『うん。俺が誕生日祝ってやることなんて、それまでただの一度もなかったから、和人がどんな顔すんのかなって、驚いてくれるのかなって、凄く楽しみだった』


 そう……、玄関のドアを開けた、あの瞬間までは。






 ドアノブを捻ると、玄関ドアに鍵がかかっていないことは直ぐに分かった。
 俺と違って用心深い和人が鍵をかけ忘れていることを不思議に思いながらも、俺が帰ることを分かっていて鍵を開けておいてくれたんだと、そう思った。

 俺は和人に気付かれないように、なるべく物音を立てないように、玄関ドアをそっと開けた。


 そしてその瞬間……


 俺の手からリュックとケーキの入った箱が滑り落ちた。
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