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第18章 espresso
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「そうだな、確かに君は和人君の死に直面した結果、ショックのあまり声を失った。そうだったね?」
『はい……』
「以前にも話してくれたけど、もう一度……その時の状況を、今度はもっと詳しく話してくれないかな?」
俺はフッと息を吐き出すと、手にしたペンをキュッと強く握った。
あの日のことは、ふとした時にその光景が蘇ることがあるくらい、俺の脳裏には強烈な記憶としてしっかりと焼き付いている。
そう……、あの日は丁度和人の誕生日から一ヶ月が過ぎた、夏の暑い日だった。
俺は先延ばしになっていた和人への誕生日プレゼントを買いに、一人で駅前のショッピングモールへと出かけた。元々俺が買ったサンダルを、その履き心地の良さに感心した和人も欲しいと言っていたから。
バイトの身には、少々値の張るものでもあったけど、和人が喜んでくれるなら金は惜しくはなかった。
でも残念なことに、和人の誕生日前日に見に行った時には売り切れで、次に入荷するのが早くても一ヶ月先になるってことだった。
仕方なく入荷したら連絡を貰えるよう店員に伝え、その連絡が来たのが、丁度あの日の午前中だった。
俺は待ちに待って漸く手に入れた和人へのプレゼントを手に、自転車のペダルを漕いだ。
途中、ケーキを買うのを忘れていたことを思い出して、偶然通りがかったケーキ屋に立ち寄った。
ショーケースには、季節のフルーツを飾った物や、極々シンプルな物まで、色とりどりのケーキが並んでいて、元々甘い物が好きな俺は、どれも美味そうで目移りしてしまったのを覚えている。
でも良く考えたら、甘い物が好きな俺と違って、和人はあまり甘い物が得意じゃないから、ケーキなんか買ってったところで、喜んでくれるかどうかは、正直疑問ではあった。
もし喜んでくれなかったら……
「一応聞いてみるか」
俺は一旦店の外に出て、和人に電話をかけた。
ケーキくらいで電話なんて……って和人は言うだろうけど、俺だって馬鹿馬鹿しいと思うけど、和人の誕生日を祝うためだから、和人に聞くのが一番だって思ったから。
『はい……』
「以前にも話してくれたけど、もう一度……その時の状況を、今度はもっと詳しく話してくれないかな?」
俺はフッと息を吐き出すと、手にしたペンをキュッと強く握った。
あの日のことは、ふとした時にその光景が蘇ることがあるくらい、俺の脳裏には強烈な記憶としてしっかりと焼き付いている。
そう……、あの日は丁度和人の誕生日から一ヶ月が過ぎた、夏の暑い日だった。
俺は先延ばしになっていた和人への誕生日プレゼントを買いに、一人で駅前のショッピングモールへと出かけた。元々俺が買ったサンダルを、その履き心地の良さに感心した和人も欲しいと言っていたから。
バイトの身には、少々値の張るものでもあったけど、和人が喜んでくれるなら金は惜しくはなかった。
でも残念なことに、和人の誕生日前日に見に行った時には売り切れで、次に入荷するのが早くても一ヶ月先になるってことだった。
仕方なく入荷したら連絡を貰えるよう店員に伝え、その連絡が来たのが、丁度あの日の午前中だった。
俺は待ちに待って漸く手に入れた和人へのプレゼントを手に、自転車のペダルを漕いだ。
途中、ケーキを買うのを忘れていたことを思い出して、偶然通りがかったケーキ屋に立ち寄った。
ショーケースには、季節のフルーツを飾った物や、極々シンプルな物まで、色とりどりのケーキが並んでいて、元々甘い物が好きな俺は、どれも美味そうで目移りしてしまったのを覚えている。
でも良く考えたら、甘い物が好きな俺と違って、和人はあまり甘い物が得意じゃないから、ケーキなんか買ってったところで、喜んでくれるかどうかは、正直疑問ではあった。
もし喜んでくれなかったら……
「一応聞いてみるか」
俺は一旦店の外に出て、和人に電話をかけた。
ケーキくらいで電話なんて……って和人は言うだろうけど、俺だって馬鹿馬鹿しいと思うけど、和人の誕生日を祝うためだから、和人に聞くのが一番だって思ったから。
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